疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第366話 土台作り

 それから、俺はがちま屋に何度か通った。

 小説の取材という名目で、喜屋武と話す機会を増やしていく。

 最初は控えめだった喜屋武も、徐々に心を開いてくれているようだ。

 沖縄弁も自然と出るようになってきた。

 会話の中で笑い声が増えて、表情も明るくなっていく。

 ある日の夕方。店内は空いていて客は俺だけだった。

 カウンターに座ってソーキそばを食べていると、喜屋武が話しかけてきた。

 

「あの、田中君」

「どうした」

「ちょっと、相談したいことがありまして」

 

 喜屋武の表情が、いつもより真剣だった。いつもの柔らかい雰囲気が消えて、何かを決意したような目をしている。

 俺は箸を置いて、喜屋武を見る。

 

「何でも聞くよ」

「実は……」

 

 喜屋武が視線を落とす。グラスを拭く手が止まっている。

 

「友達のことなんです」

「友達?」

「同じクラスの子で。佐藤さんっていうんですけど」

 

 その名前を聞いた瞬間、胸が詰まる。

 佐藤。アミのことだ。

 

「その子、今、学校に来てなくて」

 

 喜屋武の声が小さくなる。カウンター越しに聞こえる声は、罪悪感に満ちていた。

 

「名前が原因で、いじめられてたんです」

「名前?」

「愛美麗って書いて、アフロディーテって読むんです」

 

 喜屋武が苦しそうに言う。グラスを拭く手が、僅かに震えている。

 

「変わった名前だから、からかわれて。最初は冗談みたいな感じだったんですけど、だんだんエスカレートしていって」

 

 その言葉を聞いて、胸が痛む。

 二周目では、アミはその名前を乗り越えた。

 

 この世界では違う。

 俺やヨシノリ、ナイトがいなかったから、アミはフォローされることなくいじめられた。

 

「わん、そのグループに所属してたんです」

 

 喜屋武が顔を上げる。

 その目には、後悔の色が浮かんでいた。濡れているわけではないが、何かを堪えているような目だ。

 

「止められませんでした。ダメなことはダメって、しっかり言いたかったんですけど……」

 

 喜屋武の声が震える。握りしめた拳が、カウンターの上に置かれている。

 

「怖かったんです。自分がターゲットになるのが。だから、見てるだけで……」

 

 その言葉に、俺は何も言えなかった。

 喜屋武を責めることはできない。

 そう思うのは当然だ。誰だって、自分が傷つくのは嫌だ。

 

「佐藤さん、今、引きこもってるんです。学校にも来ないし、誰とも会わないって」

「それで、どうしたいんだ」

「ちゃんと謝りたいんです」

 

 喜屋武が真っ直ぐに俺を見る。

 その目に、迷いはない。

 

「わんは何もできなかった。止めることもできなかった。でも、せめて謝りたい」

 

 その目に、決意が宿っている。

 

「勇気が出なくて、ずっと行けなかったんです。でも、田中君と話してて思ったんです」

「何を」

「個性は大事だって。方言も、名前も、全部その人らしさだって」

 

 喜屋武が小さく笑う。その笑顔は、自嘲的な色を帯びている。

 

「田中君が、わんの沖縄弁を肯定してくれたみたいに。わんも佐藤さんが困ってるときに、肯定の言葉をかけてあげるべきだったって」

 

 その言葉を聞いて、俺は頷いた。

 

「なら行動しないとな」

「え?」

「謝りに行ってこい。少なくとも、直接いじめてたわけじゃないことくらいわかってもらえるだろ」

 

 喜屋武が少しだけ安心したような顔をする。肩の力が抜けて、表情が柔らかくなる。

 

「本当に、ですか」

「保証はしかねる。その代わり、もしダメだったら飯奢りってことで」

 

 まあ、仮に今回でダメだったとしても喜屋武にとっては変わるきっかけになる。

 少なくとも、二周目の世界に戻った後、俺がちゃんとアフターフォローせざるを得ない土台は作っておかなくちゃな。

 

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