君と奏でる幸せの音∶intermezzo   作:賀茂川泰伸

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未来、お誕生日おめでとう。6月28日はミリオンライブのセンター、春日未来の誕生日。ということで二次創作である本作でも物語に深く関わる彼女を祝うべく書いてみました。稚拙ですが読んでいただければ幸いです。
それではお話へどうぞ!


未来(あした)へ届ける歌

「もう6月か」

 

 休日、部屋の布団に寝転がっていると壁にかけられたカレンダーが目についた。それは6月のカレンダーであり、何の変哲もない曜日と数字が規則正しく並んだものである。世間一般では夏に入るであったり、梅雨入りで洗濯物が干せなくなったり蒸し暑くなるなど人々が嘆くような時期に入ってくるが、幸哉に至ってはある種の感慨を抱いていた。

 思い返せば今年の春。世界に孤独と絶望を感じて一度は命を絶とうとした。しかし後に公私共に世話になる慶一によって救出され、様々な要因が重なってアイドルとして芸能界に足を踏み入れることとなった。このように死を選んだはずの自分が今もこうして生き長らえている。これが感慨の理由だった。

 

 新しい生活を送り始めて二ヶ月程。忙しくはなっているものの、平穏な毎日を送っている。今日は休みで外に出るのもいいが、今のように部屋で体を休めていた方が幸哉の性に合っていた。

 こうして穏やかな時間を過ごしていると、不意にスマホから電話がかかってきたことを知らせる通知音が聞こえてきた。

 すぐに端末に手を伸ばし、通話を繋いだ。

 

「もしもし?」

『幸哉ね?私。静香よ』

「あぁ~。どうかした?珍しいな…。静香からかけるなんて」

 

電話の相手は最上静香――自分と同い年の少女である。凛とした声が鼓膜を揺らしている。相手から用件を聞き出すべく、口を開こうとした時だった。

 

『今、何をしているの?多分部屋で寝てるんでしょう』

「何でわかる。さっきまでカレンダー見てたんだ。6月に入ったの見て、こんな時期に入ってるんだなって」

 

見透かされたような言葉に一言を返した。その後間を置かず静香の息遣いが聞こえ、続けざまに声が響いた。

 

『そうね…。28日。何の日か知っているかしら』

「うーん」

 

 6月28日。いきなり言われたところで何も思いつくことはないだろう。もとより6月は祝日がない。また世の中においても重要なイベントが発生する日でもない。何てことのない、ただの一日であった。

 相手が何故そんな日を出して来たのか首をひねっていると、不意に一つの考えが浮かびあがった。

 

「そうだ、未来の誕生日!バースデーライブをやるんだった。それで何か相談でも」

『安心したわ。人の誕生日はしっかり覚えているみたいね』

「そういうのは覚えて当然でしょ。だったら誕生日プレゼントでも買いに行くとか?それともまた別の何か……」

 

 二人の会話に出た人物ーー未来というのは共通の友人であり、同じアイドルとして活動している同い年の少女の名前である。性格は明朗快活、皆を巻き込みながら目標に向かうリーダーのような人物だ。

 友人の誕生日という一大イベントに関して相談があるのはわかるが、何故すぐに送れるメッセージでなく電話を連絡手段として選んだのだろうか。

 

「あとなんで電話?メッセージならすぐに読めて伝わるはずなのに」

 

疑問を口にすると静香から返事が返ってきた。

 

『メッセージだと画面開いてるときに後ろから見られたりするし、あの子のことを考えたら急にやってくるでしょう?だから連絡したの』

「……なんでそんなに見られたくないんだ?」

 

誕生日というイベントは祝われる側からすれば嬉しいものであるが、他人のはずの静香が何故悩んでいるような態度を見せているのかがわからない。

 

『……今回、未来にサプライズがしたいの』

「サプライズ?」

『ええ。あなたもいつも話してるでしょう?私たちが未来のために何かできないかと思って……』

 

 その言葉に、幸哉は黙ったまま頷いた。もとより見ず知らずの自分を受け入れてくれた友達を祝わないという選択肢はない。ならば提案に乗っかるのが最適解だろう、と脳内で言葉を処理する。

 

