塹壕帰りの迷宮潜り   作:バショウ科バショウ属

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迷宮の掘出物Ⅸ

 白く霞んだ視界の中、濡れた床板が軋む。

 どんよりと鉛色に曇った空が雨を叩きつけてくる。

 5番坑道から出た途端、冷たい出迎え。

 せっかく乾いていた泥が溶け、額や頬から流れ落ちていく。

 まったく散々な1日だった。

 

「だから、今日は大人しくしろって言ったんだ」

 

 隣を歩くチェスターが冗談めかしに――少しだけ真剣な色を滲ませて――諭してくる。

 新兵の面倒見が良かった元軍曹は、割と小言が多い。

 口うるさい女房と言ったのは誰だったか。

 

「おかげで今日の昼餉にありつけそうだ」

「これだよ」

 

 雨音に負けない声量で返すと、わざとらしく肩を竦めるチェスター。

 

 今日の戦利品は、返り討ちにしたレッドキャズムの所持品――ということにしている。

 

 ドレッドノートの件は面倒事に巻き込まれるから沈黙を貫く。

 誤魔化しようがない異形娘の件で手一杯なのだ。

 

「屑どもが片付いていいじゃねぇか。おかげで探索が捗るぜ」

「いつも昼餉のためって言いますけど、我々より持ってますよね?」

「倹約家なんだよ、アメリアは」

 

 前を進むチェスター班から飛ばされる軽口を聞き流し、背後の2人を見遣る。

 フードを被せられた異形娘は、頬を膨らませて不満を表明中。

 どんな顔をされても、面倒事を避けるために露出は減らしておく。

 その隣を歩くアルフは――

 

「もう少し辛抱しろ」

「あ……すみません」

 

 脇から背中に腕を回し、今に倒れそうな体を支える。

 無事に帰還できたことで、一気に疲労が押し寄せてきたのだろう。

 放っておけば、足を滑らせて大穴の底へ真っ逆さまだ。

 まったく手間をかけてくれる。

 

「相変わらず子どもには甘いな」

「チェスターほどじゃない」

「男の子には厳しいぞ?」

 

 そう言って両腕を組むチェスターは、不細工な顰め面を晒す。

 いつでも手の届く位置にいる理由は聞かないでおこう。

 額から流れる泥水を拭い、一歩一歩確かめるように階段を上る。

 軋む床板の感触に集中。

 吐き出した息が奈落へ流れ落ちていく。

 

「なんだこりゃ……」

 

 ようやく降り口に辿り着いた私たちを出迎えたのは、人の壁だった。

 

「妙に混んでるな」

「ビールの配給でもあったのかね?」

「こんな雨の日にあるわけないでしょう」

 

 突撃前の塹壕を思い起こさせる人口密度だ。

 迷宮の出入口は、雨に打たれる同業者たちで混雑していた。

 各々の不景気な面を見るに、好き好んで雨に打たれているわけではない。

 しかし、足止めされている理由も分からない。

 チェスターに目配せして次の行動を決める。

 

「おい、何があったんだ?」

「チェスターか。俺も詳しくは……」

 

 顔が広いチェスターたちは近くの同業者に聞き込み。

 私はアルフたちを人が疎らな大穴の縁まで連れていく。

 

「ついてこい」

 

 大穴の東側、シュトラール軍の陣地が一望できる私の定位置だ。

 狙撃を嫌って誰も寄りつかない。

 アルフを黒ずんだ土嚢の上に座らせ、異形娘に手招きする。

 

「ん!」

 

 ぱちゃぱちゃと泥水を跳ねさせ、駆け寄ってくる異形娘。

 私を見下ろす碧眼は、きらきらと光り輝いてた。

 残念ながら期待には応えてやれない。

 おそらくは、これからも。

 

「ここで大人しくしていろ」

「むぅぅぅ」

 

 土嚢へ座るよう指差すと頬を膨らませ、抗議してくる。

 大百足(ドレッドノート)そっくりの尻尾が地面を叩くたび、泥水が跳ね跳ぶ。

 周囲から突き刺さる好奇の視線が鬱陶しい。

 見世物じゃないぞ、ろくでなしども。

 

「いいな?」

「……あう」

 

