光坂のワグナリア   作:こなひー

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さて、佐藤さんのキャラを大幅改修という事で内容はそれなりに変えます。


16.ドライブ

 男の提案に乗った俺は、助手席に乗った。車は緩やかに走り出し、どこかに向けて走り出す。シートベルトはちゃんとしろよと言われたからとりあえずつけている。

 

「……で、高校何年だ?」

 

 何で俺は車に乗ったのか。理由は簡単で、時間が有り余っていたから。時間が潰せれば、俺は何でも良かった。見ず知らずの人間の車に乗るなんて、多少の危険も感じたが。暇という憂さを晴らすことの方が重要だった。

 

「3年」

 

 興味がないということが誰にでも見てとれるように言った。すると男は「そうか」と一言だけ言って、窓を開けて煙草を付ける。動作は手慣れたものがあって、結構なヘビースモーカーだと勝手に位置づけた。

 

「名前は?」

 

 一服してから、またもや質問を切り出された。内心何なんだと思いながら、俺は応えることにする。

 

「岡崎。そっちは」

「岡崎か。俺は佐藤潤だ」

「……あぁ」

 

 ようやく男の名前を知った気がした。覚える気は無いけれど。名前を言ったあと、佐藤は俺に飲み物で飲むか、と尋ねてきたがそれは断った。

 

「その制服は、確か光坂の生徒だったか?」

「あぁ、そうだけど? ……って何で笑ってんだよ」

「いや。あそこは偏差値が高い進学校だって聞いていたんだが……。お前みたいなのもいるんだな」

「……そりゃ、いるんじゃないのか」

「ま、そーだな」

 

 身のない会話。これは世間話というやつなのだろうか。いろいろ聞きだされているようで気分はあまり良くない。

 

「で、いつも暇つぶししてんのか」

「……そうだよ」

「高校は、楽しくないのか」

「アンタこそ、こんな夜に病院の公園で煙草吸ってんだろ。楽しいのかよ」

 

 口から出る言葉が妙に辛辣なことには俺も気づく。しかし、佐藤は気が障ることもなく、平常な声で俺に切り返してきた。

 

「俺はバイト上がりだ。働いた後の一服ぐらいなら、いいだろ」

「バイト先で吸っちゃ、ダメなのかよ」

「職場は誰も吸わないからな。一応休憩所もあるんだが、吸うのが俺一人だから肩が狭くてしょうがない」

「……へぇ」

 

 佐藤は、思ったよりも周囲に気を遣うタイプなのだろうか。さっきから煙草の煙が俺のほうにいかないよう、送風口の向きをいじっていることに今気づいた。

 

「話戻すか。……高校、つまらないか?」

「……まぁな。楽しんでるやつらもいるんだろうけど」

 

 わざと曖昧な返事をした。自分が楽しめないこの生活を楽しんでいる人間が他に居るなんて、認めたくないと言う無駄な反抗心が芽生えた。

 

「……俺のバイト先な。アホみてえな高校生が三人ほどいる」

「アホってあんた……」

「変態とチビ、そして暴力女の三人衆だ。はっ、こう言うとひでぇ面子だな」

「暴力女って、どこにでもいるんだな……」

「……まさか、そっちにも暴力女がいるのか?」

「まあな」

 

 初めて佐藤の動揺した顔を見た気がする。かといって優越感とかは別に無い。車は橋を渡って、見慣れた風景を眼前に映し出す。風を受けながら、その風景を見るのは少し心地良い。

 

「まぁ、うちのは不良ってわけじゃない。少し事情があって暴力を振るう。……だから、一部の人間はそいつには絶対に近づかない。俺もな」

 

 事情のある暴力とは何なのだろう。殴られる側が全員悪人だったりするのだろうか。

 

「アンタも?」

「面倒くさいことには関わりたくない性分なんでね」

「……?」

 

 煙草をとんとんと灰皿に叩きながら、佐藤は言う。なら、なぜ俺なんかに話しかけたのだろうか。不良生徒と関わったって、面倒ごとでしかないはずなのに。

 

 それにしても、ハンドル捌きには慣れた手つきが見て取れる。さっきからカーナビを一切見ていないが、どこか行き先にあてでもあるのだろうか。

 

「お前、喧嘩慣れてるだろ。その頭。比較的新しいやつだろうしな」

「……別に慣れてない。ただやり返してるだけだ」

「それなら良い。……俺はやり返す度胸も無いからな」

 

 先程から時々、佐藤の言葉が引っかかる。

 

「なぁ。アンタ、面倒なことにはかかわらないんだろ? 何で俺なんか誘ったんだよ?」

「……うちにはもっとおっかねぇ、元ヤンの店長がいるからな。それと比べりゃ、お前は全然だ」

「元ヤンって……」

「会って突然ぶん殴ってきたり、弱みを握って脅してくるようなやつも知ってる。それに比べりゃ、お前は悪い奴じゃない」

「……」

 

 いつも見た目で悪人だと判断されてきた俺にとって、佐藤の言葉はひどく優しい言葉に聞こえた。だけど、まだ俺には素直に受け止めるのは難しかった。

 

 

 

 一旦離れた街の情景は、どんどん近付いてきた。気付いた時には、光坂高校の通学路。欠席が多い俺でもよく知っている道にたどり着いていた。さてと、と呟いた佐藤は車通りの少ない道の路肩に車を止めた。

 

「……さて、頃合いだな。十二時以降まで連れまわしてたら、俺が捕まっちまう」

「っ!? もうそんなに経ってたのか……」

「良かったら、家の近くまで送るが。どうだ?」

「いや、ここでいい」

「……そうか」

 

 車を降りた俺に、佐藤は窓を開けてまだ話しかけてくる。

 

「それじゃ、流石に夜も遅い。絶対にすぐに帰れよ」

「……あぁ」

「っとそうだ、付き合ってもらった例にこれ持っていきな」

 

 そう言って佐藤が懐から取り出したのは、一つの透明な袋。

 

「は……白い粉? おい、あんたまさか――」

「胃薬だ、水で飲めよ」

「……」

 

 この佐藤という男。思った以上に変わったやつなのかもしれない。……悪い奴では、無さそうだけど。

 

「じゃあな」

 

 車は思ったよりも早く、俺の視界からいなくなった。妙なやつだったな、と改めて思い返す。ここ数日色々ありすぎて疲れてしまった。親父と会ってしまわないようにさっさと帰ることにした。




佐藤さんといえば胃薬、ですね。
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