「やるよ。だって未来は僕らにとって大切な人だから。喜び過ぎるくらいのサプライズ、やってみせようよ」

『……そうね。あっと驚かせるぐらいのこと、やりましょうか。今度はグループで話すことにしましょう』

「うん。言ってくれてありがとう。静香もちょっと休憩したら?多分練習してるんだろうけど」

『さすがに毎日練習してるわけじゃないわよ。休むこともアイドルとして大切なんだから』

「わかったって。それじゃあまた今度」

『ええ。またね』

 

 電話が切られた。正直なところ、ほぼ毎日のように顔を合わせているとはいえ、まだまだ未来については知らないことが多い。

 誕生日という一人の人生における大きなイベント。どのように祝おうか、と思案を巡らせる。

 何でも楽しんで取り組む未来の性格はどのようなプレゼントであっても喜んでくれるだろう。しかし、サプライズという性質上、本人にわからないように行う必要がある。

 何をして祝うか、幸哉は布団に横になりながら思索を始めた。

 

~~~

 

「未来が好きなもの…。生クリームだな。テレビで街中を歩くロケがあってそこで買ったパフェ、ものすごく美味しそうに食べてたのを覚えてるよ」

「なるほど…。他にどんな物が好きな感じですか?」

 

 数日後、幸哉は未来についての情報を得るために劇場を訪れていた。ここに来れば様々な情報を得られるだろうと踏んだ上で来ていた。最初に聞き込みの対象としたのは慶一。自分と未来を繋ぐキーパーソンであり、プロデューサーである。自分より付き合いが長いからこそ聞けることもある。質問に慶一は答え始めた。

 

「他は…髪留めか。新しいのを付けてはしゃいでたな」

「……」

 

 息をつきながら相手の質問を聞き、メモアプリを使って情報を記録していく。この二つだけでも大分情報が絞れているのではないか、とスマホの画面と慶一を両方見つめる。

 考え込む幸哉を前にして慶一が言葉を投げかけた。

 

「でも、なんでそんな…。あっそうだ。28日は未来の誕生日!それでプレゼントでも渡そうってことか?」

「わかってましたか」

「プロデューサーだしな。うちは誕生日を皆で祝うスタイルだからしっかり覚えてるよ」

「それならいいです。今回、未来にサプライズをしようって思って相談に来ました。プロデューサーも協力、お願いします」

「わかってるよ。目一杯楽しんでもらおうな」

 

 横にいた静香が慶一を見た。言い出したのは彼女であり、アイデアを練るために一緒に話を聞きに来ていたのである。

それにしても、普段はこうして何かを一緒にする機会も公演の時以外にはなかった。親友の誕生日という特別な日だからこそ、彼女も並々ならぬ心持ちで準備しようとしているのだろう。真剣な表情で目の前の二人の会話に耳を傾けている。

 

「よし。予算は出すし、それでプレゼントでも」

「おはようございまーす!」

「!!」

 

部屋に突如として元気な挨拶が響き、三人は声の方へと目を向け、その発生源を確かめた途端にぎょっとした表情に変わった。

 

「み、未来…、おはよう。元気だな……」

「でへへ~。今日のお仕事、歌番組でしたよね!楽しみだな~♪」

 

やって来たのは未来。

 

――今回、誕生日を祝われる側の人間である。そんな人物の登場に今まで話していた三人が固まってしまった。黙り込むのをよそに未来が視線を寄せてくる。

 

「あれ、どうしたの?二人で話してた?」

「!?」

 

視線を向けられた幸哉と静香は揃って肩を跳ねさせる。サプライズで祝うと計画した都合上、本人にばれる訳にはいかない。冷や汗が肌を伝う中で挨拶をしようと未来を見た。

 

「いや、何も……」

「ええ。別に特別なことは話してないわ」

 

二人して否定する。それに対して未来は詳しく聞こうとはしなかった。それよりも慶一の方向を向いて目を輝かせている。

 

「早く行きましょうよ~。私、今日楽しみにしてたんです!」

「わかったわかった。引っ張るのやめてくれ……」

 

 慶一はたじたじになりつつも未来に引っ張られて部屋を出て行こうとする。その様はまるで走り出す子犬を止められない飼い主を想起させた。

 バタン、と扉が閉められ部屋には二人だけが残った。

 

「「はぁ~っ……」」

「危なかった…。静香の言う通りだったなぁ……」

「……そうね。もう少し慎重に進めないと……」

 

大きなため息が漏れる。未来の行動力や好奇心は765プロの中でも群を抜いている。気になったことにはすぐに関わろうとする性格を見くびってしまっていた。二人の表情は先程までの焦りと緊張が解けた影響か額に汗の粒が浮かんでいる。

 

「未来は行ったし……これなら他の人を集めてもバレないんじゃない?」

「二人だけじゃやれることは少ないわ。あなたの言う通り、もっと声をかけてみましょう」

「OK。やろう」

 

