「……はぁ」
ここ最近の種島は、とにかく溜息ばかりついていた。学校で勉強している間も、仕事をしている時にも。思い出すだけで憂鬱な気分になってしまう。
――『種島さん!元気出してね!』
落ち込む彼女を励まし続ける伊波だったが、種島の気分が治る事は無かった。
「……あ」
しばらく歩くと、そこは種島と岡崎が会ったあの公園。シーソーとか、ブランコとか、日中は遊ぶ子供たちで賑わっている場所。けれど種島にとっては嫌な思いをしたし、後悔もたくさんある。
(……岡崎くん、痛かったんだろうな)
そう、彼女は岡崎に礼を言えなかったことをずっと後悔しているのだ。全身擦り傷だらけで頭に包帯を巻くほど傷ついてしまった彼に、何もしてあげられなかったと思っている。
夜中で変な男も誰もいない公園に立ち入る。けれど何も変化は無い。彼は自分と違う制服だった。連絡先も聞けなかったし、普段見かけることも叶わない。
けれど彼は、少なくともこの町にいるんだ。ならば再会できる可能性はゼロじゃない。そこに気づいた種島は、頬をパンパンと叩いて気合を入れ直した。
「……よしっ!」
ちょっとだけ大きな声での一言が公園に響く。
(明日から、ちょっとずつ岡崎くん探索大作戦を始めるよっ!)
(まだ10時過ぎ、か)
結局、適当な本を手にとって読むという作業をこなしていると、閉店の時間になってしまい追い出されてしまった。春もまだ初めとは言え流石に少し肌寒さを感じる。
遠回りするか。そう思って俺はわざと高校の方へ向かった。家とは真逆の方向だったが、違和感はなかった。途中、閉店作業をしている街の小さな電化製品店が目に映る。店員が携帯電話のサンプルを店の中に入れている所だった。
携帯、最近よく目にするようになった。校則で禁止されているのだが、クラスの奴らもこっそりと持っているのを見たことがある。あれば便利なのかもしれないが、俺には特に必要とは感じられなかった。
連絡する人間なんて数えるくらいしかいないし、しかもそれも極稀だ。どうしても必要なら春原の家にあるものを使えば十分事足りる。そう思って歩いていると、いつぞやの公園が目に入った。
小さい頃はよく遊んだこの公園。しかし、今は殴られまくったという凄惨な記憶しか浮かんでこない。とっとと忘れたいと思いながら視線を外して通り過ぎようとした。
けれど、真横を通ろうとした時に公園の中から声が聞こえた。時計が邪魔して見えないが、あれは女の声だ。しかも、どこかで聞いたことがあるような。
「……まさか、な」
一瞬あの子供のような女のことが目に浮かんだ。種島だ。確か、名前は ぽぷら。
「んなわけないか……」
流石にアイツも高校生(らしい)し、同じ轍を二度踏まないだろう。そう思って、歩きながら公園を見ていると、可視角度が変わってくる。時計を支える鉄製のポールがだんだんと目の端に寄って行き、最終的に見えてきたのは――
「…………バカかあいつは」
手を真上に振り上げて意気込んでいる、想像通りのチビッ子だったのだ。まだ気づかれていない俺は、後ろからゆっくりと近づいてみた。
「……おい」
音程の低い、男の人の声がした。もしも、あの時の変な人が後ろから近づいてきたのだとしたら。種島は一気にあの日の恐怖が蘇ってしまう。
心臓がバクバクしている。頭の中で早く逃げろと警笛が鳴っているにも関わらず。足はすくんで動かない。
「振り向くな」
「っ!」
男は容赦なく次の言葉を浴びせてくる。種島の動きが完全に封じられた。男の声が更に近づいてくる。
「もし動いたら、お前の……」
「え、え……ぇ……?」
そして男は、こう告げた。
「身長が半分になる」
「いやだああぁあああぁああーっ!?!?」
岡崎の思いつきの冗談に、種島は本気で叫んだのだった。
最後にギャグ挟みました。
岡崎にworkingの気が抜けた顔似合うと思うんですよ。