疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第390話 一周目の継承

 何も考えず、衝動のままに書き上げたポニテ馴染はとんでもないボリュームになっていた。

 パソコンの画面に表示される文字数を見て、俺は呆然とする。

 六十万字を超えている。文庫本換算で約六冊分だ。

 どこにも公開していない、ただただ一人で書いた原稿でこれである。

 

「学校サボってやることがこれかよ」

 

 声に出すと、少しだけ笑えてきた。

 自分でも意味がわからない。一体、何がそこまで俺を駆り立てたのか。

 

 スマホを確認すると、RINEに返信が届いていた。

 

[佐藤由紀:それじゃ、放課後あたしの住んでる団地の前で]

 

 そうだ。今日、俺はヨシノリに気持ちを伝えに行く。

 その覚悟を確かなものにするために、彼女をヒロインにしたこの小説を書いていたんだった。

 

 席を立ちかけたとき、視界の端に引っかかるものがあった。

 机の端に、コップが置いてある。麦茶が半分ほど残っていて、内側に水滴の跡がついている。

 俺のコップではない。来客用のやつだ。

 

「誰か部屋に上げた? いやいやいや」

 

 学校を早退してからずっと執筆していた。

 誰かが来ても気づかないほど集中していたとは思えない。

 そもそも愛夏は学校のはずだし、両親が帰る時間でもない。

 思い当たる人間が誰もいない。

 頭の中を探る。家に帰った。部屋に入った。パソコンを立ち上げた。書いた。それだけだ。

 

「こっわ」

 

 コップを手に取ると、わずかに揺れる麦茶が光を反射する。

 机の上を見渡すと、今度は封筒があることに気づいた。

 

 こんなもの、置いた覚えがない。

 手に取って中を確かめると、便箋が入っていた。

 開いた瞬間、視線が止まる。俺の字だった。

 

『一周目の俺へ』

 

「謎の黒歴史発見んんんっ!」

 

 すぐに手紙を細切れにして、ゴミ箱へと叩き込んだ。

 危ない危ない。さすがに、俺でもこのレベルの中二病は痛々しいと感じる。

 

「てか、そろそろ準備しないとな……」

 

 時計を見ると、五時を回っていた。

 ヨシノリとの約束の時間が近い。

 

 コップをシンクに置いてから、着替えて、髪を整えた。鏡を確認する。

 階段を降りると、愛夏がリビングにいた。

 

「お兄ちゃん、おかえり。早退したって聞いたけど大丈夫?」

「ちょっと用事があっただけ。心配させて悪い」

 

 愛夏が笑う。いつもの笑顔だ。

 

「今日、由紀ちゃんと会うんでしょ」

「ああ」

「頑張って」

 短い言葉だったが、愛夏らしかった。余計なことは言わない。

 でも確かに、背中を押してくれている。

 

 玄関を出ると、夕方の空気が頬に当たった。西の空が橙色に染まり始めていて、ビルの輪郭がくっきりと浮かび上がっている。

 

「いってきます」

 

 このあと、何故か恋愛関係の苦労が降り注ぎ続けることになるのだが、それはまた別のお話……去年までボッチだったのに何故こんなことに?

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