疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第84話 男子風呂トーク

 男子風呂の暖簾をくぐると、湯気が立ち込め、浴場全体を柔らかく包んでいた。

 俺たちは体を流してから、湯船へと向かう。

 

「くぅ~……やっぱり風呂は最高だな!」

 

 ゴワスが湯船に浸かりながら、満足げに息を吐く。そんな彼の表情はまさに至福そのもの。

 そのまま溶けてしまいそうな勢いである。

 

「さすがに今日は疲れたね……」

 

 珍しくナイトがぐでっとした様子で湯に身を預ける。シャワーで済ませそうなイメージがあったが意外としっかりと湯に浸かるタイプのようだ。

 そんな中、俺はナイトの隣に腰を下ろした。彼は相変わらず静かで、湯に浸かりながらも何か考えている様子だった。

 

「なんか考え事か?」

 

 俺が尋ねると、ナイトはゆっくりと目を開けた。

 

「いや、ただ……こういう時間も悪くないなって思ってさ」

「そりゃそうだ。やっぱりこういう旅行の醍醐味は、みんなでダラダラすることだろ」

「そうかもね」

 

 ナイトの口元に、わずかに笑みが浮かぶ。普段の彼は冷静であまり感情を表に出さないが、こういうとふとした瞬間に素の表情を見せるのが面白い。

 

「そういえば、俺に嫉妬してるって言ってたよな」

 

 ふと、以前ナイトに言われたことを思い出す。

 ゴワスと険悪だった頃、ナイトが漏らした言葉。

 一体俺のどこに嫉妬する要素があったのか。何だかんだで聞けなかったが、ずっと気にはなっていたのだ。

 

「由紀ちゃんみたいな幼馴染がいて羨ましいなって思っただけさ」

「ナイトには幼馴染いないのか?」

「いたよ。いたけどね……」

 

 ナイトは湯の中で指を組み、少し目を伏せた。湯気の向こうに揺れる彼の睫毛が、どこか寂しげに見えた。

 

「彼女は父さんの上司の娘でね。昔からずっと僕にべったりだった」

「今はもう連絡取ってないのか」

「そうだね。僕から離れたんだ。連絡先ももう知らないよ」

 

 そこで言葉を区切ると、ナイトは唐突に話題を変える。

 

「昔から僕は女子からモテてさ」

「は?」

「それが原因で、少しだけ面倒なことになったことがある」

 

 口調は淡々としていたが、微かに苦いものを含んでいた。感情を抑えて話している分、なおさらその苦さが際立つ。

 

「いじめでも起きたか?」

「ああ、ひどいものだったよ。小学校の女子のそれは特に残酷さ。それなのに、僕は何も知らずに呑気にいじめの主犯の子と仲良くしていたんだ」

 

 ナイトの表情はどこか苦し気だった。きっと、今もずっと後悔しているのだろう。

 

「それで、一歩引くようになったのか」

「下手に関わると、余計にややこしくなることもあるからね」

 

 ナイトの言葉には、どこか達観した響きがあった。昔の経験が、彼をそうさせたのかもしれない。

 

「けど、カナタは違う」

「俺?」

「君は、どんな状況でも真っ直ぐ突っ込んでいく。それが羨ましくもあり、眩しくもあるんだ」

 

 ナイトの言葉に、俺は少し驚いた。いつもの彼からは考えられないような感情の吐露に、一瞬どう返せばいいか迷ってしまったのだ。

 

「俺なんてただの考えなしだぞ」

「でも、君は自分の信じたことに迷わない。僕には、それができない」

 

 ナイトの言葉には、どこか自嘲めいた響きがあった。俺は湯に沈めていた手を少し動かしながら、彼の言葉を噛みしめる。

 

「そのせいで傷ついてしまった子がいる。そして、似たようなことが起きたのに、僕はまた何もできなかった」

「アミの件か」

 

 昼休みのアフロディーテ事件。それはナイトにとって苦い記憶を掘り起こすような出来事だったのだろう。

 

「本当にカナタは凄いよ。君みたいになれたらどんなにいいか……」

「何言ってんだか」

 

 俺みたいになったところで、得られるものは何もないってのに。

 湯船の縁に背中を預けながら、俺はナイトの横顔をちらりと見やる。その目には、今まで見たことのないような弱さと、憧れが同居している気がした。

 

「結局はないものねだりだ。キャラにはそれぞれ役割がある。ナイトと俺じゃ役割が違う、それだけの話だろ」

 

 昼休みのアフロディーテ事件のとき。ナイトは俺の話に乗っかったり、全員の視線を誘導して場をまとめたりと、ナイトにしかできないことをやっていた。

 そりゃ、俺が主導していたから俺の力で解決したようにも見えるだろう。

 

 だが、あれはあの場にいた誰が欠けていても解決できなかった。

 

「田中騎志は田中騎志にしかなれないんだ。なら自分の長所を磨いて伸ばせば、自ずと進むべき道も見つかるだろ」

「そうか、そうだね……」

 

 ナイトはもう一度、静かに頷いた。

 その目からは迷いが少しだけ晴れたようにも見えた。湯気の中に溶け込んでいくようなその横顔は、少しだけ柔らかいものになっていた。

 

「なんか、すっきりしたよ。ありがとう、カナタ」

「どういたしまして」

 

 俺たちは湯から上がり、脱衣所へと向かった。

 ちなみに、ゴワスはのぼせていたので二人で脱衣所まで運ぶ羽目になった。

 

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