疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
ぐちゃぐちゃになった制服を着直し、お暇することにした。
「それじゃ、奏太君。またいらっしゃい」
「ご迷惑をおかけしました」
俺は紀香さんに深々と頭を下げて佐藤家を後にする。
不思議な気分だった。ヨシノリとエレベーターアクションをしているときは、これを小説の糧にしようだとか、そういったことは一切浮かばなかった。
ヨシノリと一緒に過ごしていると、俺は作者ではなく一人のキャラになれる。そんな気がした。
「カナタ、待って!」
団地を出たところで、後ろから汗だくのままのヨシノリが追いかけてきた。何だ、もうエレベーターアクションは終わったぞ。
「全部。女バスの子と斎藤から聞いたよ」
「うげっ」
俺は思わず変な声を出してしまった。あの一幕は俺にとっても黒歴史なんだが……。
「あと斎藤の気持ちは嬉しかったけど、きっちりお断りしてきた」
「いいのかよ? せっかくの高校生活、彼氏くらいいたほうが楽しいんじゃないか」
「隣を譲りたくない誰かさんがいるみたいだからねー」
「…………」
これはどういう感情なんだ?
よくわからないが、なんだか背中がむず痒くなってきた。
「あたしもあれから考えてみたんだけど、さ」
ヨシノリはバツが悪そうにポニーテールの毛先をいじりながら告げる。
「カナタにとってキャラは生きている存在で、作り物じゃないんだよね」
「ああ、俺はキャラを何よりも愛してる。ただまあ、そこら辺の奴らはキャラの素材にしていることは否めないけど」
「そこはもうちょっと何とかしてほしいけどね」
反省を込めつつ言うと、ヨシノリは苦笑する。
「それにトト先曰く、俺はヨシノリといるときだけ感情が表に出るらしい」
「ふーん……そう、なんだ」
ヨシノリはどこか嬉しそうに頬をかく。
「だから、きっと俺はヨシノリの隣にいるときだけキャラでいられるみたいなんだ。それはきっと……――あれ、何でなんだ」
胸の底から湧き上がってきた熱が急激に冷めていく。
あと一歩でわかりそうなところで、俺の思考は止まってしまった。早く思い出せと心は告げるが、それは叶わない。
「そっか」
そんな俺に対し、ヨシノリは目を見て頷いた。その目には、怒りでも呆れでもない。ただ、優しい光だけが宿っていた。
「
「ありがとな、ヨシノリ」
俺はヨシノリに礼を言うと、そのまま帰路へとつく。
これからも俺は彼女と一緒に過ごす。だから、その中で答えを見つけようと思う。
「それで〝何でも言うことを聞く〟ってのは、どうするの?」
唐突にヨシノリがそう切り出した。
「勝者のあんたが敗者のあたしに〝何でも〟要求できるんでしょ?」
「じゃあ、俺が作家デビューしたら頬にキスで頼むわ」
「ひゃえ!?」
ヨシノリの顔が一気に赤くなり、俺を指さして口をパクパクさせる。
「ちょっ……な、何でそうなるのよ!」
「とりあえず、いいのが思いつかなかったから」
どうせ先の話だし、その頃にはヨシノリも忘れているだろう。
「まだ先の話だからな。この世界がそんなに甘くないのはよく知ってる」
その言葉に、俺は小さく息をつく。
「先の話って、あんた二次選考も通ってるじゃない」
「えっ、マジか」
「途中経過に興味なさすぎるでしょ」
深いため息をついた後、ヨシノリがぽつりと呟く。
「……ま、いっか。どうせほっぺだし」
小さく呟くヨシノリの声が、やけに可愛く聞こえた。