疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第403話 何者にもなれなかった男の話

 雨の音が、少し遠くなった気がした。

 どこから話せばいい。頭の中で言葉を探して、見つからなくて、気づいたら口が動いていた。

 

「その昔、小説家を夢見ていたが、三十過ぎても何者にもなれなかった男がいた」

「急になんの話?」

「まあ、いつもみたいに小説の話だと思って聞いてくれ。その男は昔から共感性に乏しく、悪い意味で自己完結している性格だったこともあって、孤独なまま夢に向かって努力し続けていた」

 

 ヨシノリは何も言わなかった。膝を抱えたまま、こちらを向いている。

 

「その男には、幼馴染がいた。昔は仲が良かったのに、

中学のときに自分から距離を取ってしまった。成人式で再会したときも、碌な再会じゃなかった」

「相変わらず、幼馴染モノ好きよねカナタ」

 

 雨の中でヨシノリが少しだけ笑った気配がする。

 

「一心不乱に小説家を目指していた男には、唯一小説以外のことで後悔があった。それは幼馴染とのことだ」

 

 俺の死ぬ気の執筆期間終盤で発露した気持ち。

 作品の質を高めるために、自分自身を掘り下げていった結果出てきた紛れもない俺の原点。

 

「執筆による過労で体調を崩し、もうろうとする意識の中、男はある作品を書き上げた。高校生の自分が幼馴染と青春の日々を送るラブコメ作品だ」

「……それって」

 

 雨の中でも、ヨシノリが息を呑む音がはっきりと聞こえた。

 

「その作品を書き上げたとき、男は気づいた。自分は幼馴染が好きだったんだってな」

 

 雨が木の葉を叩いている。足元の土が、じわじわと濡れていく。

 

「だが、無情にも男は夢を叶える前に死んだ。無茶をしすぎた結果だ」

「死ん、じゃったの」

「ああ、あっけなくな。そして、男は死んだとき、自分の書いた小説の世界に転生した。それを男はタイムリープだと信じ込んだ」

 

 ヨシノリの呼吸が、わずかに変わった。

 

「その世界は極めて現実に近いフィクションの世界だった。世界は主要人物に役割を押しつける。主人公になってしまった男は恋愛感情を抑制され、ヒロインである幼馴染はやたらとスケベな目にあったりとかな」

「あー……」

 

 なんとも言えない複雑そうな声が聞こえた。

 そりゃそんな反応にもなるだろう。

 

「幼馴染との旅行で気持ちが盛り上がり、自分の本当の気持ちに気づいた男は、世界から弾き出され元の現実世界へと飛ばされ、こちらに戻ってくるまで三ヶ月かかっちまった」

「その三ヶ月間は何してたの?」

「神様の代行をやっている後輩と一緒に元の世界に戻る手がかりを探していた」

 

 雨音だけが続く。

 ヨシノリは何も言わなかった。

 俺の顔を見たまま、動かない。

 信じているのか、信じていないのか、表情から読み取れなかった。

 

「ちなみに、現実に近いフィクションの世界はもう一つの現実――歴とした〝平行世界〟として成立したから、もうおかしなことはおきないんだとさ」

 

 俺の言葉に、ヨシノリの目が僅かに揺れた。

 

「つまり、もう()()恋愛感情を抑制されることもない」

 

 雨が強くなってきた。木の葉が風に揺れて、水滴が肩に落ちてくる。

 

「荒唐無稽な話だ。信じなくていい。だけど、これは全部本当のことだ」

 

 ヨシノリは黙っていた。

 俺は息を吸った。

 

「俺は、ヨシノリのことが好きだ」

 

 言葉が、雨音の中に落ちた。

 一周目でも、二周目でも、ずっとそうだった。

 それだけは変わらなかった。

 

「昔からずっと好きだった。それを言えなかったのは、俺が臆病だったからだ。ごめん」

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