君と奏でる幸せの音∶intermezzo   作:賀茂川泰伸

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今回から短編集の投稿も始めていこうと思っております。
内容としては
・本編で書ききれない所の物語
・基本一話完結のお話
を中心としていきます。

それでは一つ目のお話をどうぞ!


いっしょの時間

休日、真昼のショッピングモールでは多くの人々が行き交っていた。買い物をする人々、家族連れの親子、何かを買うでもなく店に出入りしウィンドウショッピングする人々。それら様々な人々が行きかう中、一人の少年がただフラフラと歩いていた。

彼ー今永幸哉はそんな人々を見ながら物珍しそうな目を向けていた。それもそのはず、彼は以前まで学校でのいじめや家族に虐げられ、自由な行動など許されなかった。そんな状況に悲嘆し、入水自殺を図ろうとした。しかし、死の寸前で通りがかった男―相河慶一に救出、保護され生活している。

そんな中で、幸哉は一つの夢中になれるものを見つけた。

 

それは、アイドルである。

慶一をきっかけに、765プロのアイドルたちと出会う機会があった。

彼女たちと会話を交わし、一緒に食事をしたり、連絡を取り合ったりして親交を深めて、またライブにも参加してアイドルの輝く姿を目に焼き付けたりした。

今では765プロの曲を毎日のように聞き、出演する番組を録画するようになっている。

彼にとってアイドルは、暗闇の中を生きてきた人生を照らす、大切な存在となっていた。

 

モール内を歩き回っていると、ある店が目に入る。

そこはCDショップであり、店先には様々なアーティストの姿を写した広告が張られたり、手描きのポップが商品棚を彩っていた。

その中には765プロの広告もあり、釣られるように入店していった。

勿論、目指すのはアイドルのCDコーナー。表示を頼りに目的の売り場に到着した。

 

「へぇ、こんなに種類あるんだ」

 

独り言を呟きながら、売り場を見回す。アイドルのCDが多数陳列されている中で765プロのコーナーを見つけた。

色とりどりの衣装に身を包んだアイドルたちが弾ける笑顔や躍動感あるポーズを見せる姿がパッケージに写っている。

CDを手にとって小さく呟いた。

 

「これ買おうかな。でも新品で値段ちょっと張るし、他にも聞きたい曲があるしな……」

 

「買っちゃえばいいよ!」

 

後ろから声が響いた。誰だ、と思いながら振り向く。

 

「未来!?静香、翼!?」

 

振り向いた目の前の人物に思わず声をあげた。それもその筈、立っていたのはアイドルたる春日未来、最上静香、伊吹翼の姿だったからだ。

 

「もう、そんなに驚かなくていいじゃない」

「あははっ♪おもしろ〜い」

 

横から顔を出した静香と翼。彼女達も未来に同行していたようだ。横から顔を出して来る。

 

「こんにちは!ねえ、そのCDって……」

「あっ……えっと……」

 

未来が手の中にあるCDに目をつけた。それもその筈、彼女を中心に静香、翼と並んでポーズをとる姿が写っていたからだ。

それを見られて慌てて棚に戻そうとする幸哉。

恥ずかしさから顔がに朱が差し慌てたような表情をしていた。

 

「えぇ~、戻しちゃうの~?買った方がいいよ~」

「でも、本人が目の前で、何か恥ずかしいっていうか……」

 

買おうとしてるCDは目の前の3人が歌ったものが主題となっているものだ。それを買うには、少し勇気がいる。どうするか迷っていると静香が口を開いた。

 

「迷っているなら買う方がいいわ。後悔しない方を選べばいいと思うの」

 

静香の言うことも一理ある。買ってしまえば新しい曲が聞ける。その上新作であるから、売れてしまえば再入荷まで待たなければならない。購入のタイミングを逃せばいつ手に入るかわからないのがアイドル関連のグッズのさだめである。買うか否か、迷っていると翼がじいっと幸哉を見つめていた。

 

「買ってほしいな~。収録、頑張ったんだよね〜」

 

情に訴えるような翼の言葉に少し詰まったような表情になる。自分の魅力を理解しながら存分に活用してきていた。

 

「ねぇ〜、ダメぇ?」

 

得意技たる上目遣い。目をうるうるさせながら訴えて来る。

 

「うっ……わかった」

 

効果は抜群だ。返事をして、CDを持って早歩きでレジへと向かう。後ろを振り向くと、3人が購入する様子を見守っていた。

 

〜〜〜

 

「ありがとうございましたー」

 

