疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第40話 微妙な空気

「ただいまー!」

 

 妹の愛夏が帰宅した。

 

「おっ、愛夏ちゃんか! おかえりー!」

 

 由紀が助かったとばかりに笑顔で手を振る。愛夏もぱっと笑顔になり、軽快な足取りでリビングへと入ってくる。

 

「由紀ちゃん、ただいま! ……あれ?」

 

 しかし、彼女はすぐに別の方向に目を奪われた。

 

「ど、どちら様で?」

 

 目の前にいるナイトを見上げ、愛夏はまじまじとその顔を観察する。ナイトは柔らかく微笑み、爽やかな声で自己紹介した。

 

「お兄さんの友達の騎志です。苗字は君と同じ田中だよ。よろしくね、愛夏ちゃん」

 

 ナイトが優しく微笑んだ瞬間、愛夏の表情が固まった。

 

「や、やば……イケメン、イケメンだぁ!」

 

 テンションが一気に上がる愛夏。あまりの興奮に両手を頬に当て、ナイトを直視できないまま小刻みに震えている。俺はその様子を見て、頭を抱えた。

 妹のメス顔って想像以上にキツイな。

 

「マジで王子様みたいな人いるじゃん! うわっ、こっちは巨乳美少女!?」

 

 興奮冷めやらぬまま、愛夏は次にアミへと視線を向ける。

 しばらく見つめた後、何かを悟ったように目を見開いた。

 

「もしかして、美の女神様?」

 

 アミはきょとんとした顔で目を瞬かせた。アフロディーテは愛と美の女神だから間違いではない。

 

「えっと……?」

「巨乳の女神様だ……」

 

 愛夏は真剣な顔のまま手を合わせ、まるで神聖な儀式でも始めるかのような勢いでアミを拝み始めた。

 

「ふぇ?」

 

 困惑するアミをよそに、愛夏の崇拝は止まらない。両手を合わせ、目を閉じ、心からの祈りを捧げるような態度だった。

 

「信仰心が止まらない」

 

 その場にいた全員が呆気にとられる中、俺は頭を抱えた。

 

「愛夏って、たまに奇行に走るよな」

「あんま似てないと思ってたけど、こうして見るとやっぱり兄妹よね」

 

 俺の隣でヨシノリが苦笑する。

 あと、どんなに拝んだところで、大人になっても胸はそのままだからな?

 

 その後、ゴワスとの相性が最悪だと悟った俺は、メンバーチェンジを決行した。

 場所をリビングから俺の部屋へと移し、ヨシノリとアミの三人で改めて勉強を進めることになった。狭い部屋に三人というのは少し窮屈だが、ゴワスがいる空間に比べれば遥かに集中できる。

 机を囲む形で三人が座り、それぞれの課題に取り組む。

 

「カナタ君って、解説上手ですよね」

「アミが真剣に聞く気があるからそう思えるだけだ」

 

 アミが顔を上げてどこか熱っぽい視線を向けてくる。ふむ、やる気があるのはいいことだ。

 

「相手がカナタ君だからそう思えるのかもしれません」

 

 身を乗り出してくるアミに、ヨシノリの手元のペンが止まる。

 

「こんな可愛い子にそんなこと言ってもらえるなんて良かったね」

 

 そう呟いたヨシノリの声のトーンは低く、どこか棘が含まれている気がする。

 

「そうだな。悪くない気分だ」

 

 上目遣いと潤んだ瞳。口元のホクロと胸の合わせ技でなかなかの絶景だった。この画角でトト先がイラストを描いたらドスケベなイラストが完成していたことだろう。

 

「ん、アミ。ここの途中式間違ってるぞ」

 

 そう言ってノートの途中式を指差したとき、アミのペンが机の端から滑り落ちた。

 

「あっ……」

 

 床に転がったペンを拾おうと、俺とアミが同時に手を伸ばす。そして、手が触れた。

 アミの指先は思ったよりも固かった。

 普段の華奢な印象とは異なり、しっかりとした感触があった。

 違和感を覚えた俺は、反射的にアミの手をそのまま握り込んだ。

 

「え?」

 

 アミが驚いたように小さく声を上げる。

 

「ふむ」

 

 俺はまじまじと彼女の手を見つめた。

 そのまま握ったまま考え込んでいると、不機嫌そうな声が割り込んだ。

 

「ねえ、いつまで握ってんの?」

 

 ヨシノリが頬杖をつきながらジト目で俺を睨んでいた。

 

「ああ、悪い」

「びっくりしましたけど……カナタ君、意外と大胆なんですね」

 

 アミも小さく笑いながら、少し頬を染めた。

 

「何が?」

 

 何だか部屋の空気が妙な感じになり、ヨシノリが苛立ったように咳払いをした。

 横目でヨシノリを見ると、彼女はむくれたように頬を膨らませながら、ペンをくるくると回していた。

 

 結局、勉強会は最後まで変な空気のままだった。

 

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