疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
アミと喜屋武に解放された俺は、ふらふらと集合場所に戻った。
精神的にかなり削られた。空港のざわめきが遠く聞こえる。
搭乗手続きを済ませ、機内に乗り込む。
座席は通路を挟んでナイトと隣同士になった。ゴワスはその一列前だ。
離陸してしばらく経つと、ゴワスがシートをぐっと倒して腕を組んだ。
寝る気満々らしい。
「お疲れ、カナタ」
ナイトが小声で話しかけてくる。
「アミちゃんたちに言うべきことは言われたみたいだね」
「……魂が削れた」
「それはお疲れ様」
ナイトは苦笑してから、膝の上に手を重ねた。
「僕たちも少し話していいかい」
「……怒ってるのか」
「怒ってないよ」
あっさりとナイトは言った。
「ゴワスも怒ってないよね」
「あん? 別に」
前の席からくぐもった声が返ってきた。シートに背中を預けたまま、顔も向けない。
怒鳴るでも詰めるでもない。アミたちとは明らかに温度が違った。
それがむしろ、別の種類のやりとりになりそうだと感じさせた。
「ただ、心配はしてたよ」
ナイトが静かに続ける。
「由紀ちゃんのこともそうだし、カナタ自身のことも」
「俺自身?」
「伊代ちゃんのこと、すごく気にかけてただろ。あの三ヶ月間も、漫研には普通に顔を出して、普通に話してたって聞いた」
「……ああ」
「それは悪いことじゃない。可愛い後輩で、同じ創作をやってる人間だ。ぐっとくるのはわかるよ。僕だってわかる」
ナイトは言葉を選ぶように少し間を置いた。エンジンの低い振動が機体に伝わってくる。
「でも、そういう浮ついた気持ちのまま動いてると、大切なものを見失うぞっていう話だよ」
「浮ついた気持ちって言われても、そういうつもりじゃ……」
「つもりかどうかは関係ないんだ」
穏やかだが、はっきりした口調だった。
「周りからどう見えるか。由紀ちゃんの目にどう映るか。カナタはそういうのを気にしない性格だけど、気にしない分だけ、ちゃんと考えないといけないこともある」
正論だった。反論のしようがない。
「僕も偉そうなことは言えないけどね」
ナイトは苦笑して肩をすくめた。
「ただ、カナタが由紀ちゃんのことを本当に大切に思ってるのは知ってるから。だからこそ言いたかっただけだよ」
「……ありがな。そこまで言ってくれて」
素直にそう答えると、ナイトは驚いたような顔をしてから、柔らかく笑った。
「珍しく素直だね」
「アミと喜屋武に削られたせいで反論する気力がない」
「ははっ、それは災難だったね」
しばらく沈黙が続いた。機内アナウンスが流れ、巡航高度に達したことを告げる。
「……なあ、ゴワス」
俺は前の席に向かって声をかけた。
「お前は何か言わないのか」
「言うことなんてねぇよ」
シートの向こうから、低い声が返ってきた。
「俺はお前に負けたんだ。お前が由紀を幸せにしてくれりゃそれでいい。それに俺は俺で新しい出会いもあったしな」
淡々とした口調だった。でも、その言葉の重さはちゃんと伝わった。
勝ち負けの話をしているのに、不思議と嫌な感じがしなかった。
「……そうか」
「ただ一個だけ言うとすりゃ」
ゴワスがシートの上からこちらを振り返った。
斜め後ろを向いたその顔は、いつもの不機嫌とも皮肉とも違う、まっすぐなものだった。
「幸せにできないなら最初から手ぇ出すな」
それだけ言って、ゴワスは前を向いた。
俺は何も返せなかった。返す言葉が見つからなかったというより、これ以上何も言う必要がなかった。
ナイトが小さく息をついて、窓の外に目を向ける。雲の切れ間から、眼下に広がる海が見えた。
「鹿児島まで、もう少しだね」
「ああ……楽しみだな」
修学旅行が始まっている。ヨシノリとの問題は何も解決していない。
ただ、周りがこれだけ言葉をくれた。
それを無駄にするつもりはなかった。