疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
学校からの帰り道、俺は一人で大島へ向かった。
漫研のみんなは他の関係者を探してくれている。
俺は喜屋武のことを確認するため、二周目でバイトしていた沖縄料理店へ向かうことにした。
がちま屋。
喜屋武のバイト先であり、大島にある沖縄料理屋だ。
扉の前で俺は深呼吸をする。
一周目の喜屋武に会う。そう思うと、自然と緊張感があった。
何せ、俺が関わらなかったことで、彼女がどれだけ変わってしまっているかを知るのが怖いのもあった。
店のドアを開けると、カランカランとベルが鳴る。
「いらっしゃいませ」
店内に入ると、カウンターの奥に見覚えのある人物がいた。
エプロンをつけて、皿を拭いている。
見間違えるはずもない、喜屋武だ。
こちらに気づいて顔を上げる。
「お一人様ですか?」
その声は落ち着いたものだった。
標準語で話しているし、あまり訛りを感じない。
二周目の喜屋武とは違う。
明るくて、元気で、誰とでもすぐに打ち解ける。
そんな喜屋武の姿はそこにはなかった。
もの静かで、おっとりとした雰囲気。まるで別人のようだ。
「ええ、一人です」
「カウンターでよろしいですか?」
「お願いします」
俺は、カウンター席に座る。
喜屋武が、おしぼりと水を出してくれる。
「メニューです。ごゆっくりどうぞ」
その所作は丁寧で、店員として慣れている感じがする。
一体、この一年でどれだけ努力をしたのだろうか。
一年経った影響なのか、喜屋武は標準語を身につけていた。
一周目では、沖縄弁を封印して標準語で話すことを選んだのだろう。
メニューを開く。
ゴーヤチャンプルー、ソーキそば、海ぶどう。沖縄料理が並んでいる。
「ソーキそばと、ゴーヤチャンプルーをお願いします」
「ソーキそばと、ゴーヤチャンプルーですね。かしこまりました」
喜屋武が伝票に書き込む。その手つきが慣れている。
「ありがとうございます。少々お待ちください」
喜屋武が厨房に注文を通す。
それからカウンターに戻ってきて、グラスを拭き始めた。
この妙な気まずさが一周目なんだと、実感させてくる。
「あの……もしかして高校生ですか?」
俺は話しかけてみる。
喜屋武が顔を上げる。少しだけ驚いたような表情。
「はい。そうです」
「やっぱり。制服じゃないから、わからなかったけど」
「バイトのときは私服なんです」
喜屋武が、小さく笑う。その笑顔が、ほんの少しだけ二周目の喜屋武に似ている。
「何年生?」
「二年です」
「俺も二年。同い年だな」
「そうなんですか」
喜屋武が表情を和らげる。同い年と知って若干営業モードが解けたようだ。
「勉強もあるのに、バイトまでやってて偉いな。俺なんて部活ばっかだよ」
「いえ、そんな」
喜屋武が、謙遜するように首を振る。
「家の手伝いみたいなものですから」
「家の?」
「はい。店長が親戚なんです」
いや、二周目でも聞いてないんだけど!
冷静に考えれば、沖縄の離島から状況してきて一人暮らしなんて、東京に長く住んでる親戚でもいない限り無理だわ。
……まあ、わざわざ話すことでもないか。
「俺、この辺に住んでるから気になって寄ってみたけど、いい雰囲気の店だな」
「ありがとうございます」
喜屋武が照れくさそうに笑う。
その表情が、ほんの少しだけ明るくなった気がする。
厨房から声がかかる。
「少々お待ちください」
喜屋武が、料理を取りに行く。
しばらくして、ソーキそばとゴーヤチャンプルーが運ばれてくる。湯気が立ち上って、いい匂いがする。
「お待たせしました」
「サンキューな」
箸を手に取ってソーキそばを一口すする。
やっぱり、こういう郷土料理は普通の飯よりおいしく感じる。
普通のうどんやそばとは違う味がするだけで、たいていのものはおいしいからな。
「うっま!」
「ありがとうございます」
喜屋武が嬉しそうに笑う。
その笑顔を見て、俺は話を続ける。
「名札、喜屋武って書いてあるけど、沖縄出身?」
「あ、はい」
喜屋武が、少しだけ恥ずかしそうに頷く。
「東京に来たの、最近で」
「そうなんだ。芸能人にもいるよな、新垣とか」
「あー、新垣なら友達にもいましたよ。沖縄には多い苗字です」
「沖縄の苗字ってかっこいいよな。比嘉とか、我那覇とか、南風原とか、知念……仲宗根もだったっけか」
有名どころの苗字を挙げると、喜屋武が目を丸くする。
「えっ、詳しいですね」
「これでも文芸部兼漫研部員だからな。創作に使えそうなカッコイイ苗字はリサーチ済みだ。もちろん、苗字だけじゃなくて方言もな」
「ほう、げん、もですか」
方言にコンプレックスのあった喜屋武は、息を呑む。
「個性ってのは大事だからな。俺なんて東京出身の田中だぞ?」
俺は肩をすくめる。
「ちなみに、幼馴染の母親の旧姓は月足で博多出身だ。一回、イタズラで怒られたときなちょっと博多弁出てたけど、やっぱ個性っていいよなぁって思ったよ」
「わじってるばー!? 反省せんが!?」
「いや、反省はしてるよ?」
「全然反省そーんさー……あっ」
ついツッコミに力が入って沖縄弁が出てきた喜屋武は、慌てて自分の口を覆った。
「ごめんなさい、つい方言が……」
「いやいや、いいよ。そういうのもっとちょうだい。小説の糧になる」
「えぇ……」
喜屋武は若干引いていた。
「ちょっと待ってください。今、普通に沖縄弁通じてましたよね?」
「そりゃ勉強はしたからな」
「……なんか、嬉しいです」
喜屋武が、本当に嬉しそうに笑う。
その笑顔が、二周目の喜屋武に近づいた気がした。
「そうだ。またこの店来てもいいか? 小説の取材も兼ねて」
「ええ、構いませんよ。むしろ大歓迎です」
喜屋武が、笑顔で答える。
その笑顔を見て安心した。
「貴重な沖縄ネイティブだからな。作家を目指している以上、この縁を逃すつもりはない」
「えー、言語目当てですか?」
それから喜屋武との会話は弾んだ。
喜屋武も乗ってきたのか、たまに沖縄弁を混ぜてきたりと、二周目で過ごした時間のような楽しさがそこにはあった。
食事を終えて、会計を済ませる。
「ごちそうさまでした。また来るよ」
「ありがとうございました。お待ちしてます」
店から外に出るのと同時に、喜屋武は深く頭を下げた。
「あれ、これって普通にナンパでは?」
なんかやらかした気がしないでもないけど……大丈夫、喜屋武は二周目でも友達の関係だったし、何とかなるだろう。
ちなみに、夕飯の連絡をすっぽかしたことで、愛夏にはまた怒られてしまった。