疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第86話 人は見た目じゃない?

「にしても、どうしたもんかな……」

 

 今回の〝オークは語らず、エルフを騙る〟の執筆状況が芳しくないのには理由があった。

 

「何か悩んでるの?」

「まあな」

 

 それは一番盛り上がるラストの展開についてだ。

 キャラたちをしっかり結末へと導く。そのためにもラストの展開は重要だ。

 

 しかし、既に考えてあるラストで俺は珍しく悩んでしまっていた。

 

「ラストの展開がちょっとな」

「どんなラストなの?」

 

 俺がキーを叩きながら呟くと、ヨシノリが興味深そうに訊ねてくる。

 

「主人公は物語中盤で仲良くなるオークの女性と意気投合して、そっちの女性にも心惹かれる。だけど、その女性の正体は、主人公と同じ魔法で姿を変えたエルフの女性なんだ」

「おお! めっちゃいいじゃない! ……あれ、何が問題なの?」

 

 ヨシノリが不思議そうに首を傾げる。

 俺は指を止め、ため息混じりに言った。

 

「結局、顔じゃね? って話になりそうでさ」

 

 画面に映る文章を見つめながら、俺は頭を抱えた。

 

「人は見た目じゃないって話を散々やって、最後に待っていたのは見た目も美しいヒロインとのゴールイン。結局、結ばれるのは見た目がいい相手じゃないかってな」

「でも、ヒロインは内面も綺麗なんでしょ」

 

 ヨシノリは難しい顔をして二つ目のシュークリームの袋を開ける。さすがに太るぞ。

 

「問題はそこじゃない。物語として〝人は見た目じゃない〟ってメッセージを押し出すのに、中身が綺麗なヒロインは結局見た目も綺麗だよねってのが引っかかるんだ」

 

 俺は頭を掻きながら続けた。

 

「要はバランスなんだよな。本音と建前、綺麗事と欲望。それをうまく混ぜるのが大事なんだけど……」

「確かに難しいね」

 

 ヨシノリは顎に手を当て、少し考え込むような素振りを見せた。

 俺は画面を見つめながら、もう一度考え直す。

 

「オークがイケメンになって、エルフの姫が惚れる。でも、最後に魔法が解けても彼女の気持ちは変わらなかった――みたいなオチじゃダメなの?」

「それだと結局〝見た目が大事〟って話になっちまう。だったら最初から顔関係なく好きになれよって話になるだろ」

「なるほどねぇ……」

 

 ヨシノリは納得したように頷く。

 そこでふと気が付く。

 俺もまた、ヨシノリが美少女だったから異性としてときめいたりするのではないだろうか。

 事実、俺はかけがえのない友達としてヨシノリとの思い出を大切にしていた。

 

 だが、そこに異性としての好意はなかった。

 それがどうだ。二周目になってからの俺はヨシノリのことを異性として見てしまう瞬間が多い。

 

 結局は見た目じゃないのか。

 そんな考えが頭にこびりついて離れなかった。

 

「でもさ、見た目って大事じゃん」

「というと?」

「よく見た目か中身かって論争があるじゃない? あれって前提が間違ってると思うんだよね」

 

 二つ目のシュークリームを頬張りながらヨシノリは続ける。

 

「例えばさ、第一印象ってどうしても見た目に引っ張られるじゃない。そこで好印象を持ったら、その後の言動もポジティブに見える。でも逆に、最初に悪印象を持っちゃうと、どれだけいいことを言っても裏があるんじゃないかって疑っちゃうじゃん」

「確かに、それはあるかもな」

「結局、人は見た目から入って、中身を知っていくんだよ。だから、見た目が重要じゃないって話じゃなくて、見た目も中身も大事なんだよ」

「ふむ……要するに見た目は一次面接、中身は二次面接ってとこか」

 

 生まれつきの容姿の差はあれど、人は身嗜みを見る。

 よく言われる清潔感が大事とはそういうことを言っているのだろう。

 

「なるほど。世のブサイクは生まれを言いわけにした努力不足の怠慢野郎ってことか」

「極論過ぎるっての。マジで大勢の敵を生むから二度と言わないで」

 

 うーん、ただの自虐ネタのつもりだったのだが……。俺にカッコいいっていう人は基本的にお世辞か母親目線的なアレだろうからなぁ。

 

「見た目に惹かれるのは自然なことで、それが全てじゃないってことか」

「そういうこと。見た目に惹かれるのは悪いことじゃない。だけど、それだけで終わるなら、それは本当の好きとは言えないんじゃないかな」

「なるほどな」

「それに結局、漫画やアニメで見るならビジュアルは良い方がいいじゃんね」

「そこなんだよなぁ……」

 

 俺は手を止め、ソファにもたれかかる。物語を通じて伝えたいことは何なのか。人間の本音と理想、その折り合いをどうつけるか。

 どうすれば、俺が生み出したこの子たちは幸せになれるのか。

 

 この物語の結末を、俺はまだ探し続けていた。

 

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