それが無くても、二人が親密になる出会い方はあったんじゃないかと思えます。
藤林姉妹の独特な空気感に、俺や春原は完全な部外者なようだったのでその場から離れた。春原は結局、席で突っ伏して過ごすようだった。俺は教室から出てサボり場所を探しに行く。
もしも俺に兄弟がいたら、今よりも少しはマシな生活を送れていたりするのだろうか。
例えば杏のような姉がいたら。
「面倒だからあたしの代わりにあれやっといて! 弟なんだから文句は受け付けないから!」
馬車馬にされそうな気がしてきたので没。なら妹の方はどうだろう。
「お、お兄ちゃん……サボっちゃ、駄目だよ?」
なんだか矯正されてしまいそうな気がする。気を使わせてしまいそうなのでこれも没。
春原が兄弟……は絶対にない。あいつを召使にするならまだ許せるかもしれないが、なんか嫌だ。
アホな想像をしている間に中庭についた。そろそろ授業が始まる時間なので他の生徒は皆教室へと向かっている。だが俺は流れと逆に進んでいく。俺を止めるような酔狂な人間はもうこの学校には残っていないだろう。
「……ん?」
目の前の桜の木に誰かが佇んでいる。初めて見かける顔だが、転入生だったりするのだろうか。顔が見えないので詳しくはわからないが、どうやら女子らしい。
授業を受けに教室に戻る素振りも見せず、視線は校門の木を見ているようだ。桜の木に何かあるのだろうか。
(って、んなこと気にしたってわかりゃしないよな)
そう思って彼女の後ろを通り過ぎる。
「……ん?」
何も起きやしないだろうと思っていたのだが、ソイツは俺に気付いた。長い銀髪でカチューシャに眼鏡をした、あまり目立たなそうな女子だ。顔が見えたが、やはりこんな娘は見たことが無い。
それでも別に何かあると言うわけでもない。特に話しかけるでもなく俺はただただ足を動かす。
「……ちょっと」
安易に通り過ぎようとするほど、災難は回ってくるものなのだろうか。何故か後ろから声をかけられる。まだ、俺なんかに声をかけるやつがいるとは意外だった。
「お前だ、そこのお前。男子生徒」
だいぶ静かになった中庭に、男子生徒は俺しかいない。無視を決め込むのは無理そうだ。仕方なく振り向くと、彼女の透き通るような瞳はまっすぐ俺の顔を見ていた。
「……授業中だぞ? お前、何処に行こうとしているんだ?」
「別に。それにお前も似たようなもんじゃないのか」
見た感じ年下なのかと思ったが、思い切りタメ口な事に少し驚く。まるで生徒会の人間みたいな言葉をぶつけてきた事にムッとしたせいか、俺も少しぶっきらぼうに返してしまう。しかし彼女は全く怯まない。
「私は今日は書類を書かなければならないのでな、特別に一時限目の授業は無しになっている。……お前は、そういう手続きを踏んでいるのか?」
彼女は公認の元ここにいたようだ。対して俺はただサボろうとしているだけ。言い合いで勝てる要素は一つもなくなってしまった。
「……待て、なんで俺の腕を掴んでるんだ」
いつの間にか俺の腕を掴んでいる。しかも結構な力で、多少の力では振りほどけない。こんな華奢な体の何処に力があるのだろうか。
「お前、岡崎朋也、だな? 不良だと他の生徒や教師達から聞いている」
「……! だったらなんだよ」
なんと彼女は俺がどういう人間かを知った上で話しかけてきたのだ。それも一切物怖じせず。変わったやつだと思いつつ、どうやってこの状況を抜け出すか思案する。
「だからどう、ということは無い。授業をサボろうとしている生徒なら、私は見過ごせない」
「……変なやつだな。いいからこれ、離してくれ」
「お前が教室に戻ればいいだろう。もしくは、私の手を力付くで離させるか?」
「は……?」
彼女は一体何を言っているのだろうか。まさか不良と言われているやつを喧嘩でわからせようとでも言うのか。彼女の表情はいたって真剣なため、冗談で言っているわけでも無い。
「どうした? 授業開始までもう時間も無い。早くどちらか決めてくれ、私も暇では無いんだ」
どうあっても彼女は譲る気が無いらしい。俺はなぜか冷静になってきてしまった。別に外に出たかった理由なんて特にないし、彼女とぶつかったところで何も良いことがない。
「……分かったよ。教室に戻ればいいんだろ」
「そうしてもらえるとありがたい」
「ったく。おかしなやつだな、お前」
彼女も別に喧嘩がしたかったわけではないらしく、俺が戻ると言ったらあっさりと受け入れた。やれやれと頭をかこうとしたのだが、一つ問題があってそれができなかった。
「……もう腕を掴んでる必要無いだろ。戻るにもこれじゃ戻れない」
「あ、あぁ。すまない」
俺が踵を返すのを見るとソイツは信じられないものを見た様な顔で俺を見る。手を放した腕裾の部分には跡が残っている。これはあいつの握力でこうなったのか。もしかしたら、喧嘩になったら負けていたのかもしれないと身震いした。
最近は変なやつに絡まれる事が多すぎる。今日もなんだか疲れてしまった。どこかで寝て過ごそうと歩き出す。
「……私はっ」
「……?」
背中のほうから、彼女の声が聞こえてくる。振り向くと、胸に右手を当てながら何かを伝えようとしている。
「私は、坂上 智代だ。二年の」
「……お前、後輩だったのかよ」
「お前が思ったより普通な人間で、安心した。……ありがとう」
坂上は今の言葉を伝えて満足したのか、それじゃあと言って俺とは違う方向に歩いていった。
「……お礼なんて言われる筋合いないだろ」
今の一時、俺に向けられた笑顔は何だったのだろうか。俺はただ、坂上にちょっと反抗してすぐに引き下がった、ただそれだけだというのに。彼女があんなにも強い力を持っていた事に何か関係があるのだろうか。
そんなの、今会ったばかりの俺に分かるわけがない。きっと、今後もわかる事は無い。当たり前なことだけど、胸の奥に少しだけ寂しさが募った。
書き足しまくってるけど原作壊しちゃってないか、ちょっと心配になってきました。