~~~

 

「お祝いのテーマは『歌・髪留め・生クリーム』でいこうと思うんだ」

「「えっ?」」

 

 疑問の声がこだまする控室で、幸哉は先程口走った内容と同じことをホワイトボードに書いて目の前を見渡した。そこには翼、百合子、杏奈といった同い年の面子や紬と歌織の自分より年上の二人がおり、揃って幸哉に目を向けている。彼女達は幸哉と静香に声をかけられて集まっていたものの、皆一様に首を傾げたり、よく分かっていないような表情を浮かべていた。

 

「バースデーライブで未来にサプライズするんだよね。どんなことするんだろ~?」

「う〜ん。歌はわかるけど、残りの二つにどういう関係が……」

「もっと…聞かせてほしいな」

 

「分かりやすいのはいいけど、いくらなんでもあっさりしすぎじゃないかしら?みんな困ってるわよ」

「そうだね…。詳しい説明は今からしよう」

 

 メンバーが疑問を口にする中、静香が幸哉を見る。その表情は若干呆れているようにも見える。一回聞くだけでは関連がないようなテーマを出されても困惑するだろう。

 そんな雰囲気の中で幸哉は軽く息を吸ってホワイトボードを向く。そして先程「歌・髪留め・生クリーム」と書いた所を赤い丸で囲い、そこに文言を追加していった。

 

「さっき挙げた三つのこと、これは全部未来が好きなもののことなんです。これらを中心にしてバースデーライブの計画を組み立てていこうと思ってます」

 

説明しながら囲われた箇所を指差して言う。その発言を聞いた静香以外の全員がなるほど、と感嘆を漏らした。好きなものに溢れ、祝われるなら本人にとっても喜んでもらえることであることは明らか。疑問が解けたことで皆の表情も明るいものに変わっていった。

 

「確かに、未来ちゃんは歌うことが大好きだものね。どんな歌がいいかしら」

「とても良い考えです。今永さんは春日さんのことを大切にされているのですね」

 

「紬さん、ありがとうございます。これ全部慶一さんから聞いたことなんですけどね」

 

 称賛に対して紬の方を向いて素直に礼を述べる。そして、全員を見渡して言った。

 

「今回のバースデーライブ、未来が喜び過ぎるくらいのことやろうって思ってる。だからこそ、みんなでして素敵なお祝いにしましょう。協力お願いします!」

 

 頭を下げて懇願する。それに対して全員は笑顔を見せながら言った。

 

「うん、元からそのつもり!わたしの誕生日も幸哉くんにお祝いしてほしいな~」

「わ、私も…、幸哉くんの考え、素敵だと思うよ」

「杏奈…、一緒にお祝い、したい……」

「素晴らしい考えです…。私も微力ではありますが、お手伝いさせていただきます」

「私も協力するわ。素敵なお誕生日にしましょうね」

 

「ありがとうございます…。話を持ちかけてよかった。――静香!」

「な、なんで私!?…言い出したからには全力でお祝いするわ。私からもお願いします!」

 

『はーい!』

「いい案があったら遠慮なく出していこう。あ、未来にはバレないように頼んだよ?」

 

 静香の言葉に全員が声を揃えて返事をした。心が一つになっていることが様子から読み取れる。幸哉の言葉をもって会は締めくくられ、それぞれが考えを出し合うことで決定しお開きとなった。

 

〜〜〜

会が終わって数日後、百合子と杏奈が廊下を歩いていた。その表情は何かを考えているかのよう。それもその筈、来たる6月28日の公演に向けてのサプライズを用意しなければならなかったからである。

 

