疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第2章 書き直しの夏
第60話 当たり前を失った妹


 私はお兄ちゃんが嫌いだった。

 両親は共働きで、幼い私にとって頼れる身近な人間はお兄ちゃんだけだった。

 それなのに、お兄ちゃんは本を読んでばかりで、私のことなんてまるで興味がないようだった。それがどうしようもなく腹立たしくて、悲しかった。

 

「ねえ、お兄ちゃん、遊ぼうよ!」

「……今、いいとこだから後で」

 

 本を片手に、そっけなくそう返されるのがいつものことだった。後でなんて言葉は、結局いつになっても来なかった。

 だけど、近所に住んでいるガキ大将の由紀ちゃんのおかげで、お兄ちゃんは変わった。

 由紀ちゃんは引きこもりがちだったお兄ちゃんを外へと引っ張り出してくれた。

 お兄ちゃんも由紀ちゃんと遊んでいるときは珍しく楽しそうにしていたのをよく覚えている。

 私は、お兄ちゃんと一緒に遊べる由紀ちゃんが羨ましかった。

 

 ある日、思い切って私も混ぜてほしいと言おうとしたけど、由紀ちゃんと男の子たちの活発な遊びを見て、一歩を踏み出せなかった。

 〝女の子だから〟という理由で遠慮してしまった。そんなこと、言わなければよかったのに。

 

「あたしも女だぞ! 愛夏も一緒に遊ぼ!」

 

 けれど、私の気持ちを察してくれたのか、由紀ちゃんのほうから誘ってくれた。このとき、由紀ちゃんが女の子だと初めて知ったんだよね。

 その言葉に嬉しくなって、思い切って鬼ごっこに参加したけど、私は足元をすべらせて転んでしまい、膝をすりむいてしまった。

 泣いていたとき、お兄ちゃんがすごい勢いで駆け寄ってきて、真剣な顔で傷を見てくれた。

 

「大丈夫か? ちゃんと消毒しないと」

 

 そう言って、不器用ながらも傷口を洗った後に絆創膏を貼ってくれた。

 それだけのことなのに、何だかすごく嬉しくて、お兄ちゃんともっと遊びたいと思ったんだ。

 

 でも、私が中学に入ってから、お兄ちゃんと由紀ちゃんは疎遠になってしまった。

 二人が一緒にいる姿を見かけることがなくなった。

 それに伴って、私もお兄ちゃんと関わる機会が減っていった。

 高校に進学し、部活や友達との付き合いに忙しくなると、ますます家で顔を合わせる時間が少なくなった。

 大学に進学してからは、さらに疎遠になった。

 たまに連絡を取ることはあったけれど、それも形式的なものだった。

 

「そうだ、愛夏。お義兄さんから連絡があったよ」

「えっ、珍し! どうしたんだろう」

 

 結婚して新しい生活が始まってから、お兄ちゃんと直接話す機会はさらに減った。

 だからこそ、旦那から伝えられた〝連絡があった〟という報告に少しだけ胸が弾んだ。

 

「ま、大した用事じゃないし、必要ならまたかけてくるでしょ」

 

 結局、私はお兄ちゃんに折り返しの連絡をしなかった。

 わざわざ連絡してくれるくらいには興味を持っているのだから、どうせまたかけてくる。

 そのときは、そんな風に思ってしまった。

 今思えば、あれがお兄ちゃんと話す最後のチャンスだったのだ。

 

 この一年後――お兄ちゃんは小説大賞の受賞と同時に亡くなった。

 

 通話をかけたときには、もうお兄ちゃんが出ることはなかった。

 スマホの通話履歴に残るお兄ちゃんの名前を、何度も眺めた。

 

「何であのとき、すぐに折り返さなかったんだろう……」

 

 そんな後悔だけが、胸の中に残った。

 

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