「……ん」
「わっ! 目が開きました!」
「ん? その声、杏か?」
「いえ。きょうかでも、店長でもありません。山田です」
「は……?」
目が覚めると、やけに知り合いに似た声が聞こえてきた。しかし杏はこんなわけのわからんやり取りをする奴じゃない。全身の痛みが蘇ってくる中、周囲をゆっくりと見渡す。
「どこだ、ここ? 確か公園にいたはずじゃ……?」
やたらと薄暗くて息のし辛い場所が目に映る。不思議に思って頭をさすると、丁寧とは言えないまでも、傷口を覆うための包帯が巻かれている。
「……は、初めまして。おはようございますです、はい」
そして、新たなる疑問が浮かぶ。この子供は一体、誰なのか。今日は何故か、子供と縁があるらしい。
「あ、あの――。あ、頭大丈夫ですか?」
「お前、誰だ?」
「頭! 大丈夫ですか!」
彼女は肩までかかる程度のセミロングのこれまた子供のような顔をしている。さっきまではゴツい男と一緒にいたはずなのだが、急に状況が変わりすぎていて混乱している。
「いや、あまり大丈夫じゃないな」
「あ、頭悪いんですか! それはきっと元からですよお兄さん!」
「……あ"?」
「!?」
ストレートに人から馬鹿にされたら誰だって腹が立つ。苛立ちながら返事をしたら思い切り後ずさられてしまった。
「ど、どうしたんだ?」
「お、お兄さん、怖い……」
「あぁ……、まあそうなるか」
春原のような会話をしていたから思わずいつも通りの反応をしてしまい、目の前の少女を怖がらせてしまったようだ。とりあえず、今の状況について色々と聞いておかなければならないことがある。それを話す前から驚かせてしまっては話ができなくなってしまう。ここは冷静に対応する事にしよう。
「悪い。まだ頭打ったところが痛むからボーっとしてるんだ。……で、聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「山田、親切なので大丈夫です! 怖いお兄さんのサポートもしっかりします!」
「怖いは余計だ。んじゃ、山田って呼べばいいんだな?」
「いえ、私はお前でもなければ、山田でもありません」
「はぁ? でもお前、今さっき自分のこと『山田』って……」
「はい、山田は今ここでだけは山田なのです。だからお兄さんは心おきなく私のことを『葵ちゃん』って呼んでくださって結構です」
起きてからずっと、こいつと会話が全然成り立っていない気がする。山田は偽名ということなのか、それともただのおふざけなのか。大方後者であろうが、そんなものに付き合っていられる時間はないし、性分でもない。
「……まぁ、分かった。そんじゃ質問を――」
「はい! ここは私の家で、絶賛一人暮らし中の山田葵、ピチピチの現役高校生です! 好きなものはドロドロの愛憎劇で……」
「おいまてまて、まだ何も聞いてないし後半のはどうでもいい」
「えぇっ!?」
まだ会って数回しか話していないが、こいつが変なやつだとよくわかった。ただ一つだけ引っかかる事を言っていた気がする。
まだ子供にしか見えない少女が、この薄暗い自分の家で一人暮らしをしている。
それはつまり、こいつも何か事情を抱えているのではないか。少しは気を使ってやってもいいかもしれないと思った。
「お前、ここで一人なのか?」
「はい。山田、絶賛家出中なので!」
「…………家出?」
雲行きが怪しくなってきた。もしかすると、こいつの言葉を真に受けないほうがいいのではないか、と俺の直感が告げた。
「ここはお前の家だって言ってなかったか?」
「はい! ここは山田の家になる予定なので、最早実家です!」
「……ふざけてるのか?」
「ヒッ!」
「い、今のは怒った訳じゃないからな……?」
年下なんてものに期待してはいけないってことはわかっているのだが、ここまで茶かされると流石に腹が立ってくる。思うように話が進まず少しだけ苛立ちを覚える。これ以上こいつと話しても時間の無駄か、と思ったところで近くから物音がした。
「うんしょ、うんしょ……葵ちゃーん? 大丈夫~?」
「な、なんだ!?」
急に目の前のフローリングが開き、梯子のようなものが下へ伸びた。単なる箱だと思っていた白い塊は、どうやら折りたたんであった梯子だったようだ。
「……んしょ。葵ちゃ――!」
「あ、お前……」
そこに現れたのは、今日出会ったもう一人の子供だった。
山田の天然は、割とCLANNADのボケの雰囲気とちょっと似ているかも?
大きな変更点
・ちょっとだけ中の人ネタ
・岡崎から山田へ質問する前に山田が全部答えるように
岡崎が自ら親御さんは、という質問はしないかなと思ったため