疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
朝になった。
ポニテ馴染の修正はほぼ完了した。
最後の一文だけが書かれていない状態で、パソコンの画面に残っている。
俺は椅子に座ったまま、じっと画面を見つめていた。
カーソルが点滅している。
ここに何を書くかで、二周目に戻れるかどうかが決まる。
でも、書けない。
伊代のことが頭から離れない。
俺が二周目に戻ったら、伊代は消えるのか。
自分が向き合うべき本来の人たちがいる二周目に、早く戻りたい。ヨシノリと一緒にいたい。みんなともう一度会いたい。そこが俺の居場所だ。
ただ、伊代にも一周目で世話になった。
漫研で一緒に作業して、話をして、笑った。確かに存在していた。
だから、見捨てることはできない。
時計を見ると、午前七時を回っている。学校に行く時間だ。
パソコンの電源を落として、制服に着替える。鞄を持って、階段を降りる。
リビングで愛夏が朝食を食べていた。
「おはよう、お兄ちゃん。顔色悪いよ」
「寝てないからな」
「また徹夜? 身体壊すよ」
「心配かけて悪いな。もうすぐこの生活サイクルも終わるから」
適当に朝食を口に入れて家を出る。
通学路を歩く。いつもの道。いつもの景色。
でも、今日は何かが違う気がした。
学校に着いて教室に入る。
そこも今では見慣れた一周目の景色が待っていた。
授業が始まったところで、内容は頭に入ってこない。
伊代のことばかり考えていた。
昼休み。俺は席を立って、一年の教室に向かった。
ドアを開けて中を見渡すが、伊代の姿がない。
見覚えのない後輩たちが、昼食を食べて談笑しているだけだった。
近くにいた女子生徒に声をかける。
「ごめん、俺は二年の田中だけど、漫研の神野塚伊代って子、知らないか」
「神野塚さん、ですか?」
女子生徒が首を傾げる。困惑したような顔だ。
「ええと、誰でしたっけ?」
「確かこのクラスにいるはずだ。漫研に所属してる」
「漫研……ごめんなさい、他クラスの子じゃないですか?」
女子生徒が申し訳なさそうに首を振る。
他の生徒にも聞いてみたが、反応は同じだった。
誰も伊代のことを覚えていない。
胸の奥が冷たくなる。
教室を出て、三年の教室に向かう。
階段を駆け上がり、息が上がる。
三年の教室のドアを開けて先輩たちを呼ぶ。
「トト先、ケイコ先輩!」
二人が席で昼食を食べていた。
二人共、俺の声に驚いて顔を上げる。
「田中君? どうしたの、そんなに慌てて」
「伊代のこと、覚えてますか」
「伊代ちゃん?」
ケイコ先輩が少し考え込む。トト先も眉を寄せる。
「覚えてる。一年生で、漫研に入ってきた子……だよね」
「顔は?」
「顔、かぁ」
ケイコ先輩が言葉を詰まらせる。
「あやふやになってきてる」
トト先が静かに言う。
「前まではっきり覚えてた。今思い出そうとすると、輪郭がぼやける」
「マジですか」
膝から力が抜けそうになる。
伊代が消えかけている。
存在が薄れている。
俺がポニテ馴染を完成させそうだからか。それとも、別の理由があるのか。
わからない。
教室を飛び出して廊下を走る。
「田中君!」
後ろからケイコ先輩の声が聞こえる。でも、振り返らない。
階段を降りる。自分の教室の前を通り過ぎる。
月見里が廊下に立っていた。
「田中君、そんなに急いでどうしたの?」
「すまん。体調悪いから早退するって言っといてくれ!」
そのまま走り抜ける。
「いや、超元気じゃん……」
呆れたような月見里の声が背中に届く。
靴箱で靴を履き替える。校門を出る。
とにかく走る。どこに向かうのかは、わからない。
しかし、どこでもいい。伊代を探さなければならない。
この世界から伊代が消える前に。