「ひ、ひどいよ岡崎くんっ! 本当に驚いたんだからね!?」
俺はあの公園で種島と再開していた。背中を向けていて気付かなかった様子だったからちょっと脅かしてみた結果、すごく怒られていた。
「全くもう! 岡崎君がさとーさんみたいないたずらしてくる人だっただなんて思わなかったよ!」
「……さとーさん?」
「あ、さとーさんは職場の先輩だよ! 良い人なんだけどよくいたずらしてくるの! ……なんか思い出したらまたムカムカしてきちゃったよー!」
「ひとまず落ち着いてくれ……」
こんな感じで話が逸れるかと思いきやまた思い出し怒りが始まって、のループをもう数回繰り返している。いい加減解放されたくなったので強引に話を戻すことにした。
「で、こんなとこで何してたんだよ」
「あ、えと……今日もバイトの帰りなんだけど……」
「『今日も』ってことは……この前の時もそうだったのか」
「そ、そうだよっ! 岡崎くんは何だと思ったの!」
「夜に一人で遊んでる子供だろ」
「ち、違うよ! 私は子供じゃないよ!」
「……」
「ちっちゃくないのっ!」
頭に視線を映しただけだったのだが、何を考えていたのかバレてしまったらしい。やっぱりこいつと話していると力が抜けてしまう。
「……とにかく、遅いことには変わらないだろ。この前みたいなやつらに絡まれないよう、早く帰ったほうがいいぞ」
遠回りした分、時間も時間だ。本来なら送っていくべきなのだろうが、俺にそんなことをする親切心はない。そう思い踵を返す。
「あ……ちょっと待って!」
先に公園を出ようとしたところを、裾を掴まれて止められた。
「まだ何かあるのか……?」
「あ、あのねっ!」
振り向くと、思ったよりも近くに種島の後頭部があった。驚いている俺に構わず種島は口を開いた。
「この前は、本当にありがとうございますっ!」
「…………は?」
まだ説教の続きがあるのだろうか、とうんざりしながらも返事をしたら、種島の口からは意外な言葉が出てきた。
「えへへっ。ほんとはこれから探して、お礼を言おうと思ってたんだけどね? 岡崎君の方から来てくれたから!」
「そんなこと考えてたのかよ……。なんでわざわざ……」
「へ? なんでって……。助けてもらったんだからお礼を言うのは当たり前だよ~?」
「いや、そうじゃなくて……」
ダメだ……コイツと話していると自分がアホみたいになってくる。あまりにも当然という言い方をしてくるから俺がおかしいのかと思えてしまう。
「……あっ、そうだ! ……えっと、確か、ここら辺に……あった、はいこれ!」
荷物をガサゴソと漁り、いくつか折り目のついた紙を取り出した。紙についている皺を何度か手で伸ばした後、俺に手渡してきた。
「なんだこりゃ?」
「ワグナリアのコーヒー無料券! 前に音尾さんから余ったものをもらったんだけど、私コーヒー飲まないからあげるね!」
「飲めない、じゃないのか」
「む~っ! たまには飲むよっ! 私子供じゃないからねっ!」
あえて飲まないだけだと主張するその姿が更に子供っぽさを強調させてしまっている。
「岡崎くんはレストランとか行かないの? 友達とかとさっ!」
「……行かないな」
高校からの通学路にあるワグナリアだが、俺は一度も行ったことがないし行く気もない。同級生が多い中に自分が行くのは、とても居心地が悪くなるからだ。そもそも一人でファミレスに行く習慣も無いのだが。
「って、わわっ。もうこんな時間!? まだ明日の宿題やってない! それじゃ、岡崎くん! 今日は会えてよかった!」
急に時計を見て驚いた種島はそう言って走り出す。俺の家とは逆の駅の方向だ。この時間だったら終電ギリギリだろうか。結局かなり遅い時間になってしまっていた。
「……絶対ワグナリアに来てね! 絶対だよ!」
俺にそう言いながら、おぼつかない足取りで走って行った種島は、すぐに姿が見えなくなった。
一人になった公園は、彼女の足音が聞こえなくなった途端、静寂に包まれた。騒がしいやつだったな、と内心でごちる。
一息ついて俺も公園から出るため歩き出す。皮靴で砂利を削り歩く音が、やたら鮮明に耳へ入ってくる。先程種島から手渡された紙を見る。
「無料券、か」
印刷されている淡いオレンジ色が視界に入ってくる。綺麗に印字された注意事項やその他のキャンペーンの告知などが、所狭しと並んでいる。そして端っこのほうに、この無料券の期限が書かれている。
「……あほらし」
残念な気持ちが浮かんだことで、ちょっとだけ期待していた自分がいることに気が付いた。あくまで無料でコーヒーが飲めて暇つぶしができるかもしれないと思ったからだ。きっとそうに違いない。
期限が切れているのならもう持っている必要はない、はずなのだが……なぜか捨てられず鞄にそっとしまっておいた。
個人的に無料券は捨てないでなぜか取っておいてほしいという願望が入りました。