店員のお礼を聞いて店を出る。まさかあんな所で出くわすとは思っていなかった。会計を終えて周りを見ても、3人の姿はない。彼女達はアイドル。休日だろうとレッスンや仕事は入ってくる。CDを買わせようとする幻でも見たのだろう、と結論付けて次の店へ行こうと歩き出す。

 

「ねぇ」

 

何か聞こえるが、意にも介さず歩き続ける。

 

「あのー……」

 

聞き覚えがあるが、何の声か分からなかった。

 

「こっちだよ!」

 

未来の声だけどどうせ違う。あの時会ったのは未来のそっくりさんだ。

と考えながら歩いていると、

 

「無視しないで!」

「わっ!?」

 

後ろから肩を掴まれる。何だと思って掴まれた方向を見る。そこには静香が眉間に皺を寄せキッとした表情で立っていた。友達を無視したことが相当頭に来ていたのだろう。

 

「なぜさっきから無視するの?」

「ひぃ!?」

 

 

静香の剣幕に震えながら返事をする。今ので確信した。目の前の人物は本物だ。幻なんかじゃない。なんとか震えを我慢し、ゆっくりながら答える。

 

「いや、アイドルって忙しいでしょ?こんな所にいるはずないし、CD買わせようとする幻でも見たかと思って」

 

そういった答弁に対して静香は納得いかないといった表情を浮かべた。

冷ややかな目が突き刺さる。

 

「なるほど、私たちが幻に見えたのね?」

「はい、ごめんなさい……」

 

頭を下げていると未来と翼がやって来た。やはりこの2人も本物だったようだ。

 

「えっ!?どうしたの?」

「静香ちゃんも一緒なんだ〜」

 

「あ、え……未来、翼……」

 

〜〜〜

 

「そうなんだ……でも、幸哉くん怖がってたよ!もっと優しくしないと」

「未来……ごめんなさい」

「大丈夫?怖かった?」

「あ……うん、もう平気」

 

何故か静香が未来に諭され、その横で翼が幸哉の背中をさすっていた。

やっと両者とも落ち着きを取り戻したのか、互いに向き合って謝罪を述べた。

 

 

「またきつい言い方で怖がらせるようなことをして……」

「そっちこそ、幻とか言っちゃって……」

 

「「ごめんなさい……」」

 

双方に気まずい雰囲気が流れる。出会った当初、未来と翼は興味を持って話しかけてくれたが、静香に関しては全く興味がないと言われたのである。彼女とは公演に来て他のアイドルを通じて近況を知る程度の仲だった。

もとよりアイドルにプライベートで出会う事自体レアケースである。

 

「それで、なんで私たちのこと幻なんて言っちゃったの?」

 

未来が疑問を持ったようで質問してくる。ややぎこちないながらも返答を返した。

 

「いや、アイドルは忙しいって聞くし、休みでも仕事あるからこんな所にいるはずないって思ってさ……それに、最近はみんな活動が盛り上がってるってネットで見たんだ」

「なるほど〜……」

 

返答を聞いて暫く未来は首を傾げていた。やがて何かを思いついたのか、

 

「えいっ」

「わっ、え!?」

 

なんと急に幸哉に抱きついてきたのだった。正面からハグされる形になり、狼狽えたように顔が赤くなる。

心臓の鼓動が速くなり、

柔軟剤のいい匂いと未来の体温が五感を通じて体に伝わってきた。

 

「どう?幻だったらぎゅーってしてくれないよ?」

「えっと……わかった認める。本物だ」

 

答えを聞いてから未来がゆっくり身体を離した。

鼓動が未だに収まってくれない。

なんとか抑えようとすると次は

 

「それじゃあわたしも!」

「うわぁっ」

 

翼が右腕に抱きついてきた。彼女も確かめさせたいのか、それともからかいたいのか。距離が更に近くなる。しかも腕に柔らかい感触まで感じるようになった。

 

「翼!一体何を……」

「え~、幻って言われたから本物だって思わせたくて」

「あ、当たってる……離れて……」

「何が当たってるの?教えてほしいなぁ〜」

「む……胸……」

「えへへ〜♪そう?」

 

楽しそうな翼と二度も抱きつかれて赤面している幸哉を見て静香が怒ったような表情で2人を見やる。

 

「翼!ふざけてないで離れなさい!人前で何やってるの!?」

「えぇ~いいじゃん♪わたしたち友達だもんね」

「だからってやっていいことと悪いことがあるわよ!」

 

笑っている翼と行き過ぎた態度を叱る静香。そんな2人を見て、放ったらかしにされた未来が小さく俯いて呟いた。

 

「幸哉くん……翼のほうが好き、なのかな……」

 