「歌と髪留めは考えられるけど、生クリームはどうしよう……まさか直接飲み込むわけじゃないよね」

「そんなこと……したら、虫歯になる…。どんな感じがいい、かな……」

「!?生クリーム!」

「えっ、未来!?」

 

 突如として後ろから声が聞こえ、二人が後ろを振り向くとそこには未来がいた。いつものように明るい表情をしており、二人を見ていた。恐らく先程の生クリームという単語に反応して飛びついて来たのだろう。恐ろしいとすら思える嗅覚である。

 

「さっき何か話してたの?生クリームって聞こえたんだ~」

「え、あ……」

「別に何も、ない……」

 

そう言って杏奈はすたすたと立ち去る。これまで話していた内容を悟られるわけにはいかないと言いたげであった。百合子もワンテンポ遅れて未来の方を向きながら杏奈について行った。

 

「というわけだからごめんね。レッスンに行かないといけないから……」

「あ、うん……」

 

それに未来は何も聞くことなくその場に立ち尽くし、呆然としていた。

 

~~~

とある日のこと。幸哉と翼、そして紬と歌織はレッスンルームにある大きな姿見の前に立っていた。四人の髪や腕には色とりどりの髪留めが付けられていた。それぞれが振り向いたり回ったりとポーズをとり、自分に合うかどうかの確認を行っている。

 

「こんなものでいいかな…。髪留め付けるの初めてだ。つける所頭じゃないけど」

「それでも可愛いよ♪わたしも髪短い方だから腕につけちゃおーっと」

 

「どうでしょうか……。違和感なくできていますか?」

「素敵ね。この色、紬ちゃんに合っていると思うわ」

 

それぞれが髪留めを褒め合って姿見に映る自分達の姿を見る。今付けている髪留めは幸哉が桃寄りの赤、翼が黄色、紬は紫陽花のような藍色、歌織が紺色を付けている。幸哉以外の三人は個人のイメージカラーを選択していた。

幸哉が付けている色の髪留めに何かを感じたのか、歌織が声をかけてきた。

 

「この色ってもしかして未来ちゃんのイメージカラーよね。お揃いにしてるの?」

「はい。色々探してはみたんですけど、これが一番いいなって」

「そうなんだ~。幸哉くん、未来のこと好きだったりする?」

「!?」

 

いきなり翼の口から飛び出した言葉に目を見開いた。好き、というのは親友としてかそれとももっと別の方で言っているのか。わからないままに返事を考えた。

 

「え、それはたまたま手に取ったやつがこれだったから……あと、未来は友達だよ。何も特別なことなんて……」

 

急いで考えたせいか色々とまとめて返事をしてしまった。そんな返事に翼は特に探りをいれることなく「そうなんだ」と返してまた姿見に向かってポーズをとり始めた。

 

「大丈夫ですか。春日さんの色に合わせたのを見せたら、きっと喜ばれると思います」

「そうですね……。未来、喜んでくれるといいな」

「はい。今永さんの思いを届けられるよう、私も努力します」

 

紬が微笑む。四人はそれぞれ本番のためのレッスンを始めていった。

 

〜〜〜

 時は過ぎついに6月28日、未来のバースデーライブ当日。アイドル達は揃って舞台裏に集まり出番、そして主役の到来を待ちわびていた。

 

「クラッカーは持った?来たら鳴らす予定だからね」

「うん!持ってるよ。未来びっくりするだろうな〜」

 

 翼、そして出演者の六人が手に円錐に紐がついたクラッカーを持っている。未来がやって来た瞬間に鳴らす予定の物である。

 舞台裏ではスタッフが忙しなく準備に動き回っている。その一人たる慶一も声をかけながら連携をとって仕事をしていた。

 

「それにしてもコンセプトの『歌・髪留め・生クリーム』……俺が言ったこと、ヒントみたいになってるな」

「そうですね。この中で未来と一番付き合い長いからわかることもあったんだと思います」

「まあそれは確かに…。あ、電話だ」

 

 そんな中、不意に慶一の服のポケットから音が鳴り始めた。誰かが電話をかけてきたのだろう。それに気付いてか服に手を突っ込み端末を取り出し通話を始めた。

 

「もしもし。未来か……何だって!?」

「え!?」

 

 電話に出た慶一の声がだんだん緊迫感に満ちたものに変わっていく。真剣な表情で端末に向かって声を掛ける様子に周りの雰囲気が心配している雰囲気に変わり始める。

 慶一の傍にいた歌織が声をかけた。

 

「何か、ありましたか?」

「未来が……遅れるって言ってました」

「!?」

 

 心配するような彼女の言葉に深刻そうな面持ちで慶一は短く答える。それを聞いたメンバーの顔は驚きに彩られた。

 主役が遅れて来る。その事実はお祝いのムードを揺るがすには十分な力を持っていた。

 

「えぇ!?主役なのになんで……」

