疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
「えっ、マジか」
思わず声が出た。
平井は姫乃さんに向かって、軽い調子で笑いかけている。姫乃さんのほうは最初こそ迷惑そうな顔をしていたが、平井の顔をまともに見た瞬間、表情が変わった。
どうするか一瞬迷ったが、俺は足を止めた。
止めるべきか……いや、待てよ?
二周目で平井と姫乃さんが付き合うことになるのは、俺とヨシノリが間を取り持ったからだ。だとしたら、ここで平井が姫乃さんにアタックしているのは、むしろ好都合ではないか。
姫乃さんがナイトから離れるきっかけが、一周目でも早めに訪れようとしている。
俺は腕を組んで、少し離れた場所から二人の様子を眺めた。
平井は口説くのがうまい。姫乃さんもまんざらではなさそうだ。
そもそも姫乃さんは、ナイトのことが好きなわけではない。
他の女子にマウントを取るためのアクセサリー程度に考えていたはずだ。むしろ、ナイトが嫌々傍にいる感じには若干うんざりしていたところもある。
まあ、だからといってイケメンの幼馴染を簡単に手放すとも思えないが、その辺は平井に頑張ってもらうことにしよう。
あいつほど姫乃さんに相応しい運命のクズ男も、そうそういないだろうし。
ふと、視線を動かす。
姫乃さんがここにいるなら、近くにナイトもいるはずだ。
サークル棟の外壁沿いに目を走らせると、少し離れた場所に人影があった。腕を組んで、姫乃さんのほうを遠目に眺めている。
背が高い。飄々とした立ち姿。ただ、その表情だけは苦々しかった。
ナイトだった。
俺は平井から離れ、ナイトのほうへ歩いていった。
「ちょっといいか」
声をかけると、ナイトは驚いたように俺を見た。
「……君は?」
「あのナンパ男の幼馴染だ。連れに迷惑かけて悪いな」
俺が頭を下げると、ナイトは少しだけ目を丸くしてから苦笑した。
「気にしなくていいよ。姫乃のことは、慣れてるから」
「慣れてるねぇ。随分と苦労させられてるみたいだ」
「……顔に出てたか」
ナイトが苦く笑う。
「お互い、幼馴染には苦労するな」
俺が言うと、ナイトが面食らったような顔をした。それからおかしそうに肩をすくめる。
「そうみたいだね」
二人でしばらく、何も言わずに苦笑した。
「せっかくだし、これも何かの縁だ。連絡先交換しておかないか」
俺が言うと、ナイトは少し考えてからスマホを取り出した。
「あれ、もしかしてナンパされてる?」
「安心しろ。俺にそっちの趣味はない」
「ははっ、それは安心したよ」
ナイトが苦笑しながらRINEのQRコードを表示する。俺が読み込む。
スマホの画面に〝田中騎志〟の名前が表示される。
一周目では、こうして繋がることのなかった相手だ。
「困ったことがあったらいつでも連絡してくれ」
「ありがとう。姫乃もたまにはいい縁を運んできてくれたみたいだ」
ナイトが軽く手を上げる。その後ろでは、平井がまだ姫乃さんに何か話しかけていた。姫乃さんの表情は、もう最初のような警戒色ではなかった。
俺はみんなのもとへ引き返しながら、小さく息をついた。
「いや、初見で心許しすぎだろ」
どれだけ、この一年で姫乃さんに苦しみを味わわされたんだ。
早いとこ愛夏と繋げてやらねば。