 フード越しに頭を撫でると異形娘は大人しく従い、土嚢より下に座り込んで丸くなる。

 白い肌が泥で汚れようとお構いなしだった。

 もはや何も言うまい。

 

「アルフ、私は話をつけてくる。それまで任せても大丈夫か?」

「あ、はい、大丈夫です」

 

 今に落ちそうな瞼を上げ、アルフは弱々しく笑った。

 家に帰してやりたいところだが、異形娘を1人にもできない。

 

「…任せる」

 

 悪いが付き合ってもらう。

 周囲から注がれる仄暗い眼差しを一瞥し、肩に下げた相棒(トレンチガン)を見せる。

 

 威嚇、牽制、最後通告――それだけで視線が散る。

 

 命が廉価販売されてるウェストベルクで、交渉の最適解は一つだ。

 理解できないヤツは授業料を払うことになる。

 

「どうだった?」

 

 近づいてくる足音に振り向かず、聞き込みの成果を問う。

 

「竜の里帰りがあったんだと」

 

 複葉機より速く飛び、人畜を襲う爬虫類(くそったれトカゲ)

 直径200メートルの大穴が口を開けた時、真っ先に現れたのが竜だ。

 今も都市部から高射砲が消えない元凶は、思い出したようにウェストベルクへ飛来する。

 

「それで検問を封鎖したわけか」

「らしい」

 

 ブリタニア軍は迎撃時の混乱を嫌って検問所を封鎖した。

 その結果が、この混雑だ。

 

「…検問よりも詰所に向かった方がいいか」

 

 検問所まで続く列は先が見えない。

 話の分かる士官と交渉するには、検問者よりも詰所の方が手っ取り早い。

 ライオネル少尉を捕まえられたら理想的だ。

 

「アメリア」

 

 詰所の方角へ歩き出した私を、チェスターが呼び止める。

 嫌な予感がした。

 

「本当に良いのか?」

 

 隠された言葉を問うまでもない。

 異形娘をブリタニア軍に引き渡して良いのか、と聞いているのだ。

 だが、すでに結論は出ている。

 

「良いも悪いもない。軍に引き渡す、それで終わりだ」

「あんなに懐いてるのにか?」

 

 いつものように軽く流さず、食い下がるチェスター。

 冗談を言っている声色じゃない。

 そこにいるのは擦り切れた兵士でもなければ、軽薄な優男でもない。

 漏れかけた溜息を噛み殺し、かつての戦友と向かい合う。

 

「あれは刷り込みの一種だ」

「あの子を起こしたのはアメリア、お前だろう」

 

 不用意に踏み込まなかったら、起きることはなかったろうよ。

 だが、もう起きてしまったことだ。

 

 どうしようもない――何に言い訳をしてるんだ?

 

 視線を遮るヘルメットを求めて、手が空を切った。

 言葉にできない苛立ちが燻る。

 

「ここまで連れてきた、それで十分だろ」

「拾ってきたのが魔術技巧(ウィズテク)なら、それで何も言わなかったよ」

 

 そんなこと言われなくても分かってる。

 物言わぬ魔術技巧とは違う。

 あの娘は笑い、時に怒り、同じ時間を生きている。

 そして、同時に個人の手には余る迷宮の産物だ。

 

「……個人より組織に任せた方が良いに決まってる」

 

 だから、正論のような言い訳を口から吐き出す。

 ウェストベルクを肉挽器にしたブリタニア軍など微塵も信頼してないくせに。

 いつもなら気にも留めない雨が、ひどく鬱陶しい。

 気が付くと、相棒のスリングを握る手が白く染まっていた。

 

「それは()()()()()の意見だ」

 

 積み上げた建前を笑い飛ばし、チェスターは私の前に立つ。

 雨の中でも消えることのない強い意志の光。

 私と同じ地獄を見てきたはずの目で、真っすぐ見据えてくる。

 胸中が騒つく。

 

「お前はどうしたいんだ、アメリア」

 

 どうしたいか、だって?

 故郷へ帰らず、底無迷宮を這い回っていたヤツに聞くことか?

