疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
コテージの灯りが静かに揺れる夜。波の音が遠くで響き、虫の鳴き声が微かに混ざる。涼しい夜風がカーテンをそっと揺らす中、俺はコテージのリビングでさっそくヨシノリからもらったポメラを開き、黙々とキーボードを叩いていた。
背後ではヨシノリが買ってきたシュークリームをもっきゅもっきゅと頬張りながら、時折こちらをちらりと見てくる。この時間にシュークリームはやばいだろ。
「ねぇ、旅行中くらい執筆やめなよー」
「みんな寝てるんだからいいだろ」
「あたしが起きてるっての」
ヨシノリはため息をついて、ポメラの画面を覗き込む。そして次の瞬間、驚いた声を上げた。
「ひゃえっ、なにこれ!?」
ポメラの画面にはキャラクターの台詞とザックリとしたシーンのメモが並んでいた。地の文を書く予定の部分は空行が多く、まるでスカスカの脚本のように見えるだろう。
「キャラのやり取りだけを先に書いて細かい描写はメモだけして後からちゃんと膨らませる。そうでもしないと脳内で会話してるキャラのスピードに追い付けないからな」
とにかく書く。細かいことは書きながら考える。それが一番俺に合っているやり方だったのだ。
「なんか、プロって感じね……」
「全然アマだけどな」
ここまでやったところでプロになれるわけじゃない。それを俺は一周目で痛いほど理解させられた。
「ちなみに今は何書いてるの?」
「異世界の恋愛モノだ」
俺は画面を見つめたまま、ぼんやりと答える。画面に映るのは、異世界ファンタジーのラブコメ。タイトルは〝オークは語らず、エルフを騙る〟。
物語の舞台は、多種族が共存する異世界。主人公は醜い容姿のオークで、密かに憧れていたエルフの女性に恋をしている。しかし、その恋は絶望的な見た目の差によって叶わないものだった。
そんな中、彼は魔法のアイテムを手に入れ、一時的に美しいエルフの姿を得る。
それによってエルフの女性とも親しくなることができたが、やがて魔法が解けて彼は元の姿に戻ってしまう。
「でも最後は彼女が彼を受け入れて、真の愛を見つける……って話か」
「ざっくりと言ってしまえば、逆美女と野獣ってとこだな」
「よくもまあ、そんなにポンポン思いつくわね」
ヨシノリがシュークリームのクリームを口元につけたまま呟く。
「それしか取り柄がないもんでね」
俺は小さく肩をすくめ、再び画面に目を向ける。
「内容もそうだけど、タイトルもそんなにすぐに思いつかなくない?」
「昔は苦労したこともあったけど、今はすぐに思いつくな」
「なんか秘訣でもあるの?」
「秘訣ってほどのことじゃないぞ。普段から小説にかぎらず、CMや町中の看板、ポスターの見出しとかを意識してるんだ。どういうフレーズが目を引くのか、どういうリズムが頭に残るのかを考えてる」
俺はメモ帳の端にメモした言葉を指でなぞる。印象に残る人の名前やセリフも、思いついたときにすぐ書き留める習慣がある。
「とはいえ、こういうちょっと洒落た感じのタイトルはネットじゃそこまでウケがよくないんだけどな」
「そうなの?」
ヨシノリが驚いたように顔を上げる。
「ネット小説はランキングでタイトルが表示されたときに一発で興味を引かないといけないからな」
「あー、だから長文タイトルが増えたんだ」
「そういうこと。たとえばネット向けにするなら、〝醜いオークだけど、魔法のアイテムでイケメンエルフに変身して憧れのエルフ美少女とイチャラブ生活を満喫します〟とか、そんな感じだな」
「えぇ……絶対さっきのほうがいいのに」
ヨシノリはあからさまに嫌そうな顔をする。
「俺もそう思うよ。でも、ウケるのは後者なんだよ」
ため息をつきながら、俺はキーボードを軽く叩いた。結局はウケなければ中身を見てもらえない。
面白い作品を書くことは大前提。その上でウケる作品を作らなければいけないのだ。
「まあ、悩んでるのはそこじゃない。ラストの部分だ」
「ちょっと待ってそれ書き始めたのいつ?」
「一週間ちょっとだな」
「現時点の文字数は?」
「やっと四万文字ってところだ」
ここ最近はまとまった執筆時間が取れなかったからな。
「やっぱり、その速度はおかしいって。ホントにいつか死んじゃうよ」
「兼業作家でもこのくらいの速度で書く人はざらにいるぞ。無限に時間があるような学生ができない道理はないだろ」
俺は死ぬまで執筆活動に没頭した。より効率よく、より面白い物語を生むために文字通り必死だったのだ。そのノウハウを健康面のマイナスリセット状態で使えるので、一周目より執筆速度が上がるのは必然である。
「学生がプロ作家並みの速度で書いてるのに、無理してないわけないじゃない」
「ただ無理をしただけじゃ効率はよくならないっての。俺のは凡才が無い知恵振り絞ってやってる〝誰にでもできる工夫〟だ」
目標を定めずがむしゃらに頑張ることは努力とは言わない。ただの向こう見ずだ。
「……それができるのがすごいんだけどね」
ヨシノリは呆れたように笑うと、小さくなったシュークリームを口の中へと放り込んだ。