疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
羽田空港に着いた瞬間、案内板の多さに圧倒された。
どこを向いても案内板が乱立していて、見れば見るほど自分が正しい方向に向かえているのか逆に不安になってくる。
ただ、俺は一周目で修学旅行も空港での迷子も経験済みだ。問題は久しぶりすぎて、その経験が役に立たないことだ。
「おや、迷子かな? 北大路先生……なーんちゃって!」
「伊代……!」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこには伊代がいた。制服ではなく私服姿で、肩にトートバッグを下げている。
「おかげさまで無事こっちに来れましたよ、先輩」
伊代がにっと笑う。その顔は、あの空き地で泣いていた顔とは別人のように晴れやかだった。
「待て待て待て。お前、今日学校あるだろ」
「体調不良で病院に行くことにしました」
「サボりじゃないか」
俺は伊代の顔をまじまじと見た。こうして目の前に立って、普通に話している。
「家は、ちゃんとあるんだな」
俺の問いに、伊代の表情が柔らかくなる。
「はい。お寺も、父も母も。ちゃんといます」
世界の修正力は、伊代を二周目の存在として再構築した。家も家族も、一周目での記憶通りに世界が書き直された形で存在している。
「一周目の記憶は?」
「全部あります。先輩と漫研で過ごした日々も、ケイコ先輩とトト先輩のことも」
伊代が間を置いてから続ける。
「この世界での私の役目は終わりました。でも、記憶は残りました。それで十分です」
「消えたのか」
「いえ、二周目の私と一周目の私は統合されたんです。なので、記憶もあります」
二周目で神の代行を務めていた伊代は、一周目の伊代と統合された。神の代行としての記憶も、そのまま引き継いで。
「じゃあ、露天風呂で混浴したのも覚えてるのか」
「……恥ずかしいんでやめてもらっていいですか」
伊代が顔を赤くしながら手を振る。俺も途中から自分で言いながら恥ずかしくなってきたので、それ以上は続けなかった。
「伊代。お土産、何がいい?」
聞くと、伊代は少し考えてから答えた。
「先輩が無事に帰ってくることです。それ以外、何もいりません」
笑顔だった。神の代行でも強がりでもない、ただの笑顔。
「……しゃらくさいな」
「本心ですよ」
「わかった。ちゃんと帰ってくる」
約束を口にすると、伊代がもう一度笑った。
「集合場所は第2ターミナルですからね。間違えないでくださいよ」
「それ聞いて今から第1ターミナル向かうバカがどこにいるんだよ」
「いそうな人が一人いたので念のため」
「失礼な後輩だな」
軽口を叩きながら伊代と別れて、俺は集合場所へ向かって歩き出した。
その流れで、なんとなく周囲を眺めていると、少し離れた場所に見覚えのある背格好を見つけた。
ポニーテールがぴょこぴょこと揺れている。きょろきょろと案内板を見上げては、スマホを確認している。
そう、ヨシノリだった。
同じ慶明高校の生徒なのに、明らかに方向が違う。第1ターミナルへ向かいかけている。
「ヨシノリ」
声をかけると、ヨシノリがぱっとこちらを向いた。その顔には一瞬の戸惑いもなく、すぐに呆れたような笑みが浮かぶ。
「何よ、そっちじゃないでしょ」
「お前が逆方向に向かってるんだろ。第2はあっちだ」
「えっ、マジで?」
ヨシノリがスマホを確認して、案内板を見上げて、また俺を見る。
「……助かった」
「気をつけろよ」
「……その、ありがと」
何か言いたそうな、それでいて踏み込めないといった態度。
ひとまず、この問題を解決するのは修学旅行が始まってからだ。