疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
漫研の活動は夏休みでも行われる。
夏コミに向けて部員たちも本格的に動き出す、ということもなく、部室にはいつもと同じように穏やかな空気が流れていた。
「いやぁ、田中君もとうとう最終選考まで行ったかぁ」
「カナぴの腕なら当然」
「ははっ、ありがとうございます」
当然のごとく、俺の小説大賞三次選考通過はみんな知っていた。
いつもお世話になっている先輩方に報告しようと思って部室の扉を開いた瞬間、クラッカーで盛大に祝われたのだ。この人たち、なんだかんだで陽キャなのでは?
発起人は東海林先輩らしい。部長より部長らしいことしてるけど、やっぱり来年は東海林先輩が部長になるのだろうか。
「それにネット投稿のほうも伸びてて順調なんじゃない?」
「それはトト先のおかげですけどね」
「自分は入り口を作っただけ。内容が面白いから読まれているだけ」
その入り口がどれだけ貴重なのか。もっとトト先は自分の凄さを自覚してほしいものだ。
「一番伸びてるのは〝カミラの聖剣〟か。まさか異世界転生でミステリーするとは思ってなかったから意外性もあったのかな」
俺の投稿作品でも〝カミラの聖剣~タイトル的にこいつが主人公でしょ!~〟はサイト内のランキングでも上位にある伸びている作品だ。
自分の得意なミステリー要素を異世界転生という廃れない人気ジャンルでパッケージングしたのが良かったのだとは思う。
「まあ、反省点の多い作品ではあるんですけどね」
「そうかな? 異世界転生の割に設定も斬新だったと思うけど」
「感想欄でも言われてますけど、別に異世界転生じゃなくても成り立つんじゃないかって意見が結構あるんですよ」
この作品は人気RPG作品〝ルミナの聖剣〟をリスペクトしつつ、タイトルから主人公を勘違いしてしまうあるあるネタをベースに書き上げた。
ただこの作品の主軸は勘違いではなく、原作知識のない主人公が原作で起きた出来事をメタ的に推理していくことだ。
つまり、異世界転生は構造的に必要なだけで、内容の主題ではないのだ。
異世界転生での勘違いドタバタ系を期待した人の要望には応えられないのが、この作品の欠点とも言えるのだ。
「カレーを食べに行ったら、めちゃくちゃうまいビーフシチューが出てきて複雑ってところですかね」
「めちゃくちゃおいしくはあるんだ……」
「期待してたのと違うから微妙。ずいぶん、自分勝手」
珍しくトト先が不機嫌そうな表情を浮かべる。
「そんなことはないですよ。俺もそういう人が釣れるようなあらすじとタイトルにしましたし、そう言われるのはしょうがないです」
それに人気が出てるのだから、成功していると言えるだろう。
商業作品でも悪役令嬢をテーマにしてるのに、悪役令嬢が追放されてからスタートして、全然設定が活かされていないのに面白いものもある。
俺の作品もそれと同じだ。
たぶん、異世界転生ってパッケージングがなければ、面白くても見向きもされなかっただろう。
「でも、なんかモヤるよねぇ」
「モヤってる暇なんてないですよ。今回の夏コミは俺も原稿出すんですし」
「もう提出終わっててよく言うよ……」
コミケに出す原稿のため、今回は短編で原稿を書かせてもらった。
漫画原作をやるのは初めてだったため、一度書いた原稿は東海林先輩がコマ割などを懇切丁寧に教えてくれたおかげで、何とかなった。
というか、東海林先輩は人に教えられるほどのものがあるのに、自分では書かないのだろうか。
まあ、何はともあれトト先のおかげでいい作品になると思う。
「そうだ、田中君。一応、コミケって電波悪くなりがちでガラケーだと連絡取りづらくなっちゃうと思うんだけど大丈夫そ?」
「つい先日、スマホに変えたところです」
愛夏の宿題を早々に終わらせることに成功した俺は、一学期の成績を加味した上でスマホを買ってもらえたのだ。
やはり取れる内に成績上位を取っておいて良かった。
「じゃあ、RINE交換しよう。漫研のグループあるから招待するよ」
「了解です」
ふと、招待された漫研グループRINEにトト先の名前があったことが引っかかる。
「あれ、トト先もスマホなんですか?」
勝手に文明の利器を嫌っているイメージがあったせいで、そんなことを聞いてしまう。
「手軽に資料が取り放題。こういうとこは便利にすべし」
「ああ、スマホは画質いいですもんね……」
未来になれば、性能も上がってほぼデジカメだからなぁ。
このまま、あらゆる電子機器がコンパクトに集結した究極の端末になっていくのだろう。
「カナぴ。もしゆきぽよと出かけることがあれば写真は忘れないように。できればツーショットで」
「いや、なんですかそれ」
「先輩命令」
そう言われては仕方がない。俺もヨシノリとのツーショットは欲しかったところだし。