疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第37話 不明な感情の正体

 夕方の空気は少し冷たくて、部活終わりのヨシノリには心地よさそうだった。

 

「最近、ゴワスとよく話してるよな」

 

 俺はなるべく何気ない口調を装って尋ねた。今日の俺は平常心を失っているので、気を付けないと。

 特に気にした風もなく、ヨシノリはどうでも良さそうに答える。

 

「ん? まあね」

「なんか、相談でもされてるのか?」

「そんな大した話じゃないけど、バスケ部のこととか、クラスのこととか、ちょっとした雑談が多いかな」

「ふーん」

 

 俺は適当に相槌を打ったが、内心はモヤモヤとしていた。

 

「何、その()()()()()()()()()()みたいな反応」

 

 ヨシノリがジト目で俺を睨んでくる。

 

「いや、別にそういうわけじゃないけど」

 

 俺自身もよくわからない違和感を感じていた。

 

「ま、確かに最近話しかけられること多いかな。あんたが目立つようになったせいもあるかもね」

 

 ヨシノリはさらっと言ったが、俺の胸には妙な引っ掛かりが残った。

 

「俺が?」

「そう。カナタってさ、漫研でもクラスでもちょっとした有名人じゃん」

 

 そう言われてみれば、確かに漫研ではトト先をはじめとして部員から一目置かれるようになり、クラスでもナイトやアミと一緒にいることで周囲の注目を集めるようになった。

 

「それに、あたしと一緒にいる時間が長いから、周りも気になってるんだと思うよ」

「めんどくさいな」

「うん、めんどくさいよ」

 

 ヨシノリは微笑んで、ポンと俺の肩を軽く叩いた。

 

「でも、まあ、それもカナタの成長の結果じゃない?」

 

 俺は曖昧に頷いたが、成長と言われると何か違う気もした。

 二周目の人生では、ヨシノリの助言通りに様々な人と関わるようになった。

 ただ小説だけに向き合っていたときと違い、生きた人間の感情や行動からは新鮮な学びがある。その面白さもわかり始めていたはずなのに、どうにも最近はもやっとすることが多い。

 

 この感情の正体が一体何なのか、俺の中ではまだ答えが出ていない。

 

「そうかもな」

 

 まあ、何だっていい。その答えがわかれば、また一つ小説の糧になるのだから。

 神保町駅に着き、電車に乗って俺たちの地元である大島駅まで俺たちは他愛もない話をしていた。

 

「そうだ。これ、ペン剣書きあがったから印刷してきた」

 

 俺は鞄から完成した原稿を取り出してヨシノリに渡す。

 

「えっ、もう書き終わったの?」

「まあな。誤字脱字のチェックはしてないからそこは脳内補完しといてくれ」

「そこはむしろ読者第一号の特権ってことで楽しむよ」

 

 原稿を受け取ったヨシノリは、嬉しそうに目を細めた。それと同時に、オレンジ色のアイシャドウが綺麗に輝く。

 小さく鼻歌を歌いながら、ヨシノリは原稿をペラペラと一枚ずつ捲っていく。

 少しくすぐったいような気持ちになりながらも、俺はその仕草から目を離せなかった。

 

『次は大島ー、大島――』

「あー、もう! いいとこだったのに!」

 

 電車内のアナウンスが流れ、ヨシノリは不満げに唇を尖らせる。

 どうやら、赤ボールペンを炎剣に変化させて炬燵の付喪神である〝ネコタツ〟と戦っているシーンを読んでいたようだ。楽しんでくれているようで何よりである。

 

 改札を出ると、ぐぅ~と腹の虫が鳴く音がした。

 

「部活終わりなんだから、しょうがないでしょ」

「まだ何も言ってないが」

 

 ヨシノリはバツが悪そうに、プイッと顔を背けた。

 

「えっと、寄り道してかない?」

 

 恥ずかしそうに頬を搔きながら、ヨシノリが提案する。

 

「いいぞ。腹減ってるなら〝まるちゃま〟にするか」

「自然にラーメン屋を提案しないで。夕食前にそこまで食べはしない、から……」

「ちょっと迷っただろ」

 

 ヨシノリは顔を赤くしながら、俺の腕にペチペチ触れてくる。

 前から思っていたが、暴力系ヒロインから暴力を取ったらただのボディタッチ多めの女子なんだよな。けしからん。

 

「じゃあ、スーパー前の屋台にしよ」

「焼きたて団子のとこか」

「今なら五本はいける!」

「さっき自分が言ったこと思い返してみろ」

 

 俺はため息をつきながらも、ヨシノリのペースに合わせて歩いた。

 地元のスーパーの前には、予想通り屋台が出ていた。甘辛いタレの香ばしい匂いが漂っていて、ヨシノリの足取りが明らかに軽くなる。

 

「御手洗団子三本、くーださい!」

 

 ヨシノリは迷うことなく注文し、受け取るとさっそく一口頬張った。さすがに五本は自重したようだ。

 

「んーっ、おいしい!」

 

 幸せそうに団子を味わうヨシノリを見て、俺は思わず苦笑した。

 

「本当に、よく食うなあ」

「カナタが食が細すぎるだけよ。ほら、一口食べる?」

 

 三本あるのに一口なのか……。

 

「いや、俺はいい」

「遠慮しないでいいよ。ほれほれー」

 

 ぐっ、どうして食べかけのほうを俺の口元に持ってくるんだ。今日の不安定なメンタルじゃ動揺しない自信はない。

 

「なぁに? 高校生で間接キスでも気にしてるの?」

 

 ニヤニヤと、揶揄うような笑みを浮かべながらヨシノリが俺を追い詰めてくる。

 くそっ、今日の俺は心の中であれこれ考えすぎて頭が回ってない。こうなりゃ、ヤケだ!

 俺はヨシノリが差し出す団子に齧り付く。

 

「ほう、これが幼馴染のあーんの味か。また一つ糧になった」

「おいこら、情報を食うな」

 

 ヨシノリは少し拗ねたような顔をしながら、残りの団子をもっきゅもっきゅと食べ進める。

 

 まったく、小説の糧を言い訳に使う日が来るとは思わなかったぞ。

 

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