呟く声は聞こえなかったが、未来が寂しそうな顔をしていたのを見逃さなかった。やや強引に体を翼から引きはがし、未来のもとへ向かう。

 

「ごめん、放ったらかしにして」

「ううん、いいの。ちょっと考えごとしてただけ……」

 

それでもまだ顔が曇っている。一言言うべきと考え、口を開いた。

 

「別に翼にばっかり気を取られてないから!未来のことだってちゃんと見てた!」

「本当?」

「本当だ」

「本当の本当?」

「本当に本当だ!未来を応援するって約束したから!」

 

 

「そうだよね……。だって応援するって言ってくれたもん。ありがとう!」

 

曇った顔がみるみる晴れていき、未来に笑顔が戻った。

応援する。その言葉は誰にとっても嬉しい言葉だ。

 

「未来?何をしていたの?」

「うん!もう大丈夫だよ!」

「よくわかんないけどよかった〜」

「翼、後で話があるわ」

「えぇ~!?お説教なんてヤダ〜!!」

 

なんとかこの場が収まった。それでいてもなお、幸哉の心臓が収まらず、抱きつかれ感触が消えることはなかった。

 

〜〜〜

 

「それで、今からどこに行くの?」

「決まってないから適当に歩こうかと」

 

その答えに対して未来が提案するように言ってきた。

 

「それじゃあ、私たちと一緒に回ろうよ!そのほうが楽しいと思うな♪」

 

良い提案だと思ったが、幸哉は受け付けるべきか悩んでいた。

そもそも彼女達はアイドル。れっきとした芸能人である。それには常にスキャンダルのリスクが付きまとう。

友達であるとはいえ、迷惑をかける可能性を捨てきれなかった。

そうして悩んでいる最中。

 

 

「ねえ……どう、かな……?」

 

未来がおずおずと聞いてきた。悩んでいる様子が彼女には心配そうに映っていたようだ。

それに、寂しがらせた前科がある。

罪滅ぼし―とまではいかずとも彼女達について行く方が良いのでは、と考えた。

 

「……わかった。一人でも回るのはできるけど、多い方がいいとは思うし、行こうかな」

 

「ありがとう!静香ちゃんも翼も、一緒に行こ!」

「えぇ!?私は別に……」

「それじゃあレッツゴ~!!」

 

未来が手を引き、4人での散策が幕を開けた瞬間だった。

 

 

 

ゲームセンターで

 

「いっくぞ~!」

「上から来るわ!気を付けてっ!!」

「何今の動き!?どうやってやったんだ……」

「楽し~♪」

 

協力プレイをしたり

 

「ねえ、似合ってる?」

「うん、可愛いよ」

 

服屋で試着の感想を求められたり、

 

「これあげる!わたしのおすすめなんだ〜!」

「あぁ、ありがとう……」

「静香ちゃん、わけっこしよ!」

「まったく、しょうがないわね」

 

フードコートでおやつをシェアしたりするなど、色々な場所を巡っていった。

 

時間が経ち、幸哉と静香はベンチに座っていた。未来と翼が「見たいお店がある」と言って二人から離れていったからである。

ふっと息を吐いて、天井を見上げた。

周囲に気まずさを含んだ固い雰囲気が流れる。

それもその筈。二人は全くと言っていいほど一対一で話したことがなかった。

 

「あの……最近、どうしてる?」

 

会話の糸口を掴もうと、近況を聞こうとする。

 

「別に……どうもないわ。元気よ」

 

静香が素っ気ない返答をする。

 

「それで、あなたはどうなの?」

「最近はようやく学校にも行けるようになったし、ライブも見た。静香の活躍、目に焼き付いたよ」

「……そう。ありがとう」

 

根は素直なのだろうが、何故かまだ素っ気ない返事をする静香。

 

「いや、すごかった。堂々としてて、それでかっこよくて……」

 

褒め言葉を贈るも、なぜか表情は変わらない。それどころか深刻そうにも見えるほど、今の静香にはそう感じてしまう雰囲気があった。

 

「……そんなことないわ」

「え?でも一ファンとして言うけどみんな盛り上がってた……どこも悪くなかったと思うよ」

「あの時はまだまだ歌もダンスも反省するところがあったの。もっと精度を高めないと……」

「でも、なんでそこまで出来にこだわるんだ?誰が見てもいいパフォーマンスだった」

 

心配そうな表情で幸哉が言った。にも関わらず、静香の表情は固いままだった。

顔を見ずに答える。

 

「私はトップアイドルにならなきゃいけないの。だからミスはすぐに直して進まないと上を目指すことなんてできないわ」

「……」

 

