疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第369話 ヨシノリはヨシノリ

 ヨシノリが俺の隣の席に座ったことで、箸を持つ手が震える。

 かろうじて俺には気づいていないのか、ヨシノリはカウンターに肘をついてあくびをしていた。汗をかいているのか髪が額に少し貼りついている。

 部活帰りに着替えずにジャージ姿のまま、といったところだろうか。一周目では、おそらくバスケ部に力を入れていたようだし、コスプレに全力を注いでいた二周目と違ってより運動部女子らしさがあった。

 二周目との大きな違いと言えば、化粧をしていないことだろう。トレードマークだったオレンジ色のアイシャドウすらしていない。

 

「……あー、そういうことか」

 

 一周目の成人式で再会した際、そのときのヨシノリのイメージが強く印象に残っていたのだ。

 あのとき、ヨシノリはオレンジ色のアイシャドウをしていた。

 それがやけに印象に残っていて、忘れられなかった。

 

 だからポニテ馴染を書くときに、その印象を反映させた。

 結果として二周目のヨシノリは、オレンジ色のアイシャドウをトレードマークのようにいつもしていたのだ。

 

「ん?」

 

 ヨシノリの視線がこちらを向いたので、俺は気づかれないように急ぎ気味で麺をすする。

 

「んっ、ごほっ」

 

 しかし、慌てすぎて咽てしまった。

 

「あの、大丈夫?」

 

 隣から心配そうな声がかかる。

 咳き込みながら顔を上げると、ヨシノリがこちらを見ていた。

 眉が寄って、口元が少しだけ開いている。

 目が合った瞬間、ヨシノリの目が思いっきり見開かれた。

 

「もしかして……カナタ?」

 

 名前を呼ばれた。バレてしまったようだ。

 俺は咳を収めようと必死になる。

 

「ヨシ、ノリ……げほっ、ごほっ」

「水、飲む?」

 

 ヨシノリが自分の水を差し出してくる。

 

「いや、大丈夫」

 

 自分の水を飲むと、冷たい水が喉を通ってようやく咳が収まる。むせた感覚が残っていて、喉がヒリヒリする。

 

「なんか、ごめんね? 驚かせちゃったみたいで」

「いや、大丈夫大丈夫だ」

 

 身構えているときに死神はこないとは言うが、本当だったらしい。地元だと言うのに、ここ最近が順調すぎて完全に油断していた。

 

「久しぶりだね、カナタ」

「おう、久しぶり」

 

 何とか答えたが、声が少しだけ震えてしまった。

 それは喉がまだ落ち着いていないせいだけじゃない。

 ヨシノリだ。目の前に、ヨシノリがいる。

 この世界のヨシノリ。一周目のヨシノリだ。

 

「てか、よくあたしだってわかったね」

「疎遠になったとはいえ中学まで一緒だったんだぞ。わからないほうがおかしいだろ」

 

 二周目初見のときと違って、ばっちりメイクを決めているわけでもないからな。

 

「そっか……うん、そっか」

 

 俺の言葉にヨシノリは、何とも形容しづらいふにゃふにゃとした表情を浮かべる。

 

「部活帰りか?」

「うん。女バスの練習が長引いちゃって」

 

 ヨシノリがジャージの袖で額の汗を拭う。

 

「お腹空いちゃったから、ここ来たんだ」

「ほーん……そういうね」

 

 会話が途切れる。

 二周目では毎日のように話していたというのに、何を話せばいいのかわからない。

 一周目では、俺とヨシノリは疎遠になった幼馴染でしかない。

 

「カナタも、まるちゃまにはよく来るの?」

「たまにだな。今日も久しぶりに来たって感じ」

「そっか。私もたまに来るんだ。ここのラーメン、美味しいよね」

 

 俺は再びラーメンに視線を落として麺をすする。

 緊張のあまり味がわからなくなってきた。

 

 いや、それは元々か。

 手を伸ばせば届く距離に、ヨシノリがいる。

 だけど、この時点で深く関わるのはまずい。

 

 今後の展開にどう影響するかわからないからだ。

 未来への影響を考えたら接触は慎重にならないといけない。そう決めていたはずなのに、俺は自然と言葉を紡いでいた。

 

「なんていうか、アレだ。中学のときは悪かった」

「え?」

 

 突然の謝罪に、ヨシノリは驚いたように目を見開く。

 

「俺、中一のときから距離置きがちだったろ」

「それは……そうだね」

「まあ、思春期っていうのか? そういう類のやつで、女子の幼馴染と一緒にいるのがなんか気まずくてさ」

 

 小説の執筆に傾倒し始めたのは中二からだが、ヨシノリと距離を置き始めたのは、もっと前からだ。

 

 理由は単純で、俺は小学校高学年になるにつれ、女性らしく可愛くなっていくヨシノリを異性として好きになってしまっていた。

 それまで同性の友達と変わらずに接していたのに、女子だと意識した途端に好きになる自分が嫌だったのだ。

 

 大切な親友の女性の部分を感じて好きになる。

 そんなものはただの性欲だ。誠実さや純粋さの欠片もないそれを恋とは呼びたくなかった。

 当時の俺はそんな風に考えていたのだと思う。

 

「だから、悪かった」

「ふーん、へー、ほーん……あたしのこと女子として意識しちゃってたから距離を取ったってわけぇ?」

 

 口角を上げながらヨシノリが揶揄うようにそんなことを言ってくる。

 

「思春期だからな。男子中学生の内心はいろいろ複雑なんだよ」

「はいはい、思春期思春期。それじゃあ、しょうがないかぁ」

「おーい。ラーメン屋でいちゃつかんでくれ」

 

 おじさんが苦笑しながらヨシノリのラーメンをカウンターごしに置いてくる。湯気が立ち上って、豚骨醤油の香りが漂う。

 

「いただきます」

 

 ヨシノリが箸を手に取って麺をすする。目を細めて満足そうな表情を浮かべる。

 

「ん~! やっぱり、ここのラーメン、最高!」

「へへっ、由紀ちゃん、ありがとよ」

 

 グルメリポーターばりのリアクションをするヨシノリに、おじさんは嬉しそうに笑う。

 ラーメンを食べるヨシノリは、二周目と同じように美味しそうに食べている。

 その姿を見て、少しだけ心が落ち着く。

 

 ヨシノリはヨシノリだ。どの世界でもそれだけは変わらない。

 

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