疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第357話 過去改変

 どうすれば、ヨシノリのもとへ戻れるのか。

 どうすれば、あの世界に帰れるのか。

 

「そもそも、どうやったら戻れるんでしょうね」

 

 答えなんて、わからない。

 異世界転生の逆。並行世界への移動。

 そんなこと、誰にもわからない。

 

「発想を逆転させてみよっか」

 

 ケイコ先輩が、マーカーでホワイトボードを叩く。

 

「そもそも、弾かれた先がどうしてここなのか、を考えたらいいんじゃないかな」

「ここ、ですか?」

「うん」

 

 俺の言葉に、ケイコ先輩が頷く。

 

「田中君は死んだことで異世界転生した。つまり、この時点で起きたのは時間の移動じゃない。あくまでも作中世界への転生、だよね」

「そうなりますね」

 

 死んで魂が移動しただけで、過去に戻ったわけじゃない。

 別の世界に転生したのだ。

 

「ラブコメ世界から弾かれて出てきた先は時期が近い高校二年生。それはなぜ?」

 

 ケイコ先輩の問いに、俺は言葉に詰まる。

 確かに、おかしい。

 俺が死んだときは、三十二歳だった。

 

 二周目では、高校入学前の十五歳に転生した。

 なら弾かれたとき、なぜ高校二年生の十六歳に戻ってきたのか。

 三十二歳の自分に戻ってもよかったはずだ。

 あるいは、死んだ直後の状態に戻るとか。

 

 でも、実際には二周目で弾かれたときと時期が近い高校二年生になっている。

 

「わ、私、わかるかもです」

 

 伊代が、おずおずと手を挙げる。

 全員の視線が、伊代に集まる。

 伊代は慌てて手をバタバタと振った。

 

「あの、もう一人の私が夢で言ってたんです」

「何て?」

 

 ケイコ先輩が、身を乗り出す。

 

「二周目の世界は、もう一つの現実世界として安定しつつあったって」

 

 その言葉に、部室が静まり返った。

 全員が、神妙な面持ちで伊代を見ている。

 伊代は慌てて、さらに手を振る。

 

「だ、だから! そうなのかなぁって!」

 

 伊代の声が、少しだけ上ずっている。

 緊張しているのが、よくわかる。

 

「作中世界転生。基本不可逆なイメージ。それは現実が作った世界だから」

 

 トト先が、ぽつりと呟く。

 

「どういうことですか?」

 

 俺が聞くと、今度はケイコ先輩が答えた。

 

「ゲームの世界に転生するって、ゲームの中に入るって感じがするじゃない?」

「はい」

「それって世界が線みたいに並んでいるんじゃなくて、箱の中に箱があるみたいな感じだと思うんだ」

 

 ケイコ先輩が、ホワイトボードに図を描く。

 大きな箱。その中に、小さな箱。

 

「現実世界が大きな箱。作中世界が小さな箱」

 

 ケイコ先輩の指が、小さな箱を指す。

 

「作中世界に転生するっていうのは、大きな箱から小さな箱に入るってこと」

「なるほど」

「普通は小さな箱から大きな箱には戻れない。一方通行だから」

 

 ケイコ先輩が、矢印を描く。

 大きな箱から小さな箱への矢印。

 逆向きの矢印は、ない。

 

「田中君は不可逆のはずの一周目の世界に戻ってきた。それはなぜか」

 

 その問いに、俺は考える。

 なぜ、戻ってこれたのか。

 

 ふと、記憶が蘇る。

 

 高校一年生の夏休みに、みんなで鴨川に旅行に行ったとき。

 一周目の未来のみんなが、少しの間だけ二周目のみんなに入っていた。

 愛夏も、ヨシノリも。ナイトも、アミもだ。

 みんな、一瞬だけ別人になっていた。

 

「あの、思い出したんですけど……」

「どうしたの?」

「高校一年生の夏休み。旅行に行ったとき、一周目の未来のみんなが少しの間だけ二周目のみんなに入ってたんです」

「どういうこと?」

「みんな一周目の未来を知っているみたいでした。それこそ、みんながタイムリープしてきたみたいでした」

 

 その記憶は、鮮明に残っている。

 あのときは、何が起きているのかわからなかった。

 でも、今なら理解できる。

 

「AMUREに至っては文化祭の準備のときでも降りてきたし」

 

 文化祭の準備期間。

 アミが、俺の推しであるVtuberとしての人格になったときがあった。

 今になって思えば、あれも一周目の未来のアミが降りてきたんだと思う。

 

「それって」

 

 ケイコ先輩の目が見開く。

 

「外の世界から中の世界に降りてきたってことじゃない?」

「はい。そう思います」

「つまり」

 

 ケイコ先輩が、ホワイトボードに新しい図を描く。

 二つの箱が、横に並んでいる。

 同じ大きさの箱。

 

「二周目の世界は、その状態から脱しつつあった。箱の中の箱じゃなくて、横並びの線。並行世界として存在している」

 

 ケイコ先輩の言葉に、俺は息を呑む。

 並行世界。

 二周目の世界は、もう作中世界じゃない。

 現実世界と同じレベルの、もう一つの現実になっている。

 

「だから、田中君は戻ってこれたんだ」

 

 ケイコ先輩が矢印を描く。

 二つの箱を結ぶ、双方向の矢印。

 

「並行世界なら、行き来できる可能性がある」

「でも、どうやって?」

 

 俺が聞くと、ケイコ先輩は少しだけ困った顔をした。

 

「なんかこう……Dメールとか、そういうの?」

「いやまあ、タイムリープって言ったらあの作品ですけど、こっちはSFじゃなくてがっつり異世界転生ですよ」

 

 これがポニテ馴染の選択か……うーん、締まらないセリフだ。

 

「待って、ここ一周目。カナぴ、過去改変してる」

 

「「あっ」」

 

 トト先の指摘に、俺とケイコ先輩も気づいた。

 今この瞬間、とんでもないことが起きているのだ。

 

「どういうことです?」

 

 一人だけ状況が呑み込めていない伊代が首を傾げた。

 

「二周目は並行世界だけど、一周目は紛れもない現実世界の過去――既に未来は変わり始めているんだ」

 

 それは、俺が死んだ未来への道筋が今、この瞬間も変わっているということだ。

 

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