疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
一周目で俺がやるべきことは一通りできたと思う。
リリさんとMAOさんの件も、ゴワスを通じてさりげなく女性にしか見えない女装レイヤーの画像を見せるという流れで実は解決済みだったりする。
こうして二周目で仲良くなったみんなと再び繋がることができた。
俺が二周目に戻っても、この絆は消えない。少なくとも、なかったことにはならないはずだ。
修正力が働くのならば、この俺が経験したことも事実として残る。
せいぜい記憶と齟齬が出ないように一周目の俺が修正されて残るくらいだろう。
「先輩。夏コミの原稿っていつ頃上がりそうです?」
「あのなぁ、伊代……こっちは世界書き換えるのに手一杯なんだよ」
「とか言いつつ、締め切りは守るんですよねぇこの人」
季節も夏に変わり始め、俺は漫研で原稿作業をしていた。
ポニテ馴染とは関係ない、ただの夏コミに出す部誌制作の作業である。
「無理しなくていいよ、田中君。今回は私もリハビリ中で筆遅いかもだし」
「液タブモードのケイコ。十分、筆早い」
あれから漫研の内情もいろいろと変わった。
まず、ケイコ先輩が液タブを手に入れたことで漫画をまた描き始めた。
こっちでは俺が所属している文芸部も、ケイコ先輩が復活したことで過去の遺恨が消えた原先輩が、全力であのクソの役にも立たないクリエイターもどきの部長を抑えてくれている。
「それにしても、伊代ちゃんもすっかり戦力だね」
「えへへ……元々絵を描くのは好きだったので」
そして、唯一の一年生である伊代もすっかり部室に馴染んでいた。
伊代は器用な奴だった。
絵を描くのが好きだと言っていたが、好きなだけじゃなくてちゃんと上手い。トト先に言わせれば〝センスがある〟らしく、部誌のページを任せても遜色ない仕上がりになっていた。
「田中先輩、ここのコマ割りってどうすればいいですか」
「どれ」
伊代が原稿を持ってくる。覗き込んで、ざっと確認する。
「セリフが多いから、削ったほうがいいな。説明せずにキャラの動きで見せたほうがテンポが出る」
「あ、なるほど」
伊代がペンを走らせる。修正は早い。言ったことをすぐ形にできる奴は伸びる。
「田中君、教えるの上手いよね」
ケイコ先輩が液タブから目を離さずに言う。
「二周目のあなたから教えてもらいましたから」
「ケイコ、教えるのうまい」
「……なんか私の教え子多くない?」
トト先の言葉に、ケイコ先輩は自嘲するように笑った。
「田中君。今の状況、整理しよう」
ペンを置いてからケイコ先輩が静かに口を開く。
「ポニテ馴染は八割。あと少しで完成。ナイトくんとの接触も済み。残りは?」
「続編の執筆者の確定です」
「推測は?」
「妹の愛夏だと思ってます」
部室が静まり返り、ケイコ先輩がペンを止めた。
「妹ちゃん、小説書けるの?」
「今は書いてないですけど……可能性としては愛夏以外には考えづらいんですよね」
「根拠は?」
トト先の目が静かにこちらを見る。
「最近思い出したんですけど、二周目で会った一周目の愛夏は小説大賞を受賞した電話を知っている風なことを言っていました」
トト先は少し考えてから、小さく頷いた。
「なるほど、それならほぼ決まり」
「だといいんですけど」
「じゃ、さっさと原稿完成させること」
「了解です」
それだけで話は終わった。
「田中先輩」
伊代が顔を上げずに言う。
「どうした?」
「二周目に戻ったら、ここのことって覚えてますか」
部室が静まり返った。
「忘れない。絶対に」
「……なら良かったです」
伊代はそれだけ言って、また原稿に向き直った。
その横顔が、少しだけ寂しそうに見えた。
気づかないふりをして、俺も原稿の続きに目を落とした。
夏が、確実に近づいていた。