疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
それからはてんやわんやの大騒ぎだった。
少しの間とはいえ、森で滑落して遭難。
当然、病院で診てもらったり、いろいろと目まぐるしい事態へ発展してしまった。
俺もヨシノリも目立った怪我はしておらず、軽い処置をしてもらうだけで済んだのは幸運だったのだろう。
そのおかげで、最終日はきっちり班行動を楽しむことができている。
「おめでとうございます。カナタ君、由紀ちゃん」
「めでたいさー!」
班行動の日の朝。先にヨシノリから話を聞かされていたアミと喜屋武から、開口一番に祝福の言葉をかけてもらった。
二人とも笑顔だったが、その笑顔の温度差がかなり違った。
アミは穏やかで、喜屋武は沸騰寸前みたいな顔をしていた。
「ありがとな、二人とも」
「由紀ちゃんを泣かせたら許しませんよ」
「いろんな意味で」
「……神に誓って泣かせない」
目にハイライトがなかった。
笑顔なのに笑顔じゃない、軽くホラーな圧力だった。
しっかりと釘を刺されたことだけは理解した。
「やっとこれで男子組が全員彼女持ちってわけか」
「待ってくれ、ゴワス。僕と愛夏ちゃんはまだ付き合ったわけじゃないんだけど」
「細けえことはいいんだよ」
ゴワスとナイトも、心から俺とヨシノリが付き合ったことを祝福してくれた。
「いやぁ、おめでとう二人とも!」
「ようやくかーって、気持ちのほうが強いけどね」
点呼で集合した際には、クラスメイトである月見里や竜胆に、祝福とも呆れともつかない言葉をかけられた。
「長かった……本っ当にここまで長かった……!」
俺の隣では、空いてる方の手でヨシノリが目元を押さえていた。
「マジで待たせてごめんな」
「これでもカナタ的には最短ルートで来てくれたってことはわかってるから。気にしないで……いや、やっぱり気にして」
恋人繋ぎで歩くヨシノリの手は、思ったより小さかった。
握ると、向こうもしっかりと握り返してくる。それだけのことなのに、足元が妙にふわついた。屋久島の石畳に翼でも生えたような、落ち着かない感覚だった。
「何ニヤニヤしてんの」
「してない」
「してるよ。顔に出てる」
「ヨシノリだって」
「してないし」
してた。耳が赤かった。
班行動は観光スポットを巡るコースだった。
土産物を見て、名物を食べて、写真を撮って。
大したことをしているわけでもないのに、一個一個がやけに鮮明に目に焼きついた。
ヨシノリが店先で悩む顔も、アミと何かを囁き合って笑う横顔も、ゴワスに茶化されて俺の腕を叩く仕草も、全部だ。
帰りのフェリーに乗り込む頃には、日が傾いていた。
海面がオレンジ色に染まって、波の一つひとつが光を弾いている。
デッキに出ると潮の匂いがして、来るときと同じ風が頬に当たった。
ヨシノリが柵に手をかけて、海を眺めていた。
夕日を受けたポニーテールが、風に揺れている。
「楽しかったね。屋久島、また来たいな」
「いくらでも連れてきてやるよ」
「期待してるわ」
こちらを見ないまま、ヨシノリが言った。
返す言葉を探して、見つからなかった。
その代わりに、柵に置かれたヨシノリの手に、自分の手を重ねた。
ヨシノリは何も言わなかった。
波の音が、ゆっくりと続いていた。