疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
俺は伊代を連れて帰宅した。
目的は単純だ。
これから俺は二周目に帰る。その最終準備を行うためだ。
玄関を開けて、靴を脱ぐ。伊代も後ろから入ってくる。リビングに愛夏はいない。まだ学校にいる時間だ。
「上がって」
「お邪魔します」
伊代が小さな声で言う。目は赤く腫れている。泣き疲れた顔だ。
階段を上がって、自分の部屋に入る。伊代も後ろからついてくる。
パソコンの前に座る。画面を立ち上げる。ポニテ馴染のリメイクのファイルを開く。
最後の一文が書かれていない画面が表示される。
「あの、先輩。一体、何をするつもりなんですか?」
伊代が不安そうに俺の背中を見ている。
「二周目の世界を完全に一つの世界にした上で、伊代を残す」
「いやいやいや!」
俺の言葉に伊代は激しく首を振った。両手を振って、否定する。
「無理ですって! 家族も家も、たぶん戸籍すら消えちゃってるんですよ!」
「確かに、一周目ではな」
「へ?」
伊代は呆けたように口を開けた。目が丸くなる。言葉の意味を理解できていない顔だ。
俺は椅子を回して、伊代のほうを向く。
「世界を移動できるのが俺だけ。そんなの誰が決めた」
「ま、まさか、先輩」
伊代の目が見開かれる。
「お前も二周目へ連れて行く」
そう、これが俺の望むハッピーエンドに必要なことだ。
伊代を一周目に残したまま俺だけが二周目に戻る。それは伊代を見捨てることと同じだ。
家族も家も消えた伊代を、この世界に一人残していくことはできない。
なら、連れて行けばいい。
俺が帰る場所である二周目に。
「俺が二周目に戻るために必要なことは、この一周目の出来事を正確に物語に閉じ込めた上で一周目に戻る描写をして物語を締めくくることだ」
画面を指差す。ポニテ馴染のリメイク。最後の一文が書かれていない状態。
「そこに実質最終章のゲストヒロイン枠のお前がついてくる。よくあるハッピーエンドだろ?」
伊代が黙る。
口を開けたまま、固まっている。
「でも、そんなこと」
「できるかどうかはやってみなきゃわからない」
俺はキーボードに手を置く。
「トト先とケイコ先輩が言ってた。並行世界が完全に独立した世界として成立すれば、もう管理する必要がなくなる。お前は神の代理から解放される」
伊代が頷く。
「それなら、お前が二周目に行けば、二周目で実体を持てるはずだ」
「でも、私は一周目の人間として生まれたんです。二周目には私の居場所なんて」
「作ればいい」
即答した。
「二周目にも神野塚伊代として存在すればいい。二周目の世界が完成しきる前なら、お前が入り込んでも問題ないはずだ」
伊代が息を呑む。
「名前も、記憶も、全部お前が持っている。あとは二周目で実体を持つだけだ」
俺は画面を見る。文字が並んでいる。俺が書いた物語。
「俺が書く最後の一文で、お前を二周目に連れて行く。そうすれば、お前は消えない」
伊代が涙を拭う。まだ泣きそうな顔だ。
「本当に、そんなことできるんですか」
「わからない」
正直に答える。
「やったことないからな。でも、やってみる価値はある」
伊代が俯く。肩が震えている。
「先輩は、どうしてそこまで」
「お前が俺を助けてくれたからだ」
俺は椅子から立ち上がる。
「だから、今度は俺がお前を助ける番だ」
伊代が顔を上げる。涙で濡れた顔で、今度は本当に笑った。
強がりじゃない笑顔だった。
「ありがとうございます」
その声は震えていたが、もう諦めの色はなかった。