「どういうことなんですか…?説明してください!」

 

今回のサプライズを先導していた幸哉と静香が慶一の方を向いて質問を始める。それに対して慶一が沈んだ表情でぽつりとこぼすように言った。

 

「今乗ってる電車が運転見合わせ。開演に間に合うかわからないって……」

「……どうしよう。バースデーライブで主役がいないんじゃ成り立たないよね…?」

 

 百合子の声が震えている。それと同時に全員の顔が曇り始める。自分達が立てたプランに(ほころ)びが生じようとしている状態にムードが沈んでいるのがわかる。全員で計画し、今日の日まで進めていたことが否定されようとしているその瞬間、突如として慶一が踵を返して舞台裏から出ていこうとしていた。

 

「こんな時にどこへ行こうというのですか!?」

「今から迎えに行ってくる。未来が一番心細いはずだからな」

 

紬が呼び止めるも、慶一が止まることはない。相当の意思の強さを感じさせる足取りの中、急に幸哉の方を向いてきた。視線を向けられたことで思わず目を見開いた。

 

「いいか。絶対連れてくる。だから心配しないで前を向いてくれ」

「……」

「頼んだぞ」

 

真剣な表情での念押しに目線を合わせ、頷く。その目は慶一と同じ意思を持ったものだった。

 

「任せてください。なんとか、つないでみせます」

 

〜〜〜

 

「そういや、『サプライズ』って英語で『驚かせる』って意味だよね」

 

 慶一が未来を連れて来る、と言って退出した後、アイドルは集まって今後の展開について話しあっていた。最初に発言したのは幸哉。アイドルとして舞台に立つためウィッグを被ってメイクを施しており一見では少女に見える姿に変わっていた。表情は浮足立つ周りと比べ、若干余裕があるものになっている。しかし、そんな中アイドル達は揃って心細そうにしていた。

 

「そうだけど……でも、肝心の本人がいないんじゃ……」

「どうするの…?サプライズ、できるかな……」

「大丈夫。まだ始まったばっかりだよ」

 

百合子と杏奈が揃って心配の面持ちで幸哉を見つめる。それに対しても自分には策があると幸哉は不安を表にしない。

 

「春日さんが到着したとしても、見に来てくださった方々にどう説明すればいいのでしょうか……」

「来ないわけじゃない。それよりも来てるファンの人たちを待たせちゃダメだ。まずはできることからやって、それから考える」

 

紬が不安げに述べるも幸哉の顔はまるで進む道がわかっているかのように上を向いている。その様を全員が見つめている。

 

「みんな、プロデューサーさんと幸哉くんを信じましょう」

 

 歌織が最年長らしくメンバーを落ち着かせ、優しい声に心を動かされたのか徐々に緊張が解けていく。それからというもの潰れてしまったプランをどうするか、未来の遅刻をどう説明するかなどの話し合いで時間は過ぎていき、遂に開演の時間を知らせるブザーが鳴った。

 舞台裏からステージの方を見据え、小さく呟いた。

 

「開演……。あのプランでいこう!」

 

 幸哉の言葉に皆が頷く。そしてライブを待ちわびる人々のもとへと歩いていった。

 

 舞台の幕が上がり、主役である未来を除いた七人が観客の前に姿を現した。観客は皆拍手で出迎えるものの、どこか訝しむような視線をアイドル達に向けている。そんな視線を受けながら、マイクを握った静香が目の前を見据えて話を始めた。

 

「今日は私たちの仲間で友達……未来のバースデーライブに来てくださってありがとうございます。でも、皆さんに伝えなければならないことがあります」

 

「未来は今、劇場にはいません。いや、まだ到着していない…というのが正しいです」

『!?』

 

 その言葉と同時に観客席がどよめいた。バースデーライブという晴れ舞台で主役が不在という事実は、その日を祝うために集まったファンにとっては驚きを隠せないことだろう。静香の発言を引き継がせるように、幸哉にマイクが渡った。

 

「本当は一緒に未来をお祝いしたかった。…けれど、まだ終わったわけじゃありません。来てくれた皆さんにお願いがあります」

 

「今から言うことを、よく聞いてください」

 

〜〜〜

 

「はぁ、は~っ。あれ?誰もいない……どこ行っちゃったんだろう……」

 

 開演から十分程時間が過ぎた時、未来は慶一に先導されて舞台裏にいた。もちろん衣装に着替えており急いだせいか額に汗の粒が浮かんでいる。

 しかし、一緒にステージに立つ仲間の姿がいない。緞帳も幕が下ろされており、スポットライトも今は消えている。

 様子が変わった舞台を見てきょろきょろする未来に慶一は顔を見て声をかけた。

 

「みんな待ってるぞ」

「……今日は私のバースデーライブですよね。でも……」

「大丈夫、待っててくれてる。行くんだ」

 

