春原の住む学生寮。俺はまた時間を潰すためこの場所に来ている。しかし今は寮長である相楽美佐枝さんと会話をしていた。
「しっかしあんたも暇人なんだね……。部活で忙しい寮生よりよく見てる気がするよ」
「……流石にそこまでじゃないだろ」
「そこまでだから言ってるんだよ」
学校が終わる。また退屈な時間が始まりを告げる。ただ、いつもと違うことは春原が夕刻を過ぎても寮に戻っていないことだった。俺が言ったパチンコの嘘情報を信じて行ってしまったのだろう。どこまでも単純な奴だった。
「春原を待つんならそれでもいいけど、もうそろそろ帰宅しなきゃだめだよ? 学生なんだから」
「……」
「……はぁ。返事ぐらいちゃんとなさいな。アンタは学生だろう?」
「……」
「……それじゃ、私は買い物があるから」
「気をつけて」
「そこで返事するのかアンタ!?」
朝から寮生の服の洗濯、寮の掃除、事務処理等々。そしてラグビー部や春原などバカたちの相手。俺だったら3秒と持たないだろう。俺から見たら、この人はあくせく働き過ぎだと思う。そこまで良い給料をもらっているとも思えない。
「まぁ、いいか……。っと、早く行かないとスーパーが閉まっちゃうね」
「そんなに入用なのか?」
「世話のかかるペットがいるんでね、食材は常に欠かせないんだよ。食べ物にうるさくて叶わないよ」
そんな愚痴のような言葉をこぼしているが、何故だか俺には楽しそうに見える。きっとこの人は、楽しくてやっているのだろう。彼女の笑顔がまぶしい。
「寮の奴らの飯も作ってるのか?」
「まっさか!そこまでしてたら流石の私もしんどいよ! こないだ猫を拾っちゃったからね」
「……へぇ」
きっとその猫は大事にされるのだろう、美佐枝さんの面倒見の良さから確信した。
「そういうことだから岡崎。アンタも春原が好きなのもわかるけど、大概にして帰りなさいよ?……んじゃねっ」
「……」
春原を好きというのは、死んでも勘弁してもらいたいものだ。
「いらっしゃいませー」
自分から本屋に来るのは、かなり久しぶりだった。以前はスポーツ雑誌を買いによく来ていたものだが……高校に入ってから特に購入したい本等は無くなったため、来る頻度は次第に減っていった。
「……!」
いつものように読んでいた雑誌が目に入る。数年の癖でつい頭がそちらに向いてしまったのだろう。しかし直ぐに目を背けた。そんな物を読む必要は無いし、もう見たくもない。
奥まで歩みを進め、適当に置いてある本を取る。封がされていないその本は、青々とした表紙に気泡がプリントされた小説だった。内容は、ドラッグや酒に溺れた若者たちの現実を描くというストーリーで、簡素なジュブナイル小説の様なものだった。
「(……やることがあるだけ、いいんじゃないのか)」
自分がしでかしてきた事に後悔する主人公を見て、俺はそんなことを考えていた。ただ、所詮は小説。現実はこうご都合主義にはいかない。後悔するのは決まって期待してしまうからだ。だったら、何事にも期待なんてするものじゃない。
中盤まで読み進めたが、飽きたのでそっと戻す。下らない。そんな感想だった。
本屋の時計を見る。まだ8時だ、今日は時間が長く感じる。1人でいるからだろうか、それとも他の何かがあるのか。
なんとなく店を見回す。あくせくと棚に本を陳列していく店員に、並んでいる客を待たせまいと気を使いながらレジを打つ店員。そしてレジの下にあるポスターの文字が目に入った。
「……バイトの求人」
その時、種島の顔が浮かんだ。あんな子供みたいなやつも、あの山田だって働いている。自分の金を自分で稼いでいる。なら俺は一体何をしているのだろう。何もせず、何も生み出せない時間をこうして過ごしている。
『いや、だからもう考えてないって。学生の大切な時間をちっぽけなお金を稼ぐために使うなんてバカげてるしね』
春原の言う学生生活っていうのは、きっと人によって違う価値観があって、それに基づいて行動しているんだろう。俺や春原がやっていることに、きっと価値なんてない。それならば、何かを生み出すために動く必要があるんじゃないだろうか。
(……働く、か……)
なぜだか、その言葉が俺の心にモヤモヤを残した。それを晴らす方法は、今の俺にはまだわからない。
美佐枝さん相当好きなキャラなんだけど、掘り下げが少ない……。