その一言で、静香のアイドル活動に懸ける思いがひしひしと伝わってくる。

日々の練習や仕事にも、一切手を抜かずに行う責務を背負っているようにも見える。

静香にかかる重圧は、一般人たる幸哉には計り知れないものだろう。

これ以上の口出しは無用と考え、話を切り替える。

 

「それで、今日は楽しかったよ。久しぶりに会えて」

「私は別に……あなた、学校になじめてる?」

「まぁ、前みたいに殴られることは無くなったし、転入先のクラスに翼がいるんだ」

「そうなのね」

 

静香が興味を持ったようだ。幸哉がさらに続ける。

 

「それで、友達と遊ぶってこと、今日が初めてだ」

「えっ?」

「僕なんて、友達っていえる人いなかったよ。だって途中で死のうとしたんだから。静香はどうだった?」

 

質問に対して、静香が答える。

 

「こんなこと、初めてよ。同級生の……、しかも男子といっしょに過ごすなんて」

「なるほど……」

「毎日レッスンとお仕事……学校とかで忙しいし、そもそもクラスメイトともあんまり関わりがないのよ」

 

「そうか……でも今日、気づいたことがあるんだ」

「何?」

「静香って、あんまり怖い人じゃなかったってこと」

「はぁ!?」

 

静香が素っ頓狂な声を出した。

幸哉がそれに対して続ける。

 

「最初会ったとき、冷たくて怖い人だって思ってた」

「でも、一緒にご飯食べて、しっかり話せばわかる人だって思ったし、ライブのときはとてもかっこいい姿を見せてくれた」

 

「何より、あのとき部外者だからって追い出さないでくれてありがとう」

「えぇ!?」

 

その言葉に驚いた声を出す静香。

感謝されることが予想外だったのだろう。

いつもならしない表情で口が開いていた。

 

「何を言ってるの!?」

「本当に嫌いだったらその場で追い出してるかもしれないし、レッスンも特別に見せてくれなかったでしょ?」

「それは……自分のことで精一杯だったし、むしろ他人のあなたまで構ってられなかった……、それでプロデューサーに叱られて対応はしようって思ったのよ」

「へえ、そうだったんだ。改めて今日は……」

 

「ありがとう」

 

感謝の言葉に静香は顔が少し赤くなりながら、こちらも感謝を返した。

 

「どう……いたしまして」

〜〜〜

 

「それで、さっきの話だけど」

「うん」

「私たちを幻とか言ったわね。あと翼に抱きつかれてニヤニヤしてたでしょう?」

「ニヤニヤなんかしてないけど……」

「でも未来がすねてたわよ」

「あっ…、そうだった」

 

思い出してつい声が出る。

応援すると言って宥めてなんとか事なきを得たが、しょんぼりしていたのが脳裏に残っていた。

記憶を掘り返していたところ、静香が衝撃の提案をしてきた。

 

「だったら、私が本当だって確かめてみればいいでしょ」

「え?」

 

提案の意図がわからず、呆けた返事を返してしまう。

静香は何を言っているんだ、と考えていると次の言葉が飛んできた。

 

「私の手を握ればわかると思うわ」

「でも、女子の手を触るのは……」

「握手会の経験ぐらいあるわよ。抱きつかれるより簡単でしょう?」

 

追い詰めてくる静香。それに対していい反応をしない幸哉。

渋られてじれったくなったのか、静香が急かすような口調になる。

 

「で、するのか決めて」

 

決めてほしいというのは建前のようで、要は「早くやれ」と言っているようなものであった。

意を決して静香の方を向き、口を開いた。

 

「わかった……やる。手、出して」

「……」

 

ゆっくりと、2人の手が近づいていく。

両者とも恐る恐るといった具合に手を重ねようとするが、手を引っ込めてしまいそうになる。

だが、ここで下がったら確かめられない。

手をゆっくりと静香の方へと伸ばし、手を重ねる。

 

「あっ……」

「……」

 

2人の手が、重なる。

静香の手のひんやりした感触が幸哉の掌に伝わる。

ほっそりした指、白磁のような肌の色。

その手は冷たかったが、幻でも何でもなく確かな人の手だった。

 

「あったかい……」

「え?」

「なんでもないわよ!もう離すから」

 

何事か静香が呟くが、聞こえない程小さな声だった。

そうして手をさっと離していった。

 

「本物でしょう。これでわかったかしら?」

「わかった、認めるよ。静香も本物だ」

「わかればいいのよ」

 

言い終わると同時に、未来達が帰って来た。

 