迷っている背中を押すような慶一の言葉に未来は頷いて答える。

 

「そうですよね!今日はライブだから、全力で楽しむぞ~っ!」

「その意気だ」

 

舞台裏から慶一が見守る中、未来はステージの中央に立つ。そして緞帳が開き観客席の全容が明らかになった。

 

「遅れてしまってごめんなさい!今日は私のバースデーライブに……?」

 

 謝罪の言葉を述べる未来の視界には観客席、ファン……そして静香と幸哉――優希、そして仲間の姿があった。彼らはステージでなく観客席側に立っており、その手にはクラッカーが握られて全員が自分の方を向いて笑顔を見せている。

 

「未来!――お誕生日、おめでとう!!」

「おめでとう!!」

 

 その言葉と同時にクラッカーの紐が引かれ、破裂音が響く。紙吹雪と観客達の祝福する声がステージを舞った。突然の出来事に未来は動けず声も出ない。アイドル達の中心にいる幸哉の微笑む顔が、とても眩しく見えた。

 

「――!」

「サプライズ、大成功!ずっとこうしようってみんなで決めてたんだ!」

「そう、なの……?」

「ええ。あなたをお祝いするために今日まで作戦を立ててたの」

 

未来が震えた声で目の前の仲間に問いかける。それを静香が受け取り答える。彼女以外にも翼、百合子、杏奈、そして紬と歌織が笑顔でそれぞれ祝いの言葉を述べる。出演者それぞれが未来へと言葉を投げかけていた時だった。

 

 

「……うっ、ひく……」

「!」

「みんなぁ…、ありがとっ……!」

 

 未来の頬に雫がつう、と垂れる。それは徐々に大きくなり、ついには顔をくしゃくしゃに歪め、声をあげて泣き出してしまった。喜ばせるつもりが逆方向に行ってしまったのか、と幸哉含め全員が顔を見合わせた。観客も呆気にとられており、流石になだめなければと七人全員が未来に近づいた。

 

「やっぱりびっくりさせちゃったか…。ごめん。何も言えないで……」

「いいよ…。だけどお祝いしてくれてうれしいのと…みんながいなかったからさびしかったし、よくわかんないよぉ……」

「もう、泣かないの。主役でしょう。無事に来てくれてよかった……」

「ごめんね……うぅ、静香ちゃん……」

 

 泣きじゃくる未来を静香は優しく抱きしめる。それでもなお、鼻をすすり胸に顔を埋めて泣き止む様子はない。その様子を観客席のファンは静かに見守っていた。

 やがて未来が泣き止んだことでプログラムが進行しようとしていた時、ふと未来の視線がアイドル達、特に髪の毛の方にいっていた。

 

「これ、もしかして……」

「うん。髪留めだよ。未来と同じのをみんなでお揃いにしようって考えてたの」

「杏奈もおんなじのつけてるよ!ほら見てっ♪」

 

 百合子と杏奈がそれぞれ付けている髪留めを見せた。黄色と紫色、二人のイメージカラーをそれぞれ付けていた。彼女達だけではない。アイドル達全員が腕や髪に髪留めをアクセサリーのように付けている。幸哉も例に漏れず、未来が現在付けているものと同じ色の髪留めをブレスレットのように腕に着用していた。

 

「これでお揃いだね。あと一つ、言いたいことがあるんだ」

「なあに?」

 

未来の方を向いて軽く息を吸って、吐く。そして言葉を少しずつ絞り始めた。

 

「お誕生日、おめでとう。こうやって友達をお祝いできるの初めてだし、未来が僕といろんな人を繋いでくれたおかげで今の自分がいると思ってるんだ。だから……」

 

 

「友達になれてよかった。これからもよろしくね」

「……うん!こちらこそよろしくね!……えいっ!」

「!?」

 

感謝の言葉を述べ、未来が満面の笑みで答える。そして、両手を大きく広げて駆け寄って幸哉の体をぎゅっと抱きしめたのであった。

 

「今日のサプライズ、優希ちゃんが考えてくれたんだよね?私からのお返しだよっ!」

「えぇ!?」

 

いきなり異性に抱きつかれたことで幸哉は目を白黒させる。抱きついた当の本人は笑顔で顔を肩に載せている。一方が女装とはいえ年頃の男女が密着し、それがアイドルという状況に観客は驚きを隠せなかったり、

 

「ずるいぞー」

「そこ代わって~!」

 

などと声が飛んで来たりした。羨望の眼差しを浴びながら幸哉は困ったような声を出した。

 

「ちょっと離れて!人が見てる。僕男だから……」

「やだ!だってさびしかったもん!」

「それはごめん、だけど見られてるって!」

 

「未来ってばだいた~ん♪」

「相当嬉しかったのね。気持ち、わかるわ」

いいなぁ……

 

「ちょっと、誰か助けてよ!見られてるから早く~!!」

「でへへ~♪」

 

助けを求めようとするも、周囲はただ傍観するばかり。幸哉が助けを求めて叫ぶ中、未来は体を離そうとすることはなかった。

 

