疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第94話 もう一組の幼馴染

 壁に沿って青白い光が点々と灯る、静かなトンネルをヨシノリと並んで歩く。

 

「結構天井低いよね、ここ」

「まあ、ヨシノリくらいタッパがあると低く感じるよな。俺も天井の低さには同感だ」

 

 天井は低く、壁に小さな魚のシルエットが浮かんでいる。

 足音を吸い込むようなカーペットの床を進みながら、緩やかな坂を進んでいく。

 

「おっ、ナイトと愛夏だ」

「あら~、うまくやってるみたいね」

 

 前方を見ると、いつの間にかナイトと愛夏が次のエリアで水槽を見ているのが見えた。

 このトンネルを進むと岩肌の壁の隙間から、海を覗いているような気分を味わえる展示があるのだ。

 身長の低い愛夏は苦もなく岩肌の隙間から水槽を覗き込んで目を輝かせていた。

 それを眺めるナイトの表情もどこか穏やかで、俺からみてもいい雰囲気なのはよくわかった。

 

「てか、ヨシノリ。その反応、やっぱり組み分けは仕込みありかよ」

「ちゃんとグッパージャスで別れたでしょ。何を出すかは予想できたから愛夏ちゃんと共有はしたけどね」

「喜屋武には通じてなかったけどな」

 

 言い出したときは、グッパーに対して喜屋武はかなり戸惑っていた。

 やはり、あとで地域差についてはしっかり調べる必要があるな。

 

「あれ……?」

 

 ヨシノリが小さく呟いて立ち止まり、どこか一点を見つめている。気になってその視線の先を追ってみると、壁際に立つ一人の女の子の姿が目に入った。

 ロングヘアで、どこか儚げな雰囲気を纏っている。見たところ、大人しそうな印象だが、その瞳はただ一つの方向をじっと見据え、心ここにあらずといった様子だった。体は微かに強張っていて、不安や緊張がそのまま表れているように見える。

 

「……二人をつけてる?」

 

 俺もすぐに気づいた。彼女の視線の先にいたのは、楽し気に愛夏を見ているナイトだった。

 

「ナイトの知り合いか?」

 

 思わずそう呟くと、ヨシノリは小さく首を傾げながら、考え込むような表情を浮かべた。

 

「うーん……でも、あの感じ、どう見ても話しかけられずにいるっていうか」

 

 俺たちは顔を見合わせる。見ず知らずの他人にしては、あまりにも彼女の視線は熱すぎるし、ただの通行人にしては、あまりにも長くそこに立ち止まりすぎている。

 もしかしたら、何か事情があるのかもしれない。でも、今のままだと、ナイトを尾行しているようにも見える。

 

「ちょっと、話を聞いてみようか」

 

 ヨシノリが静かに言い、迷うことなく一歩踏み出した。その後ろを俺もついていく。こういうとき、彼女の行動力にはいつも感心する。

 

「ねえ、君」

 

 ヨシノリが声をかけた瞬間、女の子は驚いたように肩を震わせた。俺たちの存在に気づいていなかったのか、心臓の音まで聞こえてきそうなほど、彼女の動揺が伝わってくる。

 

「え、えっと……何か……?」

 

 彼女の声は小さく、まるで何かを恐れているようだった。俺はできるだけ穏やかな口調で言葉をかける。

 

「いや、そんなに警戒しなくていいよ。ちょっと気になってさ」

 

 なるべく笑顔を崩さずに、柔らかく語りかける。彼女の表情が、少しだけ和らいだ気がした。

 

「さっきからナイトを見てたよな もしかして、知り合い?」

 

 その言葉に、彼女の表情がピクリと揺れた。言葉に詰まったあと、意を決したように小さく頷く。

 

「もしかしてはぐれた友達の? あの、騎志とは幼馴染です」

「え、幼馴染?」

 

 ヨシノリが少し驚いたように声を上げる。

 すごい偶然である。おそらく、風呂場でナイトが言っていた幼馴染とは彼女のことだろう。

 噂をすれば影が差すとはよく言ったものだ。

 

「でも、話しかけないの?」

「もう昔のことだから。向こうは、私のことなんて……」

 

 彼女の声は、どんどん小さくなっていく。まるで自分の存在が、この場にあってはならないもののように思っているようだった。

 その寂しそうな横顔を見て、俺は違和感を覚えた。

 

 何だろうこの、モヤっとする感じ。

 

 まあ、でも、幼馴染なのに、話しかけられない関係というのは他人事とは思えない。

 それはどこか、かつての俺とヨシノリの関係に似ていた。すれ違い、言葉を交わせなくなった時期のことを思い出す。

 

「でも、気になってついて来たんだよな?」

 

 そっと問いかけると、彼女は恥ずかしそうに視線を逸らしながら、頷いた。

 

「うん。偶然見つけて気づいたら、追いかけてて」

 

 彼女は困ったように微笑んだ。その笑顔に、どこか無理をしている感じがあって、余計に心がざわついた。

 ヨシノリは腕を組み、何かを考えるように目を細める。そして、チラリと俺を見て言った。

 

「……ねえ、これって他人事じゃない気がしない?」

 

 まさに、俺も同じことを思っていた。

 彼女の立場は、かつての俺と重なる。だからこそ、わかる。だからこそ、放っておけない。

 

「だな。たぶん、俺たちなら手伝えるかも」

 

 自然とそう言葉が出ていた。彼女に向き直り、真っすぐに伝える。

 

「せっかくここまで来たんだ。俺たちが手伝うよ、ナイトと話せるように」

「え?」

 

 ナイトの幼馴染は、目を丸くして俺の顔を見つめた。

 

「ほら、せっかくの水族館だし、楽しまなきゃもったいないだろ」

 

 俺が笑ってそう言うと、彼女は少しだけ戸惑いながらも、ゆっくりと頷いてくれた。

 

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