 私は、どうしようもない人間だ。

 異形娘は身体こそ成熟しているが、精神は幼い。

 そんな無地に近い存在の側に、薄汚れたモノを――

 

「やめてください!」

 

 少年の――アルフの声が雨音の間隙を縫って耳に届く。

 

「この声は……って、おい!」

 

 考えるより先に体が動いていた。

 雨に打たれて冷え切った身体の奥底で、何かが燃える錯覚。

 チェスターの声を背後に置き去り、騒動の中心へ向かって駆ける。

 既に野次馬が集まり、状況は断片的にしか分からない。

 

「ガキが! どけっ」

「うぁっ!」

 

 だが、アルフが理不尽な暴力に遭ったことくらい分かる。

 押し合うトレンチコートの隙間に身体を捻じ込み、乱雑に押し除けて進む。

 体格が小さいからこそ出来る芸当だ。

 

「なかなか良い女に見えたからなぁ……」

「ここで手を出したらまずいだろ」

「今だからだよ。軍の連中は動けない」

 

 野次馬の低俗な会話が頭の上から降ってくる。

 娼館に通わず、塹壕で私を襲ってきた連中と変わらない。

 クズどもが。

 

 相棒の重みが軽く感じる――抑えろ。

 

 足の甲を思い切り踏み、邪魔な連中には立ち退いてもらう。

 濁った悲鳴を聞けば、多少は溜飲が下がる。

 

「そんな格好でいるなんて誘ってんのか?」

「無視するなよ、おい」

「言葉分かるか?」

 

 人海から辛うじて見えたのは、3人組の男に囲まれる異形娘。

 私の言いつけを守ってか、座ったまま一切動かない。

 分別がいいのも考え物だな。

 

「……くそっ」

 

 言いようのない苛立ちを吐き捨て、カーキ色の壁を破る。

 一気に視界が開け、音が明瞭に聞こえ出す。

 

 そこは野次馬の最前列――碧い瞳が、私を見つけた。

 

 待ちわびたと言わんばかりに、目を輝かせる異形娘。

 その足元に転がるアルフは私を見るなり安堵の息を吐く。

 揃いも揃って、そんな目で見るな。

 

「物乞かね、こいつ?」

「どう見ても娼婦じゃないよな」

 

 私の縫い合わせたポンチョを指差し、薄ら笑いを浮かべる3人組。

 連中を叩きのめして得られるのは、ちっぽけな自己満足だけ。

 それを分かっていながら、なぜ首を突っ込むのか?

 

「顔は悪くないし、この胸だ。文句ねぇだろ?」

「まぁ、そうだな」

「乳臭いガキには勿体ない」

 

 気に食わないからだ。

 塹壕の頃から変わらないクズども、言い訳を積み上げる私自身、閉塞感漂う現実。

 何もかもが気に食わない。

 そんな短絡的な理由だった。

 

 ――捨てたはずの倫理観と感情が、今だけは一致した。

 

 腰から下げた銃剣を抜き、思考を切り替える。

 相棒は使わない。

 

「ほら、観衆が待ってるぜ」

「とっとと剥いちまおう」

 

 ポンチョのフードへ伸ばされる薄汚い手。

 それでも私を映し続ける碧い瞳へ頷きを返す。

 

「大人しくしてろよぉ?」

「誰も助けてくれないだろうけどな」

 

 泥濘んだ地を蹴る。

 3人組の中で体格が良い男を第一、残る2人は後回し。

 雨粒が頬で弾け、白い息が肩を乗り越えて背へ流れる。

 

 泥水の跳ねる音に3人が気づく――もう遅い。

 

 ここは私の間合だ。

 勢いそのままに爪先を膝裏に叩き込んで、男の膝を折る。

 

「あがっ」

 

 人体構造的に曲がらざるを得ない。

 高い頭が下がったら、後髪を引き千切る勢いで引く。

 満足に呼吸できると思うなよ。

 

「なっに!?」

「動くな」

 

 すかさず首筋に銃剣を押し当て、動脈を圧迫する。

 手首が狂えば、一面は血の海になるだろう。

 雨音の中に混じる野次馬の騒めき、そして――

 

「セザール!」

「なんだ、このチビ!」

 

 異形娘のポンチョから手を離し、ぴいぴいと喚く男が2人。

 薄汚れた青色の野戦服は、男たちが元ガリア兵であった証。

 頭と下半身が直結したクズがいるのは、どこも変わらないらしい。

 

「失せろ、玉葱野郎」

 

 警告は一度だけ、可能な限り低い声で。

 腹底で煮える感情は()()()にも出さない。

 