~~~

 

「ふう……ということで今回のバースデーライブのコンセプトは『歌・髪留め・生クリーム』です。未来が大好きなものをたくさん詰め込んだライブにしようと思っています」

「え、生クリーム!?いつ出るの?どこ~?」

「気が早いわよ。髪留めはやったから、次は『歌』にいきましょう。それでは聞いてください――」

 

「「『7Days A Week!!』」」

 

『どんな一瞬も 一秒も――』

 

「《未来》へ届け!!」

 

 曲名を声高に叫び、それぞれの立ち位置につく。軽快なピアノのイントロが流れる中曲が始まり最初の歌詞を口にし、次の歌詞に今日の主役である春日未来、そしてこれからを意味する『未来』へ思いを精一杯載せるように高らかに歌い上げた。ふと横をちらと見る。未来と目が合った。彼女も幸哉を見ていたようで眩しいばかりの笑顔を見せてくれた。曲の最中ということもありすぐに観客席の方へ視線を戻し、ダンスに集中することにした。

 

 

『どんな一瞬も 一秒も 心はひとつ』

『五線にかき足す 愛と夢 サラウンド七色メロディ』

 

『手と手つなぐアーチ 虹渡る 終わらない希望(あなたも希望)』

『未来へ届け 願う7Days A Week!! どんなときも進もう』

 

歌詞にあるように、未来への希望と終わりのない喜びを願いながら歌い上げる。

最後のサビがやってきた。ありったけの思いを歌声に載せて、観客のもとへと放つ。

 

