疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
翌朝、フェリーで屋久島へ向かった。
デッキに出ると潮の匂いが強く、波に叩かれた飛沫が顔に当たった。空は晴れていて、水平線が遠くまで続いている。
船内ではほとんどのメンバーが席に座ったまま眠っていた。
ゴワスは乗り込んだ瞬間から目を閉じており、ナイトは本を開いていたが十分も経たないうちにページが止まっていた。まあ、昨日は夜更かししたから仕方がない。
喜屋武とアミは並んで座って何やら話し込んでいる。
ヨシノリは窓側の席に座って、外を眺めていた。
俺は少し離れた席から、その横顔を見た。
波の光が窓越しに揺れて、ポニーテールが船の揺れに合わせてゆっくり動いている。
改めて思うが、こんな可愛い子が幼馴染って、どういうことだよ。
声をかけようとして、やめた。今じゃない、というより、このまま彼女の横顔を見ていたかったのだ。
昼前には、フェリーは屋久島の港へ着いた。
島に降り立った瞬間、空気が変わった。
東京とは圧倒的に違う、湿度のある濃い緑の匂いがする。
それからバスで移動し、昼食をとる店へとやってきた。
全員が席に着き、点呼が終わるのを待つ。
学校側で既に注文が済んでいるらしく、メニューを選ぶ必要はないとのことだった。
さすがに名物くらいは出してくれるだろうと思っていたら、しばらくして運ばれてきた皿を見たヨシノリと喜屋武が歓声を上げた。
「鹿肉! 鹿肉だ、これ!」
「食べてみたかったさー!」
「私も一度食べてみたかったんですよね」
テーブルに皿が並んでいくのを眺めながら、話題を振ってみる。
「鹿肉って〝もみじ〟って呼ばれてるの知ってるか」
「何でもみじなんだ?」
「奥山に紅葉を踏み分けて鳴く鹿の、って百人一首の歌があるだろ。そこから来てるって説がある」
「あるだろ、って言われても知らんが……」
「百人一首なんて、かるたやってる人くらいしか知らないでしょ」
「さすがに、そこまでマイナーじゃないと思いますけど……」
思ったよりも反応が悪かった。
漫画でも題材にされたりしてるのに、百人一首がマイナーであってたまるか。
「あとは花札の十月が紅葉で、その種札に鹿が描かれてるから、って説もある」
「花札ってあれだよな。あの、ゲーム会社が作ってる」
「……それは創業時の話じゃないかな」
日本の伝統文化ってここまで軽んじられるものだったか……と、思ったが、花札と最新機種のゲームどっちを取るかと言われたら、俺はゲームを取るから人のことは言えないな。
「とにかく、そういう経緯があったのに加えて、江戸時代は仏教の影響で肉食を避けてたから、鹿肉をもみじって隠語で呼んで食べてたらしい」
「隠語……食べたいなら食べればいいのに。あたしなら食べるわね」
「まあ、建前ってやつだろ。猪肉はぼたん、馬肉はさくら。みんな花の名前で呼んでた」
「カナタって、そういうの詳しいよね」
「小説書いてると、調べ癖がつくからな」
「どの小説に鹿肉が出てくるの?」
「出てこないけど、屋久島が舞台になったら使えると思って」
「さいですか」
ヨシノリが呆れた顔をした。
それでも、声に刺がなかったから、内心ほっとした。