疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第53話 団地での果し合い

 日が傾き始めた頃、俺は団地の前でヨシノリを待っていた。

 夕日に染まる団地は、懐かしい記憶を呼び起こしてくれる。ひび割れた階段のコンクリート、薄汚れたエレベーターのボタン、吹き抜けに響く子どもたちの笑い声。

 そのどれもがあの頃と変わらずに残っている。

 

「よっすー、カナタ」

 

 そんな思考を断ち切るように、軽快な声が飛んできた。

 顔を上げると、ヨシノリがコロッケを頬張りながら歩いてくる。その手にあるのは、近くの肉屋の揚げたてのやつだ。小学校の頃、一緒に食べていたからよく覚えている。

 

「お前……コロッケ食いながら来るとか、緊張感なさすぎだろ」

 

 つい先日まで冷戦状態だったというのに。

 俺が呆れた声を出すと、ヨシノリはニヤリと笑い、サクッと音を立てながらかぶりついた。

 

「別に食べながらでも勝てるしー」

 

 その言葉に、自然と口元が緩む。この軽口も、どこか懐かしい。

 少し安心した。今のヨシノリの表情には、以前ほど険悪な雰囲気はない。

 

「てかさぁ、今時果たし状って……もっと他に方法なかったの?」

 

 ヨシノリは呆れたように、俺がこっそり下駄箱に入れておいた果たし状をひらひらと揺らす。

 

「まともに話せる状態じゃなさそうだったし、他に思いつかなかったんだよ」

「普段は目標向かって一直線のカナタらしくないじゃん」

「知ってるだろ。俺は小説が絡まないとてんでダメなポンコツ野郎なんだ」

 

 今回はヨシノリが絡んだからダメになったとも言えるけど。

 

「それで、果たし状の内容は読んだのか?」

「エレベーターアクションで勝負、でしょ?」

「久しぶりにな」

 

 俺が団地を指さすと、ヨシノリはふっと息を吐き、懐かしげに上を見上げた。

 見慣れた団地。対戦ゲームよりも、俺たちが何度も戦ったステージがそこにはあった。

 

「十人くらいいないと盛り上がらないんじゃない?」

「さすがに今からキクりんやシューヤ、平井は呼べないだろ。てか、連絡先知らないし」

 

 小学校の頃、一緒に遊んでいた仲間たちの名前を挙げると、ヨシノリの目が見開かれる。

 

「懐っ! あんたよく覚えてたわね」

「俺にとっても、大切な思い出だったからな」

「……そっか」

 

 そう言うと、ヨシノリの表情が一瞬ふっと緩んだ。その表情はこの前とはどこか違い、悲しみの色は含まれていないように思えた。

 

「ルールは昔と同じでいいの?」

「ああ、そのほうがわかりやすい。制限時間は四十分、最後に鬼だったほうの負けだ」

 

 時間も限られているし、昔のように日が暮れるまで何戦もやるわけにはいかない。このくらいがちょうどいいだろう。

 俺たちは自然と団地の入り口へと歩みを進める。

 

「で、あたしが勝ったらカナタはあたしの言うことを何でも聞く。カナタが勝ったら言い訳をする権利を得る……って書いてあったけど、これどういうこと?」

「今の俺はヨシノリに言い訳する資格すらないからな。だから、勝ったら聞いてもらう」

 

 俺が真剣に答えると、ヨシノリはため息をつきながら額に手を当てた。

 

「はぁ……ホントにこいつは」

 

 ため息をつくとヨシノリは呆れたように額に手を当てた。

 

「さすがに条件がフェアじゃないって。お互いに何でも言うことを聞くにしよ」

「ん? 今、何でもって言った?」

 

 つい前のめりになって聞き返してしまった。

 しまった。未来での悪い癖が出てしまった。

 インターネットに染まりすぎると碌なことがない。

 

「急に、何? そんなに勢いづい、て……っ!?」

 

 ヨシノリは一瞬動きを止めると、顔を赤くして俺をジト目で睨む。

 夕陽に映えるオレンジ色のアイシャドウが、不覚にも色っぽく見えてしまう。

 

「……えっち」

「い、いや、違っ」

 

 破壊力抜群の一言に、思わず挙動不審になる。

 おかしい、こんなはずじゃなかったのに……。

 

「と、とにかく、その条件なら言い訳に使わせてもらうからな!」

 

 強引に話を戻す俺を、ヨシノリはじっと見つめ――そして、挑発的に笑った。

 

「あたしに勝てたら、の話でしょ」

 

 その一言で、勝負のスイッチが入った。

 

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