疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第95話 僅かな違和感

 ナイトの幼馴染の名前は、大瀬姫乃さんと言うらしい。お姫様と騎士とは随分とお似合いの名前だ。

 

「へぇ、お二人も幼馴染なんですね!」

 

 俺とヨシノリの関係をざっくりと話すと、姫乃さんは羨ましそうに眼を輝かせた。

 

「敬語はいいって、姫乃ちゃん」

「うん、わかった。よろしくね、由紀ちゃん」

 

 ヨシノリが優しく声をかけると、姫乃さんは小さく頷いて、笑顔を浮かべた。

 俺たちは水族館の通路の一角、アザラシの水槽の前で立ち話をしていた。

 青く澄んだ水の中を、灰色に斑点模様のあるアザラシが優雅に泳いでいる。ふわりと揺れるひれをたよりに、流れるような動きで水の中を進んでいく。その小さな黒い目がこちらを一瞬だけ捉えたかと思うと、すぐにするりと方向を変えて視界から消えた。

 

「あっ、こっち見たよ!」

「水族館のアザラシだからな。ファンサにも慣れてるんだろ。営業がうまいな」

「……いちいち水を差す感想言わないで」

「水族館だけに?」

「違わい!」

 

 俺とヨシノリの軽口に、姫乃さんがくすくすと笑う。空気の張りつめた糸が、少し緩んだ気がした。

 周囲には家族連れやカップルが歩いていて、アザラシの愛嬌ある動きに歓声が上がっている。そんな賑やかな空間の中で、俺たちの立ち話は小さな静けさを保っていた。

 

「ふふっ、仲良いんだね」

「ま、幼馴染だからな」

「中学のときまるまる疎遠になってたでしょうが」

 

 ヨシノリが呆れたようにツッコむ。その声色にはどこか優しさがにじんでいた。俺は頭をかいて苦笑いを浮かべる。

 確かに、あの頃は色々あった。けれど、今こうしてまた一緒に笑えるようになったのは、不思議で、ありがたいことだ。

 

「羨ましいな」

 

 姫乃さんがぽつりとつぶやく。言葉は控えめだったが、その表情からは懐かしさと不安が入り混じった複雑な感情が読み取れた。

 

「ナイト君の幼馴染ってだけで、すごいなあ。彼みたいにモテる人いると大変だったでしょ」

 

 ヨシノリが笑いながら言うと、姫乃さんは小さく笑みを返した。

 

「うん、大変だったよ……本当に、ね」

 

 一瞬、ゾクリと背筋に冷たいものが走る。

 姫乃さんの目が、ふと遠くを見つめるように細められる。その瞳には、今の明るい空気とは相容れない影が差していた。過去に何があったのかまではわからないが、ナイトにまつわる思い出が、彼女の中ではまだ完全に癒えていないのだろう。

 俺はそのまなざしに、妙な胸騒ぎを覚えた。

 

「ちなみに、騎志と一緒にいる小学生くらいの女の子は?」

「あいつは俺の妹だ。ちなみに、よく間違えられるけど中二だ」

 

 姫乃さんが目を丸くする。

 

「ふーん……小学生じゃないんだ」

 

 その言葉に、俺は思わず笑ってしまった。愛夏の童顔は今に始まったことじゃない。成人してからも小学生に間違えられるくらいで、一周目でもしょっちゅう年齢確認されていた。実家にいた頃、玄関先でぼやいていた彼女の姿を思い出す。

 

「愛夏は得してるのか損してるのかわからない顔してるからな」

 

 そんな冗談を交えつつ、会話は少しずつ和やかになっていく。

 姫乃さんは再びナイトのいる方に視線を向けた。遠巻きに見守るようなそのまなざしに、未だ話し足りない想いや、伝えきれない感情が込められているようだった。

 

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