疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第401話 滑落

 屋久島にある白谷雲水峡に着く頃には、パラパラと小雨が降りだしていた。

 傘を差すほどでもない、霧のような雨だ。苔むした岩や木の根が濡れて、緑の色がいっそう深くなっている。踏み出すたびに足元から湿った土の匂いが立ち上って、東京では嗅いだことのない種類の空気が肺に入ってきた。

 

 この場所は、有名なアニメ映画の聖地だ。

 修学旅行のコースの中でも、正直ここが一番楽しみだった。

 実際に来てみると、映像で見たそのままというか、むしろ映像より深くて重い感じがする。

 苔が岩を覆い、木の根が地面を這い、水の音があちこちから聞こえてくる。

 ここで何百年も時間が積み重なってきたんだという感覚が、足の裏から伝わってくるようだった。

 

「すごいね……」

 

 隣でヨシノリが呟いた。

 声がいつもより静かだった。

 どうやら、この場所の空気に飲まれているのは、俺だけじゃないらしい。

 

「こっちのコース選んで正解だったな」

 

 太鼓岩を目指して、グループで登り始める。

 道は整備されているとはいえ、雨で濡れた木の根や岩が続いていて、足元を選ばないと滑る。

 俺の前をヨシノリが歩いていて、後ろからナイトとゴワス、アミと喜屋武が続いている。

 

 雨が強くなってきた。

 霧のような細かさだったものが、いつの間にか粒になっている。

 木の葉を叩く音が大きくなって、視界が白くぼやけ始めた。

 

「ちょっと雨強くなってきたね」

 

 雨合羽の雨粒を落としながらナイトが言った。

 

「長谷川先生。どうしますか?」

「もう少し進んだところで休憩できるからそこで雨宿りしつつ、様子見ようか」

 

 そのまま進むことになり、足元に気をつけながら登り続ける。

 そのときだった。

 前を歩いていたヨシノリの足が、濡れた木の根の上で滑った。

 

「わっ」

 

 声を上げる間もなかった。

 ヨシノリの体が傾いで、俺は咄嗟に腕を伸ばした。

 指先がヨシノリの袖を掴んだ瞬間、俺の足元の土が崩れた。

 

 視界が回転した。

 斜面を転がる感覚が三半規管を襲う。木の根や岩が体に当たって、何かに背中を強く打ちつけて止まった。

 

 しばらく動けなかった。

 全身がじんじんしていて、背中と肘が痛い。

 雨が顔に当たっている。

 

「痛た……」

 

 隣で声がした。

 ヨシノリが地面に座り込んで、膝を抱えていた。

 泥で雨合羽が汚れていて、頬にも泥がついている。

 ゴムが切れたのか、ポニーテールが崩れかかっていた。

 

「大丈夫か」

「足、ひねったかも」

 

 立ち上がろうとして、顔をしかめる。本格的にやってしまったらしい。

 

「動くな」

 

 周囲を見回すと、木が密集していて、空が見えない。

 雨の音と、水の流れる音だけがする。

 さっきまでいたルートが、どこにあるかわからなかった。

 上から声がするかと思って耳を澄ませたが、雨音に混じって何も聞こえない。

 スマホを見てみると、圏外だった。

 

「みんなの声、聞こえる?」

 

 ヨシノリが掠れた声で尋ねてくる。

 

「聞こえない、な」

「道、わかる?」

「わからない」

 

 二人でしばらく黙った。雨がどんどん強くなっていく。

 木の葉から落ちる水滴が肩を叩いた。

 

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