疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第389話 最後のリライト

 リライトをする前にやるべきことがある。

 それはこの一周目でお世話になった人たちへのお別れだ。

 といっても、事情を知る人たちに対してだけ。

 俺は携帯電話を取り出して、ケイコ先輩に電話をかける。

 

『田中君? ビックリしたよ、もう。急にいなくなっちゃうんだから』

「心配かけてすみません。先輩、今ちょっといいですか」

『大丈夫だよ。何?』

 

 ケイコ先輩の声が明るい。いつもの調子だ。背景に車の音が聞こえる。外にいるのかもしれない。

 

「俺、二周目に戻ります」

 

 通話口の向こうで、息を呑む気配がした。

 

『そっか。ついに、なんだね』

「はい」

『寂しくなるね』

 

 ケイコ先輩の声がしみじみとしている。風が吹く音が混じる。

 

「お世話になりました」

『お世話だなんて。こっちも楽しかったよ。田中君が来てから、いろいろ変わったから』

 

 ケイコ先輩が笑う。電話越しでも、その笑顔が目に浮かぶ。

 

「それと、伊代のことなんですけど」

『伊代ちゃん?』

「二周目に連れて行きます」

 

 しばしの沈黙の後、ケイコ先輩は戸惑いながら口を開いた。

 

『連れて行くって、そんなことできるの?』

「やってみます。一周目に残していくわけにはいかないんで」

『そっか』

 

 ケイコ先輩が息をつく音が聞こえる。深く、ゆっくりとした呼吸。

 

『伊代ちゃんにも、よろしく伝えといてね』

「はい」

『君ならきっとできるよ』

「ありがとうございます!」

 

 電話を切る。

 画面が暗くなる。通話時間が表示される。

 次にトト先に電話をかける。

 

『カナぴ』

「トト先、今日までお世話になりました」

『戻るんだね』

 

 いつもの落ち着いた調子で、トト先は電話に出た。

 

「はい。伊代も連れて行きます」

『そう。良かった』

 

 トト先が小さく笑う。珍しい。トト先が笑うのは本当に珍しい。

 

『カナぴらしい選択だと思う』

「ありがとうございます」

『創作の続きは一周目のカナぴとする。引継ぎはうまくやって』

「わかりました」

 

 電話を切ると、画面が暗くなる。

 自然と携帯電話を握る手に力が入った。

 別れの言葉を告げるのは、思ったより辛かった。

 

 これで良かった。ちゃんと別れを告げられた。

 

 次は、一周目の自分へのアフターフォローだ。

 俺は携帯電話を操作して、ヨシノリにメールでメッセージを送る。

 

[今日、団地で会えないか。話したいことがある]

 

 送信ボタンを押す。

 既読はつかない。まだ学校にいる時間だろうから当然だ。

 これで、準備は整った。

 

 あくまでも送るだけ。そこからは一周目を引き継いだ自分の仕事だ。

 俺は携帯電話を置いて、パソコンの画面を見る。

 

「先輩。本当に、ありがとうございます」

 

 そう告げる伊代の声は、震えていた。

 

「礼を言うのはまだ早い。成功してからにしろ」

「でも」

「いいから。黙って見てろ」

 

 俺はキーボードに手を置いて、深呼吸する。

 画面では、規則正しくカーソルが点滅している。

 

「じゃあ、始めるぞ」

 

 頷きが返ってくるのと同時に、俺は最後のリライトを始める。

 一文字ずつ、丁寧に物語を紡ぎ直す。

 規則正しいリズムで刻まれるタイピング音が部屋に響く。

 

 伊代を二周目に連れて行くための、鍵になる物語を全部を書き直す。

 一周目で起きたことを、正確に物語に閉じ込める。

 

「よし、最後だ」

「相変わらず早いですね。リライトって言っても、直すところ多かったでしょうに」

 

 作業が佳境に差し掛かると、伊代は苦笑する。

 

「ま、この物語ほど何度も執筆した小説もないからな」

 

 最後の一文を書けば、二周目に戻れる。

 伊代を一緒に連れていけるはずだ。

 伊代が俺の後ろに立つ。緊張している息遣いが聞こえる。

 

「いくぞ」

 

 頷きが返ってくる。

 キーボードを叩く音だけが、部屋に響いた。

 窓の外から日差しが差し込み、カーテンが風に揺れる。

 

『書き直した世界で、これからも生きていく。それが俺の物語だ』

 

 エンターキーを押すと、文章が確定される。

 ついに、本当の意味でポニテ馴染が完成した。

 

『まったく、君にはつくづく驚かされるよ』

 

 その瞬間、隣から呆れたような声がした。

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