疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
料理が運ばれてきた。
メインは焼肉だった。鹿肉と野菜や豆腐の小鉢がいくつか。
網の上に乗せると、すぐにじゅうじゅうと音が立ち始める。
香ばしい匂いが鼻をついた。
「おー、うまいな」
肉の味がした。ここが屋久島ということもあって、なんだかいつも食べるような牛肉のような肉とは違う味がした気がする。
「おいしい!」
目を輝かせて鹿肉を口に入れたヨシノリが歓声を上げた。
箸が止まらなくなっていて、視線が網の上に釘付けになっている。
周りが見えていないのが手に取るようにわかった。
ヨシノリが心底おいしいと思ったときは、表情の全部が緩んで目が細くなる。
今まさに、その顔をしていたところだった。
「あっさりしてる。臭みとか全然ないし、脂もしつこくない。なのにちゃんと旨味があって、牛肉とは全然違う感じがする」
「ほーん、なるほどな」
味覚が場末のソシャゲよろしくサ終している俺では細かい味はわからない。
だからこそ、こうしてヨシノリが食レポしながら心底おいしそうに食べてくれるのは助かる。
「カナタはどう?」
「肉の味だな」
「感想それだけ?」
「……屋久島っぽさが感じられて、いいとは思う」
「大雑把すぎるでしょ」
呆れながらも、ヨシノリの箸はもう次の一枚に伸びていた。
網の上で鹿肉がじわじわと色を変えていく。
「なんか、上品な感じがするんだよね。ジビエってもっとワイルドなイメージあったけど、全然そんなことなくて」
「血抜きがちゃんとされてるかどうかで全然変わるらしいぞ。俺はわからんけど」
「知識だけあってもわからないんじゃ意味ないじゃん」
ヨシノリが吹き出した。
笑いながら、また一枚口に運んでいる。
その顔を見ていると、テーブルの向こうがなんとなく明るく見えた。
自分の皿に目を落とす。ゆっくり食べていたせいか、まだ鹿肉は残っていた。
ヨシノリの皿の鹿肉は、もう残りわずかだった。
「なあ、ヨシノリ」
「どうしたの?」
顔を上げたヨシノリと、目が合った。
「ここ最近、色々とギクシャクさせた詫びだ。食うか」
皿をヨシノリの前に押し出す。
ヨシノリは皿を見て、また俺を見た。
網の上でじゅうじゅうと音がしている。
「ホントに?」
「食べたいなら食べろ」
「じゃあ、もらう!」
もう一度だけ俺の顔を確認してから、ヨシノリは笑顔を浮かべた。
相変わらず、食べ物の前では素直な奴である。
「やっぱ、んまー!」
「そいつはよかった」
「カナタの分なのに申し訳ない気もするけど」
「別にそこまで腹減ってないから問題ない」
「ありがとう」
窓の外で、海が光っている。テーブルを囲む声が賑やかに響いていた。
ゴワスが何かに文句を言っていて、ナイトが笑ってなだめていて、喜屋武とアミが鹿肉のおかわりを訴えて先生に断られている。
いつものメンバーの、いつもの空気だ。
その中心で、ヨシノリが箸を動かしながら笑っている。
昨夜決めたことが、改めて腹の底に落ちるような感覚があった。
怖くないわけじゃない。
それでも、この笑顔をもっと近くで見たいという気持ちが、今は他の何より大きい。
少なくとも、何も言わないまま帰る選択肢が、もう浮かばなかった。