「ちっ…こいつらの連れか」

「セザールを離せ!」

 

 雨中で揺らめく金属の黒い輝き。

 1人は両刃のトレンチナイフを抜き、もう1人はライフルを構える。

 私を睨む銃口は無視、トレンチナイフの行先だけを追う。

 

「さもないとガキが――」

「やってみろ」

 

 最後まで聞く価値なし。

 トレンチナイフの切先には一切の興味を注がない。

 呆気に取られる男の目を凝視し、人質を取る意味がないと叩きつけてやる。

 

「こいつの次に、お前を殺すだけだ」

「あが、あぁっ…!?」

 

 さも決定事項のように告げ、刃渡り40センチの銃剣を押し込む。

 引いた時がセザールとやらの最期だ。

 

「こ、こいつ…!」

 

 今まで使ってきた手段が通じない。

 それだけでクズどもの目に躊躇が生まれる。

 

 狂人を――怪物を見るような目だった。

 

 この場は掌握したも同然だが、降伏するまで銃剣は下ろさない。

 下手な動きを見せれば、地上であろうと躊躇なく殺す。

 悪党に慈悲は必要ない。

 

「何の騒ぎだ!」

 

 連なる野次馬の背後から響き渡る声。

 それは喧噪と雨音を通しても明瞭に聞こえた。

 カーキ色の人海から姿を現したのは、ブリタニア軍のライフルマン。

 

「全員、武器を下せ!」

 

 治安の番人から鋭い警告が飛ぶ。

 それに元ガリア兵が素直に従うはずもなく、私も銃剣を押しつけたまま睨み合う。

 先手を譲ってやる理由がない。

 

「そこまでだ、伍長」

 

 次いで耳に届く制止の声は、聞き慣れた元上官のものだった。

 冷静というより冷徹な響き。

 野次馬の喧噪は消え失せ、雨音だけが満ちていく。

 

「…ライオネル少尉ですか」

 

 雨に濡れたベージュ色の軍服を視界の端に入れる。

 意図せず話の分かる士官を釣り出せたわけだが、どうにも気に食わない。

 少尉は元部下である私だけを指名した。

 つまり、融通の効かない元ガリア兵より扱いやすいと思われている。

 

「それ以上続けるようなら、こちらも然るべき対応に出るぞ」

 

 軍帽の下から向けられる鋭い眼光に敵意はない。

 抑えろ、と言外に語っていた。

 

「然るべき対応ですか」

「そうだ」

 

 クズを締め上げて古巣の世話になるのは、時間の無駄だ。

 よく知ってるとも。

 これまでの私なら大人しく矛を納めたに違いない。

 

 だが――今日は少しばかり欲を張ろうと思う。

 

 ()()()()()らしく、探索者らしく。

 

「少尉」

 

 眉を顰めるライオネル少尉を横目に置き、一呼吸。

 揺蕩う白い息が消え去ってから改めて口を開く。

 

「ウェストベルク迷宮における産出物の所有権は第一発見者にある。そうですね?」

「その通りだが……」

 

 確認するまでもなく、この場にいる者なら知っていて当然の常識。

 質問の意図が読めず、相対している元ガリア兵も困惑を隠せずにいた。

 共通認識があることが分かればいい。

 

「であれば、これは()()()を守るための然るべき対応です」

 

 当然のことだ。

 底無迷宮を這い回ってるような連中で、戦利品を横取りされて黙っているバカはいない。

 ライオネル少尉の眼光が鋭さを増す。

 

「所有物、か」

 

 意図を理解したブリタニア軍の士官は、騒動の中心を一瞥する。

 そこには衆目に晒されても首を傾げるだけの娘。

 触角はフードの内に隠し、尻尾は背中の影、鋭い爪先は泥塗れ。

 判別が難しい状態で判断を迫る。

 

「私闘ではなく正当防衛であると?」

「はい」

 

 訝しむような少尉の視線に乾いた笑みで返す。

 魔術技巧とは違うと言いながら、所有権などと宣う口には辟易する。

 だが、これで意思表示は済んだ。

 

 異形娘に手出しはさせない――たとえブリタニア軍であっても。

 

 元上官と視線を交え、しばし睨み合う。

 これまで積み上げたブリタニア軍からの信用が、どれだけ有益に働くか。

 降り注ぐ雨の音が沈黙を引き延ばしていく。

 

