疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
雨音だけが、森に満ちていた。
ヨシノリは動かなかった。
膝を抱えたまま、俺の顔を見ている。
何も言ってくれないまま、時間だけが流れていく。
無言の時間の間に降り込む雨が、二人の間の空気ごと濡らしていくようだった。
やがて、ヨシノリがゆっくりと顔を上げた。
濡れた前髪が額に貼りついていて、崩れたポニーテールが肩にかかっている。
その顔が、俺のほうへ近づいてきた。
気づいたときには、唇が触れていた。
雨の匂いがした。
冷たくて、やわらかい。
そして、熱い。
ヨシノリが離れて、また膝を抱えた。
耳まで赤くなっていて、俺のほうを見ていない。
濡れた睫毛が、伏せた目の縁で揺れている。
「荒唐無稽すぎて、信じられないけど」
掠れた声だった。
「……信じたい、と思った」
雨が降り続けている。足元の土が水を含んで、沢の音がさっきより太くなっていた。
「カナタが変になってから、ずっと怖かった。また昔みたいに、疎遠になるのかなって」
「もう大丈夫だ」
「そっか、大丈夫なんだ」
ヨシノリが、ようやく俺のほうを向いた。目が赤くなっていた。
雨のせいか、そうじゃないのか、判断がつかなかった。
「あたしも、カナタのことが好きだよ」
言葉が、静かに落ちた。
ずっと聞きたかった言葉だった。
一周目でも二周目でも、指の間から砂がこぼれるみたいに遠ざかり続けた言葉が、雨の降る森の中で俺のそばにある。
「ずっと好きだった。言えなかったのはあたしも同じだから、お互い様」
「お互い様にしちゃ、ヨシノリの負担が大きすぎた気がするけどな」
「それはそう。何回あたしが恥晒したと思ってるの……もう」
ヨシノリが目を細めた。泣いているのか笑っているのか、どっちとも取れる顔だった。雨粒が頬を伝って、顎の先から落ちていく。
「まったく、カナタは本当に……」
続きは言わなかった。言わなくてよかった。
雨が弱くなっていた。
木の葉を叩く音が遠のいて、代わりに沢の水が岩を叩く音だけが残っていく。
湿った土の匂いが、ゆっくりと薄れていく。
ヨシノリの足首はまだ痛むらしく、立ち上がろうとして顔をしかめた。
肩を貸すと、ヨシノリの体重が俺の肩にかかってきた。
雨合羽越しでも、体温が伝わってくる。
そのとき、上のほうから声がした。
「カナター! ヨッシー! おーい!」
「こっちですか!」
「返事しろや!」
喜屋武の声だった。続いてアミの声と、ゴワスの怒鳴り声が重なって聞こえてくる。
俺とヨシノリは顔を見合わせた。
ヨシノリの目がまだ赤かった。
俺の肩に手を置いたまま、声を落として言う。
「いこっか」
「ああ、みんなのところへ戻ろう」
ヨシノリが小さく頷いて、俺の肩から手を離した。
「こっちだよー!」
足首をかばいながら、声のするほうへ向けて叫ぶ。
その声は、いつも通りだった。
足音が近づいてくる。
ナイトが木の間から顔を出して、俺たちを見つけた瞬間に膝から崩れ落ちた。
「無事でよかった……本当に良かった!」
「大袈裟――でもないな。すまん、心配かけた」
「ったく、心配かけさせやがて! 探し回ったんだぞ!」
喜屋武とアミが駆け寄ってきて、ヨシノリの足首の具合を確認し始める。
賑やかな声が、森に響いていた。
ヨシノリが喜屋武に支えられながら、こちらをちらりと見た。
目が合った瞬間、すぐに逸らした。
耳がまだ赤かった。たぶん、俺も赤くなっていたと思う。