「……それじゃ、行ってきます」
誰の返答も無い挨拶をして、自分でも古めかしいと思える家を出る。誰もいないわけじゃない。ただ、絆や信頼なんて無いそこには、温かみのある言葉なんてものは存在しない。
何でわざわざ学校へ向かうのだろうか。行ったところで何の目的もない。好きな時にサボり、好きな時に寝て、好きな時にどこかへ行く。そもそも今行ったところで学校の開始時間に間に合っているわけでもない。
友達なんていらないし、高校に入ってから欲しいと思ったこともない。学校に入ってから同じクラスの人間と話した数なんて、数えられる程度でしかない。
今年で光坂高校の三年になる俺、岡崎朋也はつまらない人間だと自分でもわかっている。今から面白い人間になろうだなんて気慨もない。
普通は通学路として、特別な情を抱いてもいいはずの通学路。いつも歩いているこの駅前の道。高校の住み込み寮へと通じているこの分かれ道。学校の校門へと続く、邪魔ったるい坂道。これら全部に、俺は何の思いも抱いてはいなかった。
「……ん? こんな所にファミレスなんてあったか?」
しばらく何も考えずに通り過ぎていた道だが、一つの変化を感じた。少し前からあったようだが、全く記憶にない。そういえば、知り合いの金髪が今度行ってみようぜ、と言っていたような気がしないでもない。
「ま、気が向いたら、な」
すぐに興味を無くして元の道に視線を戻す。そして今日も重い体を引きずって学校へと向かう。
この時の俺には、ワグナリアという店はまだその程度の認識だった。
「おっはよーう!岡崎ィ!」
悠々と遅刻した俺よりも遅く登校してきた奴が教室に入った瞬間、騒々しい声が耳に入る。煩わしいが無視しても面倒なことになりそうなので一応聞いておく。
「いきなりうるせえな。何でそんな上機嫌なんだよ」
「何、聞きたい? 聞きたいぃ?」
「じゃあいいや」
「いや聞いてくれよっ!?」
正直な気持ちを言ったらツッコまれた。どうも聞いてくれるまで納得してくれないようだ。こいつは春原陽平、赤の他人、ではなく去年からの知り合いだ。俺と同じく不良と呼ばれて浮いている存在であり、少し話したら気が合ったのでこうして暇なときはつるんでいる。
「んで、どうしたんだ?」
「はっはっは……。なんと今朝のラジオで、『ボンバヘッ!』がピックアップされたのさ!」
「……で?」
「『で?』じゃなくてさっ! ようやく周囲の流行が僕に追いついて来たってことが、証明されたのさっ!」
『ボンバヘッ!』とは全く流行ったことのない春原のお気に入り曲である。俺も一度聞かされたのだが、全然ハマらなかった。俺の意見は世間の声と同じらしく、多分世界でハマっているのはこいつだけだと思う。
「いやあ、誰も『ボンバヘッ!』の良さに気付かないこの世の中にゃ、僕はほとほと呆れかけていた所だったんだよ!」
「そいつは良かったな」
昨日コイツの家に行った時、ラジオのチャンネルを『誰が聴くのか駄曲特集』チャンネルにしておいたことを教えたら、一体どんな顔をするのだろう。俺はそんなことを考えながら席につき腕の中に頭を埋める。
「なんだよ岡崎ー、僕と一緒に悦びの『ボンバヘッ!』祭りをしていかないのかよ?」
「んなこと俺が何でやらないといけないんだよ……」
「ま、いいや。とりあえず委員長にでも自慢……じゃなくて、『ボンバヘッ!』の宣伝をしてこないとねっ!」
ブームに乗り遅れちゃったら可哀想だからね~、という今日この学校で最も可哀想な頭をしているバカの発言を最後に、俺は意識を閉じた。
こんな感じで直しつつ書いていきます。
もしも上手くできたなら、他の名作と感じたSSも残していきたいなと思っております。
大きな変更点
・最初にワグナリアをちょっと匂わせておこうかな