「わぁ!幸哉くんが静香ちゃんと一緒に座ってる!」

「ただいま〜♪何かあったの?」

「別にないわ」

「右に同じく」

 

揃って返事をする。

未来と翼はきょとんとした表情だったが、気にしなくなったのかすぐ元に戻った。

何かを思い出したような表情をしている。未来が何かを言いたそうにしており、口を開いた。

 

「そうだ!」

「?」

「こないだの公演、楽しんでくれたみたいだけど……誰が一番よかったと思う?」

 

 

いきなりの質問。確かにどのアイドル達も歌やダンス、時折軽快なトークで場を沸かせていた。誰が良かったかと聞かれれば回答に迷うのは必至である。

 

「聞いてみたいな~。誰がよかったの?」

「もちろん私よね?あんなにほめたんだから」

「よかったのは翼、って言ってほしいな♪」

 

正直、選ぶことが難しい。どのアイドルもそれぞれが持つ輝きをステージで放っていた。その中で1人を選べという、難易度の高い質問だった。

 

「ねぇ、どうかな?」

 

追い撃ちのように聞いてくる。それを聞いて結論を出そうとする。未来、静香、翼。どのアイドルも魅力的なことには変わりない。

頭をひねりながら、回答を考え、口に出した。

 

「正直……誰がよかったかって言われてもわからないよ。だってみんなキラキラしてたから」

 

一瞬、その場が静まりかえる。言ったことが気に障りでもしたか、と思考を巡らせたが、その考えはすぐに消えた。

 

「……うん。そうだよね!選べないよ!私だって幸哉くんだったらそう言ってたもん!」

 

未来が肯定した。次は翼が笑いながら答える。

 

「えぇ~!でもいっか。幸哉くんらしいね」

 

静香が冷ややかながらも、はにかんだ表情で答える。

 

「そうよね。可奈や星梨花のこともほめてたし、選べる訳ないってわかってたわ」

「よかった……」

 

機嫌を損ねずに済んだようだ。

アイドルにとって応援や褒め言葉は、何よりの励みになる。

その言葉が3人の心を動かすことができたようだった。

 

その時、幸哉のスマホからピコン、と通知音が鳴った。通知欄を見ると、慶一の母からであり、「そろそろ帰って来てね」というメッセージがあった。

画面の時計が夕方であることを示している。大分時間を忘れて楽しんでいたようだった。

 

「もう帰る時間だ……また劇場に遊びに来るね」

「うん。でも静香ちゃんが何か言いたいんだって」

「なんだろう」

 

静香に視線を向ける。すると彼女は何故かスマホを取り出して言った。

 

「連絡先、交換して……あげるわ」

「え!?」

「あなた、ちゃんと話を聞いてくれたし……話し相手ならなってもいいわよ」 

「えぇ!?」

 

あまりの言葉に驚いた声が出る。以前行った時はそこまでの段階に達していなかったのに、いきなりの申し出だった。

 

「え、急に何?連絡先?」

「未来たちと交換してるでしょう?だったらあげるわ」

「そうか……」

 

これなら静香ともっと話ができる。そう思っていると静香が牽制するように言った。

 

「でも、あんまりかけて来たらブロックするから。そこだけは覚えて」

「わかった。ありがとう」

 

互いに端末を差し出して、交換が完了したことを示すメッセージが表示される。

それを確認して、3人の方へ向き直る。

 

「今日は急だったけどありがとう。また劇場にも遊びに来るね」

 

お礼の言葉を述べる。すると3人から返事が返ってきた。

 

「こっちこそありがとう!また遊ぼうね!」

「……今度の公演も見てよね」

「それじゃまた今度ね〜♪」

 

三者三様の返事を聞いて頷きながら踵を返して手を振った。

 

「今日はありがとう!さよなら!」

「またね!」

 

手を振って見送る3人が見えなくなるまで彼女達の方を向いて幸哉は足を前に進める。

今日の思い出は、忘れられないものになるだろう。

 

後に彼―幸哉がアイドルの門を叩くのは、また別のお話。




いかがでしたでしょうか。
タイトルの「intermezzo」(インテルメッツォ、またはインテルメッゾ)は「間奏曲」という意味を持ち、オペラや劇の幕間に演奏される曲のことをいいます。
この作品は本編で書ききれない裏の部分や、本編と関係ない思いついたシチュエーションを投稿していこうというのがこの作品のコンセプトです。
このお話は12話後〜13話辺り(アイドルになる前)の時間軸で作成しています。
このような構成で短編は作成していこうと思います。
それでは、本編ともどもご愛顧いただけると幸いです。
次のお話も楽しみにお待ち下さい!
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