疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第353話 変わってしまったもの

 家に帰ると、俺はすぐに自分の部屋に上がった。

 鞄を床に放り投げて、机の前に座る。

 パソコンを立ち上げる。ファンが回り始める音が静かな部屋に響く。起動画面が表示される。

 

 ワードを開くと、真っ白な画面が広がり、カーソルが点滅している。

 ここに、もう一度書く。

 疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す、を書き直す。

 

 指がキーボードの上に置かれる。

 深く息を吸って吐き、記憶を引きずり出す。

 二周目で書いたとき、どんな風に始めたのか。

 

 プロローグはどうだったか。

 一文目は何だったか。

 

 思い出せ。思い出せ。

 

 頭の中で、記憶が動き出す。

 問題ない。全部、鮮明に残っている。

 気が付けば勝手に指が動いていた。

 

 

 

『ひたすらにキーボードを打ち続ける。』

 

 

 

 最初の一文を打ち込んだ瞬間、身体が熱くなった。

 

 これだ。この感覚。

 執筆している実感。

 物語を紡いでいる実感。

 

 指がキーボードを叩く。

 リズムを刻むように規則正しく、タイピング音が部屋に響く。

 二周目での経験が、身体に染み込んでいる。

 

 執筆体力。執筆速度。全部、一周目とは段違いだ。

 一周目では考えられなかったペースで、文章が生まれていく。

 画面に文字が並んでいく。白かった画面が、黒く塗りつぶされていく。

 展開は全部、頭に入っている。

 

 プロローグから第一章。ヒロインである幼馴染友紀との再会。高校デビュー。漫研への入部。

 シーンが次々と浮かんでくる。

 会話も、描写も、全部覚えている。

 記憶を頼りに、ひたすら打ち込んでいく。

 途中で手を止めることもない。迷うこともない。

 

 ただ、思い出したままを、画面に映していく。

 時間の感覚がなくなっていく。

 指は動き続け、キーボードを叩く音だけが静かな部屋に響いている。

 

 気がつけば、あっという間に一万文字を超えていた。

 まだたった十分の一にも満たない。もっと先に。

 

 二万文字。三万文字。

 止まらない。止められない。

 ヨシノリとの日々を思い出しながら、俺はひたすら書き続ける。

 

 あの笑顔。あの声。あの温もり。

 

 もう一度、全部を物語の中に閉じ込める。

 そうすれば、失わずに済む。そうすれば、また会える。

 物語の中で、ヒロインが笑っている。

 俺の書いた物語の中に、彼女は確かに存在している。

 だから、書き続ける。止まるわけにはいかない。

 

「お兄ちゃん。ご飯できたよ」

 

 ドアをノックする音が聞こえた。

 愛夏の声だ。

 俺は一瞬、手を止める。

 画面を見ると、四万文字を超えていた。

 時計を見る。もう夜の八時を回っている。

 気づけば、三時間以上ぶっ通しで書いていた。

 

「今行くよ」

 

 一度書いた物語の再執筆にしてもなかなかのペースで書けた。このまま今日は一気に書ききってしまおう。

 部屋を出て、階段を降りる。

 

 リビングに入ると、テーブルに料理が並んでいた。

 味噌汁。野菜炒め。ご飯。

 愛夏は既に席についていて、黙々と食べている。

 こちらを見ることもない。

 

「いただきます」

 

 俺も席について、箸を手に取る。

 一分一秒が惜しい。とにかく急いで摂取しなければ。

 作ってくれた愛夏には悪いが、米の上に野菜炒めをまとめて乗せ、口の中へと放り込む。

 軽く咀嚼するのと同時に味噌汁で胃に流し込んでいく。

 

「ごちそうさまでした」

 

 ものの数分で食事を終え、食器を流しへ持っていく。

 洗い物をしながら、愛夏の様子を窺う。

 相変わらず、表情も、態度も、何もかもが冷たい。

 

 二周目の愛夏とは、まるで別人だ。

 あちらでは、よく喋った。俺のことも心配してくれた。

 ヨシノリと一緒に料理を作ってくれたこともあった。

 

 この一周目の世界では違う。

 最低限の会話しかしない。必要なこと以外、口を開かない。

 兄妹なのに、まるで他人同然の距離感だった。

 

「あー……いつもありがとな。おいしかったぞ」

 

 試しに、声をかけてみる。

 愛夏が顔を上げる。

 

「……お兄ちゃんに味なんてわかるわけないじゃん。お父さんやお母さんと一緒でバカ舌なんだから」

 

 それだけ言うと、すぐに視線を戻して、また黙々と食べ始める。

 やっぱり、駄目か。

 二周目のような関係には、戻れそうもない。

 この世界では、俺と愛夏は冷え切った関係のまま。

 

 それが、この世界の普通なんだ。

 

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