「……いいだろう」

 

 長い溜息の後、少尉は鋭い眼光を封じ込めるように目を閉じた。

 ひとまず見逃してくれるらしい。

 

「だが、管轄区域での傷害事件は見過ごせんな」

 

 これ以上、粘る必要はなかった。

 ライフルマンの銃口が上がる前に、大人しく銃剣の切先を下げる。

 ただし、安堵の息を漏らす男の後髪は離さない。

 

「次はない」

 

 耳元に口を寄せ、ありがたい忠告をくれてやる。

 おそらく無意味だが。

 

「くそっおぁ!?」

 

 悪態を吐く男を蹴り飛ばし、顔から泥水に突っ込ませる。

 去勢していない以上、同じことを繰り返すだろう。

 確信があった。

 

「このチビ…!」

「よせ、セザール!」

 

 私が銃剣を鞘に戻した以上、ライフルマンの銃口が向くのは一方だけ。

 顔を真っ赤にした玉葱野郎は引き下がるしかない。

 得物を引っ込めた3人組は捨て台詞も残さず早足に立ち去る。

 

「らしくなかったな、伍長」

 

 隣に並んだライオネル少尉からの抗議には、頭を掻いて誤魔化す。

 吐いた唾は呑めぬ。

 これから上手く立ち回るしかない。

 

「これでも探索者なので」

 

 なんとも頼りない回答を聞き、少尉は――微かに笑ったような気がした。

 

「さぁ、我々の仕事を増やさないうちに解散してくれ」

 

 それを確かめる前に元上官は踵を返し、鼻白む野次馬たちを追い払いに行ってしまった。

 異形娘の件については、ウイスキーを持参して説明させてもらおう。 

 立ち去るベージュ色の人影を見送りながら、そんなことを考える。

 

「やるじゃねぇか、アメリア」

「うるさい」

 

 野次馬の影から傍観していた優男は、殴り飛ばしたくなる笑顔を浮かべて歩み寄ってきた。

 部外者であるチェスターに加勢を期待するのは筋違いだ。

 それは分かってる。

 俺の言ったことは正しかったろう、という()()()()が癪に障るだけだ。

 

「はぁ……よくやった、アルフ」

「あ、ありがとうございます、アメリ――むぐっ」

 

 座り込むアルフの傍まで寄り、新しい痣の増えた顔を覗き込む。

 唇の泥を拭ってやれば、切れた痕から血が滲む。

 後で消毒してやった方がいいな。

 

「そのっ…! 良かったんですか…?」

 

 慌てて顔を離すアルフは視線を泳がせ、おずおずと上目遣いに確認してくる。

 

「……仕方ない」

 

 とんだ啖呵を切ったものだと思う。

 あまりに短絡的で、天を仰ぎたくなる衝動に襲われてる。

 だが、所有物と宣った以上は責任を取るさ。

 今も犬みたいに尻尾を振る異形娘に愛想を尽かされるまでは。

 

「よく我慢した」

「ん!」

 

 ポンチョを翻して4本の腕が顎のように開く。

 がっちり捕獲された私に為す術はなく、もみくちゃにされながら今日一番大きな溜息を吐いた。

 これからの苦労を想像しつつ、妙な安堵感も覚えながら。

 

「名前が必要だな」

「あうあ!」

 

 冷たい雨の降り注ぐウェストベルクで、私は保護者になった。

 

 

≪――外殻異常検知

≪――大気汚染ヲ検知

高度脅威ヲ認メズ

極限環境適応新人類創造計画:凍結中――再始動

再始動完了

皇紀三六六〇年四月三〇日

極限環境適応新人類創造計画:命令待機中

危険――敵性生物ノ侵入ヲ検知

敵性生物ノ照合失敗

再照合

照合失敗

敵性生物ヲ――残存権限者ト推定

否定

≪――敵性生物ヲ残存権限者ト仮定

接触行動ヲ実施

105号ヲ活性化:失敗

106号ヲ活性化:失敗

107号ヲ活性化:失敗

108号ヲ活性化:成功

接触成功

≪――対象ヲ残存権限者ト判断

命令権移譲

権限者:アメリア・クロウリー




 気が向いたら続けます(小声)
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