光坂のワグナリア   作:こなひー

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 このSSが投稿されていた頃ってWorking本編がまだ完結してませんでしたかね。
誰と誰がくっつくかがまだわからない状態でした。

その影響がこのあたりの表現で出ていたような気がします。


23.親の心子知らず

 感動?の再会があった翌日のワグナリア、更衣室で寝不足気味な佐藤はぼんやりと考えていた。

 

(アイツ……結局昨日は公園に来なかったな……)

 

 佐藤は岡崎とまた会うために、一度会った公園で待っていたのだ。しかし出会う事はできなかったため、徒労に終わり睡眠時間も削られてしまったのだった。

 

「おはようございます。……あれ? 佐藤さん。今日は早いですね」

「……あぁ」

 

 シフト時間通りに来た小鳥遊の挨拶に佐藤は気怠げに返事をする。

 

「なんか、すごく眠そうですね……」

「…………そう見えるか」

「いやいや。今にも寝落ちしそうなぐらいフラフラじゃないですか」

 

 佐藤のあまりの調子の悪さに小鳥遊は休んだ方がいいんじゃ、と思うのだが今日もシフトは空ける余裕がないという事実を思い出して口を噤んだ。

 

「おはよ~ございま~すっ。あ、佐藤君に小鳥遊君、おはよう」

 

 更衣室を出た二人ににこやかに挨拶するのは、八千代だった。

 

「あ、おはようございます」

「……あぁ」

 

 佐藤が軽く手を上げると、八千代はふと彼の顔を覗き込んだ。

 

「あれ、佐藤君? 目にクマがあるけど、大丈夫?」

「っ!!」

 

 すっと近づく八千代に、佐藤の肩がぴくりと跳ねる。唐突に距離を詰められたことに驚いてしまった。

 

「あっ、ご、ごめんなさい!? 嫌だったかしら!?」

「……別に。ただ今日は体調もあんまりよくないからな。あまり近づかないほうがいい」

「そ、そうだったの! それなら後で精の付くもの買ってくるわね!」

 

 ぱっと表情を明るくする八千代に、佐藤は深くため息をついた。

 

「いらん、気にするな」

「ダメよ~! だって佐藤君と私は一番仲の良い『友達』なんだから、遠慮しないで?」

「……好きにしろ」

 

 八千代はにこやかに手を振って、更衣室へと向かっていった。佐藤はその背中を眺めながら、また深くため息をつく。

 

「……はぁ」

(いつも通りだなぁ)

 

 佐藤と八千代の関係には、周囲の人間はそこそこ気づいている。大まかに言えば、佐藤が八千代に長年片思いをしている。けれど八千代は全く気付かず、()()として気軽に接してくる。そして溜まった佐藤のストレスは、種島の髪でアートを築き上げる事で昇華される。これが日常なのだった。

 

 

「……そういや小鳥遊」

「なんですか?」

「種島の例のやつ、『岡崎』って名前だったな?」

「あ、はい。そうですけど」

 

 種島がここ数日落ち込んでいる理由である岡崎という人物は、結局誰も見つけられていなかった。小鳥遊と伊波、そして山田と相馬も近くを歩き回ってみたが、有力な情報は得られなかった。

 

「偶然、俺が最近知り合った奴に同姓同名の奴がいた」

「……え?」

「夜に公園で出会ったんだが……そいつ、怪我してたんだ。種島の話とも一致するだろ」

「ほ、本当ですか!? 確かに先輩が怪我の手当てをしたって言ってました!」

 

 夜遅くに公園をうろついている岡崎という少年。包帯を巻くほどの怪我を負っていた。ここまで条件が一致しているのなら本人で間違いない、と小鳥遊は確信した。

 

「良かった……これでやっと先輩の機嫌も直りそうですね!」

 

 小鳥遊の言葉に、佐藤はじっと彼を見つめる。

 

「え。何ですかその信じられないような物を見るような目は……」

「……いや、ちょっと意外だったからな」

「何がですか?」

「お前、あいつの落ち込んでる姿が可愛いって言ってただろ。だから一生落ち込ませたままにしよう、とか考えてたのかと思ってたぞ」

「そんな事考えてませんよ!? 相馬さんじゃあるまいし!」

「ふっ……それもそうだな」

 

 引き合いに出された相馬が貶されたことに佐藤は思わず失笑した。全く失礼な、と小鳥遊は少し不満を抱く。

 

「確かに僕は極度の小さいもの好きですけど、可哀そうな目には合わせたくないですから。特に先輩はちっちゃいから何としても守ってあげたくなるんですよ……」

「台詞だけなら親みたいで関心するんだがな……」

 

 言っている事は立派だが、そこに小鳥遊の癖が入っているので微妙である。

 

「そ、それじゃあ僕も着替えてきますね!」

「ああ。今日もよろしくな」

 

 小鳥遊は更衣室へと向かい、店内には佐藤だけが残った。佐藤はポケットから煙草を取り出し、静かに火をつける。灰が落ちないよう、灰皿の準備も忘れない。

 

「……ふぅ」

 

 煙を吐き出しながら、佐藤はぼんやりと考える。光坂高校に通う不良少年、岡崎。出会ったときの印象は、傷だらけのボロボロで、何もかもが嫌になって投げ出したかのような、どこか諦めを感じさせる言動。

 

 けれど彼は、種島を危ない男から助けた。ならば完全に世捨て人という訳ではない。誰かを助けるなんてのは、生半可では出来ないことだから。

 

(轟周りの連中に比べたら、全然マシだな)

 

 元ヤン店長だとか、その舎弟と比べたら可愛いものだ。あの時だって、普通に会話出来たのだから。種島が元気を取り戻すのも、これで時間の問題だろう。

 

 

 

 と、ここまで思考を続けたところで佐藤は気づいた。自分も案外、種島の事を心配していたのだ。

 

「親心、ってやつか。……小鳥遊のアレとは違うぞ、絶対に」

 

 一体誰に弁解しているのか。俺の心配には決して下心はないと宣言した後、佐藤はそろそろ着替えようかと動き出す。

 

 

 

 そう思った矢先、勢いよく扉が開いた。開けた当人はとても元気よく挨拶をした。

 

「おっはようございまーす!!」

「は?」

 

 種島ぽぷらが店に飛び込んできた。昨日までの陰鬱とした気配は一切なく、佐藤の親心も一瞬で吹き飛ぶような満面の笑顔だった。

 

「あ、さとーさんおはよ~っ! 今日もいい天気だね~! 今日もお仕事頑張るよ!」

「…………お前というやつは」

「あれ、どうしたの? ……なんか顔が怖いよ?」

 

 佐藤は目を光らせ勢いよく手を伸ばし、ぽぷらの髪をぐいっと引っ張った。種島の頭を掴んで手元に持っていくと、佐藤は彼女の髪をくしゃくしゃと乱し始めた。

 

「あぁ~っ! 髪がくしゃくしゃになるから引っ張らないで!」

 

 それでも佐藤は手を止めず、わしゃわしゃと髪をかき乱し続けた。

 

「もうお前なぞ知らん」

「な、なんで!? 放してよ~っ! か、かたなしくん助けてぇ~っ!」

 

 種島の声に小鳥遊達が駆け寄ってくる。今日からは元通りのワグナリアになりそうな雰囲気が漂っていた。




親心(癖無し)と親心(癖有り)だと印象がだいぶ違いますね……。
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