セリフの中は許してほしいとちょっと思います。
「はぁ~部活疲れたな~」
「もう今日は俺ガッツリ行く! ハンバーグ食うぜー!」
「おっ、いいね~!」
光坂高校の通学路に位置するワグナリアは、部活帰りの学生たちも利用することが多い。数人でテーブル席を囲み、楽しそうに会話が盛り上がる。そんな明るい雰囲気の店内で一人、大勢いる男子たちを怯えた目でホールから様子を伺う女子店員がいた。
「……うぅ、何で今日はこんなに男性のお客様が多いの……」
伊波は男性恐怖症である。うっかり近づいてしまうと彼女の防衛本能が作動して相手を殴ってしまう。そのため基本は女性客のみ対応する事で事なきを得ている。
「いや、これが普通ぐらいなのでは……?」
「違うもん! 普段はもっと少ないよっ!」
伊波に声をかける小鳥遊は客たちを眺めるが、そこまで男性が多いとは感じない。しかし伊波にとっては死活問題なのである。苦手なものはそうでない人よりもアンテナが敏感になってしまうものだ。
「まぁ確かにワグナリアは女性のお客様の方が多い気がしますけど……。そんなに大差無いと思うんですが」
「あるの! 女の子じゃない人がいると気配でわかるの!」
「気配って……気のせいじゃないですか?」
「もう! 馬鹿にしないでよ!」
「ちょ、伊波さん! その拳は恐怖症関係無いですよね!?」
ムッとした伊波が小鳥遊を殴ろうとした瞬間、別の声が割り込んできた。
「……はぁー」
「っ!?」
種島が思い切り溜息をつきながらトボトボと出勤してきた。
「……あっ、かたなし君、伊波ちゃん、おはよう……」
「あ、先輩。おはようございます」
「種島さんっ。お、おはよう……」
見るからに元気がない種島は、昨日からずっとこの状態だ。伊波と小鳥遊もつられて意気消沈してしまう。
「先輩、顔色悪くないですか?休んだ方がよくないですか」
「……ううん。大丈夫だよ。……それじゃあ私10番のお皿、下げてくるね……」
「……あ、先輩」
「……種島さん……」
落ち込んでいても仕事の手は止めない種島、二人は止めたかったがそれもできなかった。
「これは早急に手を打たないとだめですね」
「そうだね」
下を向いて歩く先輩も可愛いけど、と内心こっそり思った小鳥遊だがさすがに空気を読んで口を噤んだ。
「っ!」
ダッと伊波が脱兎のごとく走り、小鳥遊のいる辺りから5m以上の距離をとった。
「ええ!?」
「……俺が来た瞬間にそれはないだろ」
後ろから佐藤が来たからかと小鳥遊は納得した。男の気配を察知できると言っていたのは確かなのかもしれない。
「だだだだって、私これ以上近づくと……我慢できないからぁぁ」
「ったく……」
「あれ、佐藤さんって確か今日は非番でしたよね? どうかしましたか?」
「いや、シフトを見に来ただけだったんだがな。そこで会ったあのチビッ子、やたらと元気が無いらしいな。何か、あったのか?」
「……じ、実は――」
二人は佐藤に種島が落ち込んだ経緯を話した。公園で危ない男に絡まれたところを見知らぬ男の子が助けてくれた。それなのにお礼を言えず終いで行方がわからなくなってしまった。それを種島はずっと引きずっている。
「――と言う訳で、今もずっと落ち込んでいるんです」
「……はぁ。ガキかあいつは」
「何言ってるんですか、その純粋さが可愛いんですよ」
小鳥遊の平常運転ぶりに呆れる伊波と佐藤。ジトーッという目線に気づいた小鳥遊は咳払いをして話を戻す。
「……まぁ、そういう成り行きで、僕と山田と相馬さんで手分けして探してみようってことにはなったんです」
「わ、私も協力するからね!」
「伊波さん、探す相手は男性ですよ?」
「っ! ……わ、私だって、私だって。だ、だだだだだだだ、だいじょ……」
「だいじょ?」
「……ぶない……」
だいじょうぶ、と言いたかったのに伊波の震える体は無理だと告げている。小鳥遊はやれやれと肩をすくめる。
「でしょう? ですから……伊波さんは今先輩にできるだけ付き添ってあげてください。今の先輩はちょっと危ういので」
「っ! わ、分かった! 私、種島さんのところ行ってくる!」
納得した伊波はすぐさま種島の元へ駆けていった。
「……せわしねぇやつだな」
「全くです」
二人で苦笑した後、佐藤はなぁと質問を投げかけた。
「その種島を助けたって奴、名前は聞いたのか?」
「あ、はい。山田から聞いた情報なので正確かどうかはわかりませんが。……確か、『岡崎』という苗字らしいです」
「岡崎、か。……待てよ?」
『……岡崎。そっちは』
「……!」
「下の名前は……なんだったかな……」
佐藤の中にある新しい記憶、ドライブといって助手席に乗せたあの青髪の少年の事を思い出した。
「すみません、下の名前は思い出せないです……って、佐藤さんどうしました?」
「ちょっと出てくる。お前はもう行け。勤務中だろ」
「え? あぁ、はい。お疲れ様です!」
佐藤は自分の予想が正しいかどうかを確かめるため、少し早歩きで店を後にした。
「……あんなに急いでどうしたんだろう」
「小鳥遊くーん、提供お願い~!」
「あ、はい!」
「(……さ、今は仕事仕事!!)」
轟に呼ばれて我に返った小鳥遊はホールに戻る。種島が本調子じゃない分自分が頑張らないと、と小鳥遊と伊波は決意して仕事を再開した。
改めて元作品が良く出来てるなぁと感心します。
SSのテンポ間でこれだけ作れるのは本当にすごい。