疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
最初に書いたのは、二つの線。
「一周目の世界と、二周目の世界」
それぞれの線に、ラベルをつける。
「一周目は、今私たちがいる場所。田中君が最初にいた世界で、友達もいなければ、小説家デビューもできなかった世界、と」
ケイコ先輩の手が、サラサラと動く。
「二周目は、現実をベースに田中君が書いた小説が具現化した世界。幼馴染ちゃんがいて、仲間がいて、充実した日々を送っていた、と」
そこまで書いて、ケイコ先輩が振り返る。
「田中君が三十二歳のときに執筆による過労死。それがきっかけで魂が二周目の世界の主人公のスタート地点。つまり、高校入学前の田中君に転生した。ここまであってる?」
「会ってますけど……ケイコ先輩、体験したわけでもないのに、よくここまで完璧にまとめられますね」
「経験したことがないことしか書けないなんて作家としては三流だからね。むしろ、経験してないからこそしっかり設定詰めようってならない?」
「あー……なんか、しっくりきました」
よく、なろう系小説はいじめの描写だけがリアルで恋愛にリアリティがないなんて揶揄されるが、実際のところアレは読者のニーズに合わせてわかりやすく調整しているだけだし。
なんならみんなも経験しているからわかるだろ、と経験がある部分の描写を省いた結果、読者にリアリティがないなんて言われたりする。
作家としては、もどかしいところだ。
「で、田中君は二周目の世界から弾き出されて、一周目に戻ってきた。理由は?」
「世界の修正力です。俺が、ラブコメ主人公としての役割から外れたから、世界に邪魔だと判断されたんです」
「そっか、ヒロインと恋仲になったらラブコメは終わっちゃうもんねぇ」
あの……今は俺の感情に修正力が働いてないので、デカデカと〝カナタ♡ヨシノリ〟って書かれるとさすがに恥ずかしいんですけど……!
「二周目の世界には、修正された田中君のコピーみたいなのがいて世界は続いている。伊代ちゃんの話を聞くに執筆マシーンと化した舞台装置、だっけか」
「そうです。もう一人の私からはそう聞いてます」
伊代の言葉に頷くと、ケイコ先輩は線を引いて情報を繋げていく。
その手際は驚くほど早い。
「二周目の登場人物をまとめようか」
ケイコ先輩が新しいスペースに書き始める。
「ヨシノリちゃん。ナイト君。アミちゃん。喜屋武さん。ゴワス君」
名前を並べていく。名前というか、あだ名ばっかりだから、本名も補足で書いておこう。
「それぞれの特徴と、一周目との差異もできればほしいところだね」
「それは俺が書きます」
ケイコ先輩からバトンタッチしてペンを持つ。
ヨシノリは二周目では、幼馴染として再会。一周目では疎遠になったままで、再会するのは成人式。その頃には太っている。本名は佐藤由紀。
ナイトは二周目では、親友。一周目では妹である愛夏の旦那。本名は田中騎志。
アミは二周目では、俺を好きになってくれた素敵な女の子。一周目では推しであるVtuberAMURE。本名は佐藤愛美麗。
喜屋武は二周目では、大切な友人でアミのバンドメンバー。一周目では、おそらくアミが名前にトラウマを覚えた元凶の一人のまま。本名は喜屋武鳴久。
ゴワスは二周目では、共に夢を目指す仲間。一周目では、世話になった上司の弟というくらいしか接点がない。本名は斎藤隆盛。
思い出せる限りの情報をホワイトボードへ書き込んでいく。
「カナぴ。描いてみた」
さっきから黙々とGペンを走らせていたトト先が、ホワイトボードへみんなの似顔絵を貼っていく。さっきの話聞いてただけでこんなに近い印象の顔描けるのかよ。やっぱりトト先ってバケモンだ。
「なんか刑事ドラマの推理パートみたいですね」
小さく笑いながら伊代が、ぽつりと呟く。
「あー、わかる」
ケイコ先輩が、笑う。
「事件の真相を解明する感じだよね」
「事件って言われると、なんか犯人扱いされてる気がするんですけど」
俺が言うと、ケイコ先輩が首を振った。
「犯人じゃなくて、被害者だよ。君は」
その言葉が、妙に優しくて、少しだけ胸が温かくなった。
ケイコ先輩が、さらに書き込みを続ける。
俺の実体験。伊代のもたらした情報。
トト先とケイコ先輩の現状。
一周目と二周目での違い。
それらが綺麗にまとめられていった。
「こんなところかな」
ケイコ先輩がマーカーを置く。
やっぱりこの人二周目じゃないのに、このスペックなのバケモノだわ。
ケイコ先輩の整理能力。理解力。
二周目でも感じていたが、この世界でも変わらない。
並行世界でも、ケイコ先輩はケイコ先輩だった。
「じゃあ、次は問題点の洗い出しだね」
ケイコ先輩が、新しいスペースにマーカーを走らせる。
「田中君が二周目の世界に戻るには、何が必要か」
それは今、俺が最も知りたいことだった。