疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
翌日の放課後。
俺は港区の住宅街にいた。
目的地はアミの家だ。
白い外壁の一軒家。
門の前には小さな花壇があって、花が植えられている。ここに、アミが住んでいる。
少し離れた場所から、門の前を見る。
電柱の陰に身を潜めて、様子を窺う。通行人に怪しまれないように、スマホをいじるふりをする。
家の前には、喜屋武の姿があった。
緊張した面持ちで、インターホンの前に立っている。
何度も深呼吸をして、手を伸ばしては引っ込めている。
ポケットから手を出したり入れたりを繰り返している。迷っているのが、遠目にもわかる。
俺は電柱の陰に隠れたまま、様子を見守る。
喜屋武がようやく決心したように、インターホンを押す。
しばらく待つ。風が吹いて、喜屋武の髪が揺れる。街路樹の葉が音を立てる。
返事はない。
もう一度押す。今度は少し長めに。
また待つ。喜屋武の肩が僅かに震えている。
緊張しているのか、それとも不安なのか。
それでも、返事はない。
喜屋武が諦めかけたそのときだった。
玄関のドアが開く。
そこに、見覚えのある人物が立っていた。
長い茶髪。二周目とは違い、頬がこけて、顔色が悪かった。
服装も適当な感じで、パーカーにジャージ。外出着ではない。部屋着のまま出てきたのだろう。
遠目に見ても、やつれているのがわかる。
二周目の明るくて、元気で笑顔が素敵なアミとは、まるで別人だ。
目の下にクマができている。
表情は暗い。生気が感じられない。
まるで、世界の全てに疲れ果てたような顔をしている。
髪も手入れされていなくて、ぼさぼさだ。
喜屋武が深く頭を下げる。
声は聞こえないが、口が動いている。謝っているんだろう。
喜屋武の背中が丸まって、本当に申し訳なさそうにしている。
アミは最初、無表情だった。
喜屋武の話を黙って聞いている。腕を組んで、視線を逸らしていた。
それは拒絶しているようにも見えた。門の前に立ったまま、一歩も動かない。
喜屋武の話が続く。身振り手振りを交えて、必死に何かを伝えようとしている。その姿は真剣そのものだ。
やがて、アミの表情が少しだけ変わる。
眉が動く。口元が僅かに緩む。
腕組みをしていた手が、少しだけ力を抜く。
そして、小さく頷いた。
喜屋武が顔を上げる。その表情が、僅かに明るくなった。
二人が何か話している。さっきよりも距離が近い。
アミが一歩前に出た。腕組みが解けて、両手が下に降りている。拒絶の姿勢が消えているように見えた。
その表情は、さっきよりも柔らかい。
拗れていない。ちゃんと話し合えている。
俺は息を吐く。知らず知らずのうちに、息を詰めていたらしい。胸が少しだけ軽くなる。
アミも、喜屋武が悪いわけじゃないと理解しているんだ。
止められなかったことは事実だが、喜屋武自身がいじめに加担していたわけじゃない。
傍観者だった。それは確かに問題だが、加害者ではない。
だから、和解できる。
アミと喜屋武の会話が続く。時々、アミが小さく笑う。
その笑顔が、ほんの少しだけ二周目のアミに似ている。
喜屋武も笑っている。二人の間の空気が、柔らかくなっていく。
やがて、喜屋武が再び頭を下げる。今度は感謝の意を込めているように見える。
アミも小さく頭を下げた。その仕草は穏やかだった。
それから喜屋武がアミの家を離れる。
その背中は、さっきよりも軽そうだった。
肩の荷が下りたような、そんな感じがする。
歩き方にも弾みがある。来たときとはまるで全然違う。
俺は電柱の陰から出る。
喜屋武がこちらに気づいた。目を丸くして、驚いた表情になる。
「田中君!」
俺は手を振る。
「見てたんですか」
「ちょっとな。心配だったから」
「ありがとうございます」
喜屋武が笑顔になる。
その笑顔は本当に明るかった。
心の底から晴れやかな笑顔だ。目元が緩んで、頬が上がっている。
二周目でよく見た明るい笑顔だ。
「謝れました。佐藤さん、許してくれて」
「良かったな」
喜屋武が深く息を吐く。
肩が上下して、緊張が解けていくのが見える。
喜屋武は、握りしめていた手をゆっくりと開く。
「ずっと、心に引っかかってたんです。でも、やっと言えました」
「これで、前に進めるな」
喜屋武が頷く。
その表情は晴れやかだった。
曇りがない。重荷を下ろした人間の顔だ。
「田中君のおかげです……にーふぇどー」
「俺は何もしてないよ」
「いえ、してくれました」
喜屋武が真っ直ぐに俺を見る。その目は、感謝の色に満ちている。
「背中を押してくれました。勇気をくれました」
その言葉が、胸に沁みる。
「これからも、がちま屋に来てくださいね」
「また行くよ」
俺は笑って答える。
喜屋武が手を振って去っていく。
その背中を見送りながら、俺は小さく息を吐いた。
喜屋武とアミ、二人とも繋がった。
少しだけ、この世界が二周目に近づいた気がする。
俺はアミの家を見る。
窓の一つに、人影が見えた。
カーテンの隙間から、外を見ている。
アミだろうか。
喜屋武の背中を見送っているのかもしれない。それとも、俺のことを見ているのか。
その姿を見て、俺は心の中で呟く。
また会おう、アミ。
今度は、ちゃんと話そう。
お前の笑顔を、もう一度見たいから。
俺はアミの家に背を向けて歩き出した。