疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第362話 サイネリアは高校生の味方

 駅前のサイネリアに入る。

 店内はそれなりに混んでいた。学生や主婦が思い思いに食事をしている。窓際の四人席が空いていて、俺たちはそこに座った。

 メニューを開く前に、ゴワスが口を開く。

 

「そういや、まだ名前聞いてなかったな」

「俺は田中奏太。慶明高校の二年だ」

「慶明って頭いいな。俺は郷西高校の二年だ。っと、名前は斎藤隆盛、よろしくな」

 

 ゴワスが手を差し出してくる。

 俺はその手を握る。温かくて力強い手だった。バスケで鍛えた手だとわかる。

 

「こっちは神野塚伊代。慶明の一年で、部活の後輩」

「よろしくお願いします!」

 

 伊代が元気よく頭を下げると、ゴワスが軽く手を振った。

 

「おう。よろしく」

 

 それから俺たちはメニューを開いて注文を決める。

 

「俺はミラノ風ドリアで」

「私は香味チキンと、あとカルボナーラダブルサイズで!」

 

 伊代が嬉しそうにメニューを指さす。

 そうか。この時代にはまだダブルサイズあったのか……。

 

「お前、結構食うな」

「食べますよ! 育ち盛りですから!」

「その割には細い身体してるけどな」

 

 ヨシノリほどではないが、伊代もなかなかに食いしん坊だったようだ。

 ちなみに、これがヨシノリだったらドリアとティラミスが追加されるところだった。

 

「仲いいなお前ら」

 

 俺たちのやりとりを眺めていたゴワスが、メニューに視線を戻す。

 

「じゃあ、俺はハンバーグステーキセットのライス大盛で」

 

 店員を呼んで注文を済ませる。待っている間、ゴワスがテーブルに肘をついた。

 

「それで、お前ら何であんなところにいたんだ?」

「まあ、後輩にせがまれてこの辺を案内しててな。で、ちょうどゲーセンがあったから入ったってとこだ」

「ゲーム好きなのか?」

「それなりにやりこむタイプではあったぞ。ご――斎藤は?」

「最近、よく行ってる」

 

 ゴワスの声が沈む。何か引っかかるものがあるらしい。

 

「部活はやってないのか? パッと見、運動部っぽいけど」

 

 その問いに、ゴワスの表情が曇った。視線が窓の外に逸れる。

 

「サボってる」

「バスケ部ってサボっても大丈夫なのか?」

「おい、なんで知ってんだ」

 

 ゴワスが警戒するように俺を見る。

 やばい。二周目の知識で口が滑った。

 

「その体格なら、バスケかバレーかなって思っただけだ。実際そうだろ?」

「ああ、そりゃそうか」

 

 ゴワスが納得したように頷く。テーブルの上で指を組んで、少しだけ間を置いてから続けた。

 

「バスケはやってる。一応、な」

「一応?」

「最近、面白くなくてよ」

 

 ゴワスが視線を落とす。組んだ指に力が入っているのが見える。

 

「どんなに頑張っても、勝てない奴がいる」

 

 その言葉に、キクりんの影が見えた。

 ゴワスのコンプレックス。どれだけ努力してもキクりんには敵わない。それがゴワスを苦しめている。

 

「だから、ゲーセンに逃げてるってわけか」

「逃げてるって言うな」

 

 ゴワスが少しだけムッとした顔をする。眉が寄って、口元が引き締まる。

 

「まあ、否定はしねぇけど」

 

 その言葉が正直だった。

 ゴワスは自分の弱さを認めている。逃げていることもわかっている。

 それでもどうしようもないから、ここにいる。

 

「ゲームは、楽しいか?」

 

 俺の問いに、ゴワスが顔を上げる。

 

「楽しいぞ。対戦に集中してりゃ気が紛れる」

 

 即答だった。表情が変わる。さっきまでの沈んだ顔はそこにはなかった。

 料理が運ばれてくる。湯気が立ち上って、チーズの香りやデミグラスソースの香りが鼻をくすぐる。

 

「いただきます」

 

 三人で食事を始める。伊代が香味チキンを頬張って、満面の笑みを浮かべた。

 

「美味しいです!」

「良かったな」

 

 ゴワスが苦笑する。その表情が少しだけ柔らかくなっている。

 俺はミラノ風ドリアをスプーンで掬う。

 サイズが小さいとはいえ、圧倒的に安いからなぁ。高校生の味方すぎるだろ、サイネ。

 

「なあ、田中」

 

 ゴワスがペペロンチーノを食べながら言う。

 

「兄弟とかいるか?」

「妹がいる」

「そうか。俺は姉ちゃんがいる」

 

 ゴワスがフォークを置いてから水を飲む。

 

「お姉さんとは、仲いいのか?」

「普通。お前は?」

「微妙……というより、嫌われ気味だ」

 

 俺は正直に答える。一周目の愛夏との関係は冷え切っている。

 

「妹とか、面倒くさそうだな」

「お前の姉ちゃんは?」

「小言がうるせぇ。たぶん、お前と同じだ」

 

 ゴワスはため息をついて笑った。

 そこには、うんざりとした様子はあまり感じられず、比較的リリさんとゴワスの関係性が悪くないものだと感じられた。

 

「田中は、ゲーム上手いのか?」

「そこそこ。モンスターテイルズとかクリーチャーハンターはプレイ時間三桁いってる程度だけどな」

「おっ、まあまあやってんじゃん。なら、今度対戦でも協力プレイでも何でもいい。遊ぼうぜ」

「ああ。もちろんだ」

 

 俺は頷く。これで、ゴワスとの関係は築けた。

 食事を終えて、会計を済ませる。俺が三人分を支払うと、ゴワスが申し訳なさそうな顔をした。

 

「悪いな」

「いいって。助けてもらったお礼だから」

「そうか。じゃあ、ありがとな」

 

 ゴワスが軽く頭を下げる。それから連絡先を交換して、スマホにゴワスの名前が登録される。

 

「じゃあ、俺はこれで」

 

 ゴワスが手を振って去っていく。その背中を見送りながら、俺は小さく息を吐いた。

 

「先輩、良かったですね!」

 

 伊代が嬉しそうに言う。

 

「二周目と違って、穏便な出会いに感謝だな」

「おん、びん?」

 

 伊代は宇宙猫のような表情を浮かべる。

 過程がアレなだけで、ゴワスとの出会いは穏便だっただろ。

 

「あいつがポニテ馴染の続きを書くことになるわけないってのはわかってる。でも、この一周目でも関係は築いておきたかった」

 

 俺は現在進行形で現実世界を上書きして未来を変えている。

 仮に俺が二周目の世界に戻ったあとも、この世界は続いていく。

 

「また友達になれるといいな」

 

 俺は一周目の世界も書き直す。

 だから、大切な人たちは全員関係を築いておきたかった。

 

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