疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
家に帰ると、玄関を開ける前にリビングから漂う匂いで夕食が用意されていることがわかった。
靴を脱いで廊下を歩く。リビングのドアを開けると、愛夏がテーブルに料理を並べているところだった。
「ただいま」
「おかえり」
愛夏の返事は短い。こちらを見ることもなく、皿を置く手が止まらない。
「悪い。飯は食ってきた」
その言葉に、愛夏の手が止まる。
ゆっくりとこちらを向いた。表情は無表情だ。
「早めに連絡してよ」
「マジで、すまん……」
「まあ、お兄ちゃんだから仕方ないか……」
愛夏がため息をつく。呆れているのが声のトーンでわかる。
お兄ちゃん、と呼んでくれているだけマシと思うしかない。
実際、一周目の大学生のときなんて〝あんた〟呼びだったわけだし。
「サイネで友達と食ってきたんだ」
愛夏の反応を見るため、試しに言ってみる。
「ふーん」
ダメだった。
愛夏は興味なさそうに答えると、皿を片付け始めた。
「本当だって」
「別に、嘘とは言ってないけど」
「信じてないだろ」
「信じてるよ」
愛夏の声は平坦だ。信じているようには聞こえない。
料理をラップで包んで、冷蔵庫にしまっていく。
その動作は機械的で、感情が読み取れない。
「ボッチのお兄ちゃんに友達ができたんだねー。良かったじゃーん」
棒読みだった。
完全に信じていない。
まあ、無理もない。
一周目の俺は、友達なんていなかった。学校でも一人で過ごして、誰とも深く関わらなかった。家の様子から愛夏がそれを察していないはずがない。
「手は洗っときなよ。最近、風邪流行ってるみたいだし」
それだけ言うと、愛夏は一人分の料理を取り出して座り、黙々と夕飯を食べ始めた。
「わかったよ。手、洗ってくる」
「うん、そうして」
短く言うと、愛夏は再びご飯を口に運び始めた。
手洗いうがいをしてから自分の部屋に入る。
ドアを閉めた瞬間、胸に重いものが沈んだ。
「……どうしたもんかな」
最低限の会話しかできない。兄妹なのに、まるで他人みたいだ。
いや、俺がそういう風に接してきたそれが一周目の世界なのだ。
せめて高校一年からなら、まだやり直しようはあったのだろうが、いつの間にか過ぎた一年という時間が作った溝は想像以上に大きかった。
「そんなこと言ってる場合じゃないか」
気を引き締めて机の前に座る。
パソコンを立ち上げると、画面には途中まで書いたポニテ馴染のリメイク版が表示される。
愛夏との会話は、いったん諦めよう。
今は執筆に集中するしかない。
キーボードに指を置いて、タイピングを始める。
二周目の記憶を引っ張り出しながら、今日のゴワスとの出会いも、一周目に戻ってきたこの状況も、物語に織り込んでいく。
それが、二周目の世界に繋がる鍵になるはずだ。
時間が過ぎていくのを忘れて執筆に没頭する。窓の外が暗くなり、夜が深まっていく。
キーボードを叩く音だけが、静かな部屋に響き続ける。
ふと手を止めて画面を見ると、二万文字近く書いていた。
まだ足りない。もっと書かないといけない。
俺は再びキーボードに向かう。
絶対に諦めない。必ず戻る。
そのためにも、俺は書き続けるんだ。