疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
翌日、ヨシノリから誘いのメッセージが来た。
[佐藤由紀:今日、ご飯食べに行かない?]
断る理由もなかったので了承する。
待ち合わせ場所は大島駅。そこから少し歩いた場所にある沖縄料理店だ。
「ここだよ」
ヨシノリが指差したのは、小さな店構えの沖縄料理店〝がちま屋〟だった。
「前から行ってみたかったの。沖縄料理ってそそられるじゃない?」
「ああ、確かにそれはあるな」
俺は喜屋武と仲良くなるために、何度も通っているけどな。
店の扉を開けると、三線の音色が流れている。沖縄の雰囲気が漂う内装。カウンターとテーブル席が並んでいて、奥の厨房からは食欲をそそる匂いが漂ってくる。
「いらっしゃいませー!」
元気な声が響いて、喜屋武が現れた。エプロン姿。髪を後ろで結んでいる。
「田中君! それに由紀さんも!」
喜屋武が驚いたような顔をする。ヨシノリも目を丸くした。
「喜屋武さん。ここでバイトしてたの?」
「そうですけど……田中君、何度も来てるから知ってると思ってました」
ヨシノリの視線が俺に向く。
「……何度も?」
「ああ。近所だし、たまに来てる」
「へー、そうなんだ」
ヨシノリの声のトーンが微妙に下がる。喜屋武の表情が一瞬だけ固まって、すぐに笑顔に戻った。
「今日はお二人で?」
「そうだけど」
「……そうですか」
喜屋武の視線がヨシノリに向く。ヨシノリも喜屋武を見る。
二人の視線が一瞬だけ交差して、空気が妙に重くなった。
「お席に案内しますね!」
喜屋武がテーブル席に案内してくれる。メニューを置いて、水を運んでくる。
「ゆっくりしていってください」
「ありがとね」
ヨシノリが笑顔で答える。喜屋武も笑顔で頷いて、カウンターのほうへ戻っていく。
その背中を見ながら、俺は首を傾げた。
「……なんか、変じゃなかったか」
「変?」
「喜屋武とお前、なんかこう空気が堅かったような」
「気のせいじゃない?」
ヨシノリがメニューを開きながら答える。声は明るい。でも、視線はメニューに向いたまま動かない。
「そうか?」
「そうだよ。それより、カナタ。ここに何度も来てるって」
「さっきも言っただろ。近所で飯がうまけりゃリピーターにもなる」
「カナタって、味音痴じゃなかった?」
ヨシノリの視線が鋭くなる。
「味音痴だけど、こういうのは雰囲気込みでも味は変わるだろ」
「そうね……喜屋武ちゃんがいると雰囲気いいもんね」
ヨシノリの箸を持つ手に、少しだけ力が入る。
釈然としないが、それ以上は聞かなかった。
メニューを開いて料理を選ぶ。
ゴーヤチャンプルー、ソーキそば、ラフテー。どれも美味しそうだ。
「決まった?」
「ああ」
喜屋武を呼んで注文する。
喜屋武がメモを取りながら、時折ヨシノリのほうをちらりと見る。
ヨシノリもそれに気づいているのか、視線を合わせないようにしている。
やっぱり、何かある。
料理が運ばれてきたので、箸を取って口に運ぶ。
「やっぱり、沖縄料理は美味いな」
「そーだね」
ヨシノリの返事が素っ気ない。
食事を進めながら、他愛のない話をする。
学校のこと、部活のこと、最近読んだ本のこと。
それでも、胸の奥に引っかかっているものがあった。
「ヨシノリ。ちょっと相談したいことがあるんだ」
「相談?」
ヨシノリが箸を置いて、こちらを見る。真剣な表情になる。
「実は、漫研の後輩のことで」
「漫研の後輩?」
「ちょっと複雑な話なんだけど」
伊代の存在について、話せる範囲で説明する。
「もしかしたら、いなくなるかもしれないんだ」
二周目のこと、彼女の存在が消えるかもしれないこと。
全部を話すわけにはいかない。というか、信じてもらえないだろう。
「正直、かなり助けられたし、俺にできることならなんだってしてやりたい。だけど、何ができるかわからなくてな……」
ヨシノリが黙って聞いている。その表情が少しずつ険しくなっていく。
「……その後輩って、女の子?」
「ああ、そうだけど」
ヨシノリの声が低くなる。箸を持つ手に、さっきより力が入っている。
そのとき、喜屋武がお冷を持ってテーブルに近づいてきた。
「お冷のお代わりどうぞ」
「ありがとう」
喜屋武がグラスに水を注ぐ。その耳に、俺たちの会話が届いたらしい。
「田中君、漫研の後輩のこと?」
「ああ」
「……女の子?」
「そうだけど」
喜屋武の表情が微妙に曇る。ヨシノリの視線も鋭くなる。
二人が顔を見合わせて、そして同時に呟いた。
「「やっぱり……」」
何でそんな顔をされるのかはよくわからないが、何かしらの誤解をされていることだけはわかった。