『ゆこう7Days A Week!! 歌い続けるよずっと』

 

~~~

 

 あの後も無事にプログラムを消化し終え、バースデーライブは大盛況の中幕を閉じた。本日の主役である未来、その中でサプライズを計画した幸哉、彼女と共に歌い踊った静香をはじめとする公演の出演者達。それら全てが笑顔と楽しさに彩られた表情で楽屋へと帰ってきた。裏でライブを見ていたという慶一が皆を集めた。

 

「皆、よく頑張った!主役の未来とサプライズを作った幸哉。二人が今日のmvpってところだな」

「ありがとうございま~す!とっても楽しかったし、幸せでした!」

「はい。喜んでもらえて本当に良かったです」

「ねえねえ、さっき言ってた生クリームっていつ来るのかな?待ちきれないよ~」

 

ライブで大いに躍動していた未来は未だ出てこない自身の好物に胸を躍らせている。そんな様子に幸哉は微笑みながら答えた。

 

「ここからが『生クリーム』の出番。すぐに来るはずだよ」

「お待たせしました~!バースデーケーキ、持って来ましたよ!」

 

 その言葉の後に楽屋の扉が開き、事務員の美咲がなんとケーキワゴンを転がしながら姿を現した。ワゴンの上には上部がたっぷりの生クリームでコーティングされて苺が鎮座し、中心に「未来ちゃん お誕生日おめでとう」とチョコレートで文字が書かれ、外周を回るように蠟燭(ろうそく)が刺されたケーキが置かれていた。パティシエの労力と技術の高さが伺える豪華なケーキに皆が目を丸くしていた。

 

「青羽さん、生クリームってこれのことなんですか?」

「はい!今永くんから相談されて生クリームを準備できないかって言われたんです。誕生日ということでみんなで食べられる大きなケーキ、注文しちゃいました」

「すごい予算かかった…。でも、喜んでくれてるみたいでよかった」

 

 静香が美咲に問い、それに対して美咲は笑顔で答える。彼女も協力者だったようだ。やってくれたな、と用意するように指示した幸哉を見る。手際よく紙皿とフォークを持って来ており、もう食べる気でいるようだった。

 ライターで蠟燭に火を灯し、未来をケーキの前に座らせる。お決まりのバースデーソングを歌いそれぞれが拍手する中、未来がふうと息を吹きかけ蠟燭の火が消された。写真撮影を済ませ、ケーキを食しようとした時、慶一が幸哉の方を見た。

 

「ん?皿、十枚もあるけど」

「青羽さんもどうぞ。一日早いけど、お誕生日おめでとうございます」

「いいの?ありがとう♪覚えててくれてるなんて嬉しいな~」

「ああ~」

 

 幸哉と美咲が会話するのを見てそれが理由かと慶一は納得した。翌日の6月29日は美咲の誕生日であるからだ。もう一人誕生日を迎えることも見越して用意する思いやりに感心する。

 次々とそれぞれの取り分が切り分けられ、皆がケーキに手をつけ始める。思い思いに頬張り、楽しむ中で幸哉はふと未来の方を見た。彼女も同じく自分の方を見ており、目が合っていた。

 

「未来」

「?」

「今日、楽しかったね」

「うん!みんなにお祝いしてもらったし、こんなにおいしそうなケーキも食べられるし最高だよ~!」

「はは、そればかりだね。美味しく食べてもらえてよかった」

 

その言葉に、未来が満面の笑みで答える。ライブの序盤で泣き出してしまいこそすれ、自分の誕生日を、何より大切にしている友達に祝ってもらえたことがとても嬉しかったというのがわかる。幸せそうな親友の表情を見て幸哉も思わず表情が綻ぶ。

 

「わかった。来年はもっと驚かせるよ。あと……」

「?」

「クリーム口についてる」

 

 よく見ると唇の近くに小さく白いクリームの塊がついていた。自分から見えないせいか首を傾げている。ティッシュを手に取り、一言言ってから軽く拭き取った。

 

「えへへ、ありがとう」

「どういたしまして」

 

 未来は少し恥ずかしそうに顔を朱に染めて礼を言う。その様がどうも愛おしくて心が揺れ動いた。幸哉もはにかみながら返事をする。和やかな雰囲気が流れている中、幸哉は残っている自分の分のケーキに手をつけ始めた。




というわけで初の誕生日回でした。「なんで本編で活動停止されてるのにライブにいるの?」というツッコミに関しては短編時空なんで許して。
ここでネタばらしとなりますが、優希は再びステージに上がることになります。つまりアイドルとして復帰する先行登場というわけです。
このお話が上がった2日後はミリシタ9周年。2週間くらいある長いイベント期間です。リフレッシュタイムや周回に疲れたらこの作品を思い出していただければ、と思います。

それでは、次の更新をお楽しみに。

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