空を舞い歌う者   作:ラン乱

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告げられる異形

朝日が、ゆっくりと東の山々の稜線から姿を現した。

その光が渓谷を照らし始めた頃、ヒューラは翼を広げて、空高く舞い上がった。

 

「……一刻も早く伝えなきゃ」

 

心の中でそう呟きながら、鋭い風を切って飛ぶ。

 

村に戻るまでの空路は、それまでに何度も通った道。しかし今日は、景色すらも霞んで見える。あの異様な魔物の姿が、脳裏に焼き付いて離れなかった。

 

やがて、リトの村が視界に入り、翼をたたんで広場へと舞い降りる。

 

そこには、見慣れた光景があった。

リーバルが子どもたちに囲まれて話をしていた。

弓の構え方を誇らしげに語る姿に、子どもたちの目は輝いている。

 

「それでね、高く舞い上がって、風を利用するんだ。そうすれば重力に逆らわずに一気に射線を取れる――」

 

ヒューラが着地する音に気づき、リーバルがふと顔を上げた。

 

「おや、早かったじゃないか。」

 

「リーバル、ゼルダは今日どこか行く予定、ある?」

 

真っ直ぐな問いに、リーバルは軽く目を見開いた。

 

「どうした?……まさか、ゼルダに会いたくなったのかい?」

 

だが、返ってきたヒューラの表情は、いつもの皮肉っぽさも怒りもなかった。ただ――深刻な、重い面持ちだった。

 

リーバルは顔から笑みを引き、声を落とす。

 

「……何か、あったのか?」

 

ヒューラは頷き、一言だけ告げた。

 

「すぐにゼルダに伝えた方がいい。あんたも来て。」

 

その言葉に、リーバルは言葉を挟まず、すぐに頷いた。

 

二人は翼を広げ、風に乗る。空はすでに朝の光で満ちていたが、ヒューラの心はどこか曇っていた。

 

ハイラル城。威容を誇る白壁の城門前に、二人は並んで降り立った。

 

門兵の一人が気づき、リーバルに一礼する。

 

「おや、リーバル様と……ヒューラ殿ですね。お疲れ様です。」

 

「ゼルダ姫は今どこに?」

 

「はい、ただ今は城内西翼、古代の遺物が保管されている区域におられます。」

 

「助かった。ありがとう。」

 

礼を言い、二人は迷いなく城内へ足を進めた。

 

城の中は、まだ朝の準備で静けさが残っていた。

響くのは、ブーツの音と、羽音だけ。

 

やがて通路を抜け、広間の先に、石造りの回廊が広がる。そこに、数々の古代技術の遺物が並んでいた。ガーディアンの欠片、古代炉の制御装置、謎のエネルギー結晶――

 

その一角に、ゼルダとリンクの姿があった。

 

ゼルダは何かの記録板に視線を落としており、リンクは彼女の傍で静かに佇んでいた。

 

ヒューラの気配に気づいたゼルダが、顔を上げて駆け寄ってくる。

 

「ヒューラさん……!今日はどうしたんですか?」

 

その声に、ヒューラは口を開く。

 

「ゼルダ。……悪いけど、話したいことがあるの。少し、静かなところで。」

 

ゼルダは戸惑いながらも、彼女の目を見てすぐに察した。

 

「分かりました。こっちに行きましょう。」

 

リンクもその場に残り、ゼルダとヒューラ、そしてリーバルは静かな中庭へと移動した。

 

中庭には水が張られた小さな池と、古い樫の木が一本。小鳥がさえずり、まだ陽光はやわらかかった。

 

ヒューラは池の縁に腰を下ろし、目を閉じて深呼吸を一つ。

そして、口を開いた。

 

「……今朝、北の渓谷に行ってきた。村の人たちが見慣れない魔物を見たって言ってたから。」

 

ゼルダとリーバルが頷く。ヒューラは淡々と、しかし確実に重さを帯びた言葉で続けた。

 

「そこで見つけたのは……見た目こそモリブリンだった。でも、明らかに異常だった。」

 

「異常、とは……?」

 

ゼルダの声は真剣だった。

 

「肌は青黒く変色してて、全身に紫色の靄みたいなのが立ち昇ってた。攻撃を仕掛けたけど、脳天に矢を撃ち込んでも倒れなかった。首が、180度回転して……こちらに向かってきた。」

 

「……それは……」

 

リーバルが息を飲む。

 

「痛みも感じてなかった。爆弾矢を食らっても、焼け爛れながらも何の反応もなく……。結局、動けなくなるまで、細かく斬って、ようやく止まった。」

 

「……そんな……」

 

ゼルダの瞳に浮かんだのは、恐怖ではなく、“確信”だった。

 

「それは……恐らく、“厄災の影”です。」

 

「影……?」

 

「本体が復活する前に、大地や魔物の意識を蝕み、侵食して変質させてしまう存在。かつての文献にも記述がありました……でも、もう現れ始めてるなんて……!」

 

リーバルが腕を組み、唸るように言う。

 

「つまり、厄災はまだ“完全復活”していないが、その影響が地に及び始めている……そういうことか。」

 

ヒューラは言葉少なに頷いた。

 

「だから、ゼルダ。すぐに対策を講じてほしい。あれは普通の魔物じゃない。普通の戦い方じゃ通用しない。放っておいたら、村や他の場所も危ない。」

 

ゼルダは拳を握りしめた。

 

「ありがとう、ヒューラさん。伝えてくれて……あなたが見つけてくれなければ、気づかずに被害が広がっていたかもしれません。」

 

「……私が望んだことじゃないけどね。」

 

小さく微笑むヒューラの横で、リーバルが言う。

 

「だが、君はそれでも飛んで伝えに来た。それだけで、十分すぎる。」

 

ヒューラは、短く頷いた。

 

空はすっかり朝の色を増し、城の上空に白い雲がゆっくりと流れていた。

 

だがその風は、確実に“変化”の前触れを運んでいるように思えた。

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