疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
空港で解散して、俺とヨシノリは同じ電車に乗った。
修学旅行の荷物を膝の上に置いて、並んで座る。
車内は空いていて、向かいの席に誰もいなかった。
窓の外を街の灯りが流れていく。
三日分の疲れが全身に染み込んでいるのに、不思議と眠くならなかった。
しばらく電車に揺られながら、ずっと気になっていたことを口にした。
「ホワイトデー。旅行に行ったよな」
ヨシノリの肩が、わずかに動いた。
「覚えてたの?」
「さすがに覚えてる。ただ、旅行の途中から記憶がない。世界の移動のあれこれと絡んでるんだが、気づいたら終わってた」
正確には、補完存在が俺の代わりに旅行の残りを過ごした。
どんな会話をして、どんな時間を送ったか、記録としては残っていても実感が伴わない。
虫食いだらけの本を読むような、もどかしい空白だった。
「あの旅行、どうだったんだ」
ヨシノリは窓の外を見たまま、少しの間を置いた。
「最悪だったよ」
平坦な声だった。
「そりゃいろいろあったけど、最初は楽しかったよ。カナタも本気であたしを喜ばせようとしてくれたのがわかったし」
そこで一度、口を閉じた。膝の上で指が組まれて、また解かれる。
「一緒にお風呂入ったとき、雰囲気よくなったじゃん」
「ああ、確かそこで恋愛感情を自覚して世界から弾き出されたんだ」
「よりにもよって、そこか……あのまま何かあるかなって思ったら、何もなくてガッカリしたんだからね?」
窓の外を流れる灯りが、ヨシノリの横顔を照らしては消えていく。
「脈なしだったんだなって、思った。あたしの勘違いだったって」
胃のあたりに重いものが沈んだ。
ホワイトデーの旅行で気持ちが高まって、そのままフェードアウトしたように見えた。
補完存在がやらかした結果が、これである。
「ごめんな」
「謝ってばっかりだね」
「謝ることしかできないからな」
「もういいって」
ヨシノリが肩をすくめた。
昨日までと違う、本当にもういい、という意味の軽さだった。
「ただ一個だけ言わせて――あのとき告白してくれてたら、すぐ付き合ってたからね」
声が少し尖っていた。返す言葉が見つからなかった。
「覚えておきます」
「今更だけどね」
電車が駅に滑り込んで、ドアが開いた。
乗り降りする人の気配がして、またドアが閉まる。
車内が静かになると、二人分の呼吸だけが残った。
最寄り駅で降りると、夕方の空気が肺に流れ込んできた。
修学旅行の荷物が肩に食い込む。
三日分の疲れが足の裏からじわじわと這い上がってくるのを感じながら、並んで歩いた。
ヨシノリの手を握ると、向こうも握り返してきた。
その温度が、疲れを吸い取るように掌に馴染んでいく。
しばらく歩くと、俺の家の前で足が止まった。
「じゃあ、またな」
「うん。お疲れ様」
ヨシノリが手を離して帰ろうとしたとき、玄関の鍵が開く音がした。
ドアが開いて、愛夏が顔を出した。
俺とヨシノリを交互に見て、さっきまで繋いでいた手の跡をちゃっかり確認して、口の端をゆっくりと上げた。
「あれ。もしかして、ようやく付き合ったの?」
「なんで報告しようと思った矢先に気づくんだよ」
愛夏が心底嬉しそうに拳を握った。
こいつは本当に察しが良い。
「おめでとう! お兄ちゃん、由紀ちゃん」
「ありがとう、愛夏ちゃん」
ヨシノリが笑った。愛夏も笑った。
玄関先で、二人の笑い声が重なっている。
一周目でも二周目でも、たどり着けなかった場所に、俺は今立っている。
小説家を夢見た男が書いた物語は、幼馴染との青春だった。
書いていた本人が、まさかその結末までを自分の足で歩くことになるとは思っていなかった。
ヨシノリの笑顔が、街灯の光の中に溶けている。
俺は、疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直した。
これが、俺の書いた