疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第54話 エレベーターアクション

 じゃんけんの結果、ヨシノリが鬼スタートになった。

 

「おーっと、これは絶望的な展開だねぇ」

「体力で負けてるからって逃げきれないとでも?」

「小学校のときも同じこと言って負けてたじゃない」

 

 エレベーターアクション。それは、エレベーターを使って行われる頭脳戦だ。

 この団地のエレベーターは動作が遅く、タイミングを間違えると罠になる。

 

「どうせ最上階に逃げるんでしょ?」

「さあな。ちゃんと20秒後スタートな」

 

 俺は入口前で待つヨシノリに声をかけてエレベーターへ乗り込む。

 最上階のボタンと同時に二階のボタンを押す。

 二階で降りた俺はすぐにしゃがんで息を殺す。

 すると、ヨシノリがダッシュで階段を駆け上がる音が聞こえてくる。あいつ、最上階までダッシュで上る気かよ。

 

「とにかくこれで時間が稼げ――は?」

「よっすー」

 

 俺の背後には、いつの間にか笑顔を浮かべたヨシノリが肩に手を置いていた。

 

「それじゃ、20秒数えてねー!」

 

 ヨシノリは軽く手を振ると、すぐにエレベーターへ駆け込んでいく。

 

「くそっ、やられた……!」

 

 俺はその場で悔しがりながらも、すぐにカウントを開始する。

 

「1、2、3……」

 

 ヨシノリの逃げ方を思い出す。やつはスピードで振り切るタイプだが、詰めが甘い。

 エレベーターアクションは頭脳戦なんだよ!

 

「20!」

 

 すぐにエレベーターのボタンを押し、上へ向かう。エレベーターは八階で止まっていたが、ヨシノリが六階にいると推測。

 裏をかくため、エレベーターが五階で止まると同時に俺は飛び出し、しゃがみながら反対側にあった階段へと移動して駆け上がる。

 予想通り、ヨシノリが六階からこっちへ降りてくる途中だった。

 

「ちょっ、何でわかったの!?」

「思考が筒抜けなのはお互い様だからな!」

 

 階段で正面から鉢合わせになったヨシノリが慌てて方向展開してエレベーターのほうへと向かおうとする。

 その瞬間に俺は床を蹴り、一気に距離を詰めた。

 

「捕まえた!」

 

 ギリギリのタイミングでヨシノリの背中を叩く。

 

「くっそー!」

 

 ヨシノリが悔しそうに唇を噛む。

 

「じゃあ今度はあたしが鬼ね!」

 

 一瞬で切り替えたヨシノリが嬉しそうに笑いながら、すぐにカウントを始める。

 

「1、2、3……」

 

 まずい、このままではすぐ捕まる。

 俺は一階まで降りて団地の外へ走り、駐輪場の自転車の影に身を潜めた。

 

「……ここならバレないはず」

「カナター?」

 

 静かに息を潜めていたはずが、遠くからヨシノリの呼ぶ声がする。

 彼女も適当に走り回るのではなく、俺の行動をしっかり読んでいるということだ。

 

「さて、そろそろ出てきなさい?」

 

 ヨシノリがゆっくりと駐輪場へと近づいてくる。

 

「チッ」

 

 これ以上ここにいるのは危険だ。

 俺は一か八か、自転車の隙間を抜けて全速力で駆け出した。

 

「みーつけたっ!」

 

 ヨシノリが追いかけてくる。

 俺はエレベーターに向かってダッシュする。

 ボタンを連打し、ドアが開いた瞬間に飛び込む。

 

「待てぇぇぇ!」

「間に合えぇぇぇ!」

 

 ギリギリのタイミングでヨシノリが手を伸ばすが間一髪、扉が閉まる。

 

「危ねぇ……」

 

 安堵する俺。

 しかし次の瞬間、エレベーターのドアがもう一度開いた。

 

「え?」

「捕まえた」

 

 目の前にはヨシノリのドヤ顔。

 

「間一髪、ボタンを押すのが間に合ったようね」

「ちくしょう」

 

 俺は抵抗する間もなく、鬼に逆戻りした。

 

 それからも俺たちの攻防は続いた。

 

「くっそ、待て!」

「待たないよーだ!」

 

 ただ夢中で追いかけた。

 

「ちょ、Yシャツを囮にするなんてズルい!」

「大島の忍者、平井の技を借りただけだ!」

 

 ただ夢中で逃げた。

 

「裸足のあたしは二倍速いわ!」

「お前、靴脱ぐのはズルいだろ!?」

 

 俺はヨシノリだけを見据えて走り続けた。

 

「タッチ!」

「ああ、もう!」

 

 息が苦しい。まるで宙に浮いているような感覚が襲う。

 それでも、止まる気にはなれなかった。

 俺が心から求めた時間がそこにはあったからだ。

 

 しかし、楽しい時間も終わりのときがやってくる。残り時間が二分を切った。

 

「バレバレなんだよね、カナタの行動パターン!」

 

 ヨシノリは上階の吹き抜けから俺を見つけて叫ぶ。

 

「なら、こうするまでだ!」

 

 俺は階段を駆け下りながらエレベーターのボタンを押した。

 

「しまった!」

「各駅停車作戦だ」

 

 エレベーターが全ての階で止まり、追いかける側も使いづらくなる。

 

「甘いよ、カナタ!」

 

 ヨシノリはそう叫ぶとエレベーターを飛び出し、ダッシュで階段を駆け下り始める。

 

「こっちは、足で詰められるんだよね!」

「くっ……!」

 

 俺は息を切らしながら、三階で反対側のエレベーターへと乗り込む。

 

「ボタンは……最上階でセット、降りるのは五階だ!」

 

 俺は五階で降りると、吹き抜けから回収したYシャツを落として下の階に引っ掛ける。

 二度目は効果が薄いが、一瞬でも気が逸らせるはずだ。

 

「これは……」

 

 そして、エレベーターホールに行って気がつく。

 ヨシノリの足音は階段から聞こえてくる。それなのに各駅停車をさせたエレベーターが一階から上に登ってきていたのだ。

 

 なるほど、この団地の住民か。どうせこれだけ騒いだら後で怒られるんだ。

 最後の勝負に囮に使ったところで結果は変わらないだろう。

 

「ふふん、この勝負あたしの勝ちね!」

 

 息を殺して隠れていると、ヨシノリは勝ち誇ったようにエレベーターの前で仁王立ちしていた。残り時間は20秒だ。

 そして、エレベーターが空いた瞬間、ヨシノリは手を伸ばす。

 

「残念だったわね! 捕まえ、たぁ……」

 

 尻すぼみになっていくヨシノリの声。

 かかったな、バカめ。お前が捕まえたのは、団地の住民だ。

 

「残念だったなヨシノリ! この勝負、俺の勝ち――あ、どうも……」

「あら、もしかして奏太君? 見ない内に大きくなったわねぇ」

 

 そこにいたのはただの団地の住民ではなかった。ある意味、真の鬼と言える存在だ。

 

「さて、二人共……お話があります」

 

 ヨシノリの母親、佐藤紀香(さとうのりか)さんの静かな声